▼MARIA 3
ザアアァァァ・・・・・


「・・・・・・・ん・・・」
アースがゆっくりと目を開く
自分達は今地上にいることは解る
ザアアア・・・と雨が降る音
普段温暖な地域のはずなのに異様に肌寒い
それもそのはず
今は雨になっているようだが地上を見れば解る
雹が降っていたのだ
いくつもの氷の粒が周りに見える
バスタブはひっくり返った状態でしっかりとアースとエイクを護っていた
アースはエイクを抱いたまま雨の降る中バスタブから這い出る
そしてアースは目を見開く
雨の中その場所はかつて町だったはずなのに
瓦礫と死体の地獄絵図だった
色々な場所から人のうめき声や助けを求める声が聞こえる

はっと我に返るアース
母親の姿が無いことに気が付いたのだ
「ママ・・・どこ?ママァ!!」
泣きながらエイクを抱いて雨に濡れながら母親を探すアース

マリアの姿は何処にもなかった

自分達を包んでいた毛布は真紅に染まり
バスタブには母の欠片である
食い込んだ爪だけ
それだけが残されていた

ニュースを見て
慌てて出張先から戻ってきた父親ダトー
夜には町に戻り
保護されていたアースとエイクの無事な姿をみて
安堵して目に涙を浮かべる

だが妻が行方不明
無事であってほしいと望むダトーの願いは
無常にも崩される

翌日連絡が入ってきた
アースとエイクが発見された場所より
数100メートル向こうの木にひっかかっていた遺体を回収したが
容姿と着ている服の話からマリアでは無いかと
確認をお願いしたいという連絡が

霊安室の前に来たとき
施設の人が
子供たちを中に入れるのを止める

その意味をダトーは理解して
アースに話かける
「アース、悪いけどパパ、ママと会ってくるから
ここでエイクと良い子で待っててくれないか?」

「なんでママに会っちゃいけないの?
ママ・・・アタシとエイクのこと嫌いになっちゃったの?」
目に涙を浮かべて聞いてくるアース

「そうじゃないんだ、ただ、今は会えないんだよ
ごめんね、我慢して待ってて・・・」
優しくアースの頭を撫でて宥めるダトー

そして霊安室に入っていく

しん・・・と静まりかえっていた部屋の中

しばらくして
部屋の中から父親ダトーの嗚咽の声が聞こえてきた

普段決して泣くことのない父親の嗚咽の声

その声の意味がまだ理解出来ない姉弟

その意味を知るには幼すぎた過去



あれから8年
町は目まぐるしい速さで復興し
今ではそんな大竜巻があったことすら解らないほどに町並は戻っている
だたどんなに復旧しようと町やそこに住む人たちの記憶の中に
あの竜巻の爪あとはしっかりと残っていた

かつて『シーナッグ』と呼ばれた町は
誰とも無くサイクロン(竜巻)から『シークロン』と呼ばれるようになっていた


8年前のこの日
多くの人々の命を奪ったこの日に母親を失った姉弟は
父親と一緒に母親のお墓参りに来ていた

穏やかな風の吹く海の見える丘の上に
マリアが眠る墓がある

マリアの好きだった百合の花を大きな花束にして
1年に1度子供達の成長をマリアに見せに来るダトー



マリア、あれから8年経った
アースは14歳になってエイクは10歳だ

アースはお前に似てきて綺麗な娘になったと思う
今では炊事・洗濯・掃除なんでもこなしてくれてな
とても助かっている

いつでも嫁さんに行けるなって言ったら
『私がお嫁さんに行ったらパパもエイクも飢え死する』なんて言われたぞ
まあ、嫁に行くのは寂しいが、むしろ出したくないくらいだが
アレなら何処に嫁いでも恥ずかしくない娘だ

エイクはお前の言ったとおり
俺に似て大きな子になってきたな・・・
身長も体重もクラスで1番・・・
というか上級生よりも大きいらしい

将来はサッカー選手になりたいみたいだ
足が遅いし動きも鈍いから、なれるか微妙だけどな

図体ばっかりでかくなってはいるが
甘えん坊な所はあんまり変わってないかも知れないな
だが、優しくて良い子に育っているぞ

お前がいつも望んでいた子供達の成長
これからも出来うる限りお前に見せに来る

だから安心しててくれ

お前が命を賭して護った大切な宝

いつか成長して二人が俺の元から巣立つまで

それまでは俺が護っていくから

約束する

だからお前は其処から見守っててくれ


マリア


百合の花を墓に供え
親子は手を合わせる

するとさっきまで雲で隠れていはずの太陽が
雲の隙間から顔を覗かせる

太陽が優しく親子に降り注ぐ

その太陽の光は暖かく
そして優しく・・

まるで天から見守っていると
マリアが言っているかのようだった


おしまい