「小僧、こいつらに飯を作ってやってくれんか。」
「え?」




小松がここに呼ばれた理由がそれだと、マンサムは静かに告げた。





漸く部屋の暗さに慣れてくると、ひと塊りに固まっている彼らの様子がうかがえた。
黒い髪と幼さが残るが精悍な美しさを備え、自分よりも幼い子供たちを背後に庇いながら自分を睨んでいる、彼がココのようだ。
いつも知る彼から比べれば十分幼いと表現できるが、悲しいかな小松と比べれば、眼の前のココは十分逞しい身体をしている。
「……ココさんは、おいくつですか?」
思わずついた言葉に、訊ねられたココは目を大きく見張る。
だがまだ警戒心が解けないココは黙っていたが、それに答えたのはマンサムだった。
「今のココは、15歳だ。それと後ろに隠れているトリコは9歳、サニーは8歳、それとリンは3歳だ。まあこれでゼブラが加わっていたら、さらにややこしい事になってたんだろうが、幸いというか、今ゼブラは出所条件をこなしてる最中だ。ここには寄り付いていない。」
「そ、そうなんですか……」
正直、ちょっとだけゼブラの子供時代が見たかったなと、小松は不謹慎ながらも考えてしまった自分に反省し、先程から気になっていた事をマンサムに聞いた。」
「あの、皆さん年齢がバラバラなんですね。」
「ああ、毒の耐性の違いらしい。ココが一番耐性があるから一番進行を抑えられたんだ。リンは一番先にココが別の部屋に入れたんだが、間に合わなかった。」
なるほど、と思いながらココの陰に隠れている(といってもやはりはみ出している)青い髪や虹色の髪がひょこひょこと揺れているのを、小松は微笑ましげに見た。
(ふわ〜〜〜〜v)
事態は深刻だというのに、眼の前の愛らしさには敵わず、小松は思わず心の中で悲鳴を上げた。
すると、好奇心に負けたのか、ココの背後から空色の髪の毛の子供、トリコがひょっこりと顔を覗かせた。
当然といえば当然だが、9歳のトリコは同年代の子供に比べれば規格外の大きさだ。
それでも少し目尻のつり上がった大きな瞳を、ぱちくりとする様は小松をメロメロにするほど愛らしかった。
「こんにちわトリコさん。」
小松が挨拶をすると、ココがトリコを庇うように小松の視線からトリコを隠す。
が、トリコはココを押しのけて鼻をひくひくとさせながらココの背後から飛び出した。
「トリコッ!!」
ココの制止を振り切って、トリコは小松の側へと寄ってきた。
いつもの精悍な顔からは想像がつかない、可愛らしい顔のトリコに小松は思わずにへらと笑いかけた。
元来小松は子供好きだ。
しかし哀しいかな、身長は既に小松よりも少し小さいくらいなので、小松がしゃがむ必要はなかった。
その現実に打ちひしがれていると、トリコは小松の首筋をすんすんと嗅ぐとニッと笑った。
「お前いい匂いがするなッ!」
と同時に盛大にお腹を鳴らすトリコに、「お腹、すいてるんですか?」と尋ねると、大きく頷いた。
「ココが食べちゃダメだって。」
「え?」
トリコの爆発的な力と驚異的な身体的能力を生み出すには、一日に数万から数十万カロリーが必要だと聞いた。
ましてや今トリコは成長過程にあり一番栄養が必要な時である。
なのに食べていないとは……
「小僧を呼んだのは他でもない。こいつらが研究所の飯は食べないと言っててな……だから丸二日食べていない。そこで美味い飯が作れてこいつらに信用されてたお前さんを……」
言葉途中でマンサムが小松を見れば、頭の旋毛しか見えなかったが身体が震えているのが分かった。
「おい、どこか具合が悪い……」
「なんてことですかああーーーーーッ!!!!!」
泣く子も黙るマンサムでさえ黙らせる程の大声で小松は叫んだ。
そしてずんずんと妙な迫力を持ってココに近づき、その前で座りココの顔を覗き込む。
「ココさん、子供にとって食べる事は成長するために一番大切な事です。それを一番年上の、子供を守るべき立場のあなたが食べてはダメだとは、どう言う事ですかッ!!」
小松の迫力に押され気味なココだったが、きっと小松を睨むとぼそぼそと話し始めた。
「……うるさい。お前には関係ないだろ。大体この研究所の人間の作る食事なんて食べさせる訳にはいかないんだ。俺がこいつらを守ってやらないと……」
「だったら尚更ですッ!お兄さんなら子供たちの事をよく考えてあげてください。それにどうして研究所の食事は駄目なんですか?事情はマンサム局長から聞いていないんですか?」
幸いにもココは状況を把握できるだけの年齢だ。
「聞いた。だけど信じられない。また研究所の奴らが変な薬とか開発して食事に混ぜたんだって思ったから……」
そう言って後ろの一番小さなリンの手をきゅっと握った。
「マンサム局長〜〜〜。ここの人たちの教育はしっかりして下さいよ〜〜。」
小松にジト目で睨まれたマンサムは、だはははと少々焦りながらすまんと謝る。
「昔はわしの眼を盗んでこいつらにちょっかいを掛けてた奴らが結構いてな。その度にココがこいつらを守ってたからなあ……。」
一番年上のココが、必然的に兄のような立場になったのだろう。
「とにかく。」
小松は言葉を切ると、ココの手を取り両手で包みこんだ。
その不意打ちな行為に咄嗟に反応する事も出来なかったココは、茫然と小松を見た。
「これからは僕がご飯を作ります。これでも僕六つ星レストランでシェフをしてますから。食事に妙な薬を入れるなんて決してしません。何なら皆さんの前でご飯を作ってもいいですしね。」
そこで漸く我に返ったココは、自分の手を握る小松の手から慌てて手を引いた。
「ば、ばかかあんたッ!俺に不用意に触るなんてッ!!急いで手を洗って来い!!」
「へ?今ココさん毒をコントロールできてるんでしょ?大丈夫ですよ。」
「!?あんた俺の毒の事知ってて……」
「な?わしが言った通りの奴だろ?だから飯を食ってくれ。トリコもそうだがお前やサニー、リンも限界に近いだろ?」
「どういう事ですか?」
「こいつらがあんまり飯を食ってくれなくてな。だから俺が信頼に足る奴を連れてくるから、そいつが作る飯だったら食うって条件だったんだ。どうだココ、こいつは合格か?」
マンサムの言葉を聞いて小松はじっとココを見つめた。
兎に角ご飯を食べてくれないことには始まらない。
その必死の眼差しがココを見つめる。
やがてココは一つ息を吐いて。
「……あんた、単純そうだから、腹芸なんてできないんだろうね。」
「ひどいココさんッ!!」
そこに再びぐうう〜〜と地響きのような音が響いた。
「どうでもいいけど腹減ったんだけど。」
トリコがぼやけば、ココはどこかホッとしたように小さくほほ笑んだ。






……すいません。ぶっちゃけこの話を思いついた時に、ゼブラさん出てなくて、四天王(―1)で話を
進めていたので、ゼブラさん抜きになりました。ゼブラさんを加えて書き直せばいいんだろうけど、
プロットを結構先まで考えていたので、それを一から書き直すとなると……と考えて力尽きました……
(すんません)そこまでの器量が無いのです(土下座)


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