▼悲しみの螺旋・輝く未来 その2
そしてそこには自分独りしか存在しなくなった
空を仰ぎ風を肌で感じながら
少年は膝をつき涙を流す


僕がウインドラゴンの傍らに居続けた理由

僕はウインドラゴンが好きだったんだと思う

傍らに居る時に感じる風が好きだったんだと思う

時々戦いの中で守ってくれていたあの腕が好きだったんだと思う

それが例え『風のサーガ』を守るという本能から出ていた行動だとしても
僕は嬉しかったんだ

一度でいいから僕に向けられる笑顔が見たかった

怒ってる顔でも良かった、泣いてる顔でも良かったんだ

そんな感情のある表情が見たかった

でももう、それは叶えられない願い




しばらくして少年は立ち上がり
踵を返しある場所へ歩き出した

その顔にはもう哀しみの色はなく決意の色が見えていた

自分とウインドラゴンの絆を断ち切り

この悲しみの螺旋を断ち切ることの出来る唯一の存在

新しき風のサーガ

その少年との新しい絆を噤む場所




『風の神殿』




巨大な竜巻に護られた神殿
その竜巻のある一点に風の紋章がある
少年はその紋章に触れる
すると其処にあった紋章は姿を変え巨大な扉が現れた
扉は少年を招き入れるようにゆっくりと開く

臆することなく少年は中へ足を進める
少年が入ると扉は閉じて再び紋章へと姿を変える

この場所は風のサーガと呼ばれる者の聖域

その中心には直径50メートルくらいになる大きな魔方陣がある
魔方陣にはルーン文字や不思議な模様や記号が並べられている
そしてその中心には直径5メートルほどの風の紋章

少年はその風の紋章の中心に佇む

手を組むように合わせ
祈るように瞳を閉じた

魔方陣の周りに風が巻き上がり
そして魔方陣は輝きだす


少しづつ・・・少しづつ
自分の力をサーガとしての力を魔方陣へ送る

傍らにレジェンズのいないサーガのこの行動は自殺行為
止めることは出来ない
力どころか命まで取られてしまう

それは解っていた

でも少年は止める気はなかった

『自分のサーガとしての力をあの少年へ』

『自分の魂とサーガとしての力を引き離す』

『次に生まれるときは僕はレジェンズを知らない人間』

それで良いと思う
自分ではこの螺旋は断ち切れないから

苦しいのは今だけだから
悲しいのは今だけだから
もう両親もいない
友達もいない
戦いで全てが消えてしまったから
今の自分には何もないから

そんな運命を変えるために
今自分が出来ることをする

だから・・・・大丈夫

少年の息が上がる
力がどんどん抜けていくのが解る
そして意識が遠のいていくのも解る
自分の存在すら消えていく感覚

立っていることも出来ずに少年は膝をつく


一瞬少年の瞼の裏に光が走る
先ほどの様に戦いの未来に隠されたように見えるのではなく
鮮明にはっきりと見える世界

それは『輝く未来』

自分の知っているウインドラゴンではない姿をしている
でも確かに僕の知っている君
白い色と黒い色をした2体
黒髪の幼い少年の前で笑っている
怒ってる姿も見える
黒髪の少年の動作によってコロコロと表情を変える君




「!!!」
少年はある物を目にする
黒いドラゴンには『赤いピアス』
そして白いドラゴンには『飛行帽』

それを見つけたとき少年の目から涙が溢れる
涙が止まらなかった
でもこれは悲しみの涙じゃない

「僕が渡した物、ちゃんと持っててくれたんだ」

ここで少年は初めて心から笑う

「君達に僕の記憶はないと思う」
「それでも良いと思う」
「僕と共に過ごしていた証はちゃんと残っていた」
「その証は永遠に君達の傍らに存在するんだよね?」
「それだけで、それだけで僕は十分幸せだから・・・・」

「僕もこれから新しい未来に生きていくから」
「だから・・・君達も新しいサーガと共に・・・・」

少年の言葉はそこで消える

魔方陣の中に少年の姿は無い
光輝いていた魔方陣も光を消して
あとは静寂だけが残っていた














マンハッタンの空の下
リキリキリッキーズのユニフォームを着たシュウは
右肩にバットを持って
歌を歌いながら元気に歩いていた
頭にねずっちょシロン
左肩にわるっちょランシーンを乗せて

「俺が作ったずんだらめ〜のうた〜♪」
「ガガ〜♪」「ググ〜♪」

ポーンッと目の前にサッカーボールが転がってきた
シュウはそれを拾いあげる

「ごめん、ごめん、思いっきり蹴ったらこんなトコまで飛んでっちゃったよ」
「大丈夫?怪我なかった??」と
サッカーのユニフォームを着た赤毛の少年が近づいてくる

「大丈夫っすよ、当たってないし」
はいっとサッカーボールを渡すシュウ

「ありがとう」
そう言いながらボールを受け取る少年

「あれ?」少年は2匹に気がつく

「これ・・・・ねずみ?」少年が聞いてくる

「え?う〜んねずみ・・・・なのか?」
シュウがちょっと困った顔をする

「可愛いな〜こんな可愛い生き物見たことないや」
そう言って2匹の頭を撫でる

その瞬間2匹と少年の間に一陣の風が吹き抜ける
「ガガ?」「ググ?」

「おーい!何してるんだよ、早くボール!!」
少年の後ろからチームメイトらしき声が聞こえる

「おっと!いけね!!」
少年はボールを手にグラウンドに向かう

その少年を見送りながらシュウはふっと2匹に視線を移す
「え?うわ!!ねずっちょ!!わるっちょ!!どうしたんだよ?」

2匹は泣いていた
しかも大粒の涙をボロボロと
「え??ええ???えええ〜〜!!!」
慌てるシュウ

2匹にもこの涙の意味が解らない
ただ止まらないのだ
心の奥から湧き出る感情



この涙は心を手に入れたウインドラゴンの
かつて傍らに居続けた少年が望んでいた
自分だけに向けられた感情


最初で最後の別れの涙





おしまい


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あとがき

風3幸せ計画のために
ちょっと前サーガには悪いことしたと思います
オリジキャラだからやりたい放題してしまいました
すいません(平謝り)
でもこれでシュウは生まれ変わっても
サーガとして2竜の傍に居ることが出来るぞ!!
2竜も寂しくないはずだ!多分