▼MARIA 2


アースはリビングで宿題を
その横でエイクはテレビをつけて
お気に入りのアニメのビデオをかける

マリアはお皿をキッチンに持って行き
洗うつもりで水道を回す
「・・・・?」
水が出なかった
代わりに変な音がする
空気が吸い出される空吸いの音。

「な・・・何?」
心なしか家も振動していて
窓もさっきより酷くガタガタと音をあげている

今日は風の強い日
そう思っていただけのことだったのに
マリアは窓の外を覗いてみる

「!!!」

そこには信じられない光景が映し出されていた

真っ黒な夜のような雲から下の地上へと続く巨大な渦を巻く空気の柱

大竜巻

大きさにして数百メートルもあろうと思われる巨大な竜巻は
猛スピードで小さな町を飲み込み
確実に周りの建物や木々を薙ぎ倒し巻き上げていく

そしてこの家もまたその進路に入っていた

マリアはそれを見て一瞬で判断する
『このスピードと規模では逃げられない』

慌ててマリアは子供達の居るリビンクに向かう
迷っている時間など無かった

「アース!!エイク!!」
母親がリビング飛び込んでくるのをきょとんとした目で見つめる姉弟

マリアは先ほどまでエイクが寝ていて使っていた毛布と
アースの工作用ボンドを手に持ち
エイクを抱き上げ
そしてアースの手を握り走り出す
「え?何??ママ!!痛い!!」
強く握られ引っ張られる手に痛みを感じるアース

マリアが向かう先
そこは
バスルームだった

「お風呂場・・・?」
アースは訳が解らない

ガタガタとさらに家の振動が大きくなっていく

「アース、エイクをお願い、しっかり抱っこしててね」

「う・・・うん」

そう言ってアースにエイクを抱かせるマリア
二人をぎゅうっと抱きしめアースとエイクの頬にキスをする
バスタブの中の排水溝の栓にボンドを隙間無くつけてしっかりとはめ込み固定し
その後二人を毛布に包みバスタブの中に優しく入れる

「ママ・・・?」
アースが心配そうに声をかける
「アース、いい?毛布をかぶって頭を低くしててね、頭を上げてはダメよ
エイクを抱っこして絶対に放さないでね」

「・・・・うん」
ここまでくるとアースにも徐々に感じるものがある
外からゴオオオ・・・と唸る轟音が聞こえてくるのだ

電気がパパッと点滅したかと思うと
ふっと消える
辺りは夜のように真っ暗になっている

気圧の変化なのか耳鳴りまでキィンとする



近づいてきている・・・

逃げられない

ならば私は今出来ることをして子供達を護り抜く

マリアはバスタブの両端を両手で掴み
子供達を護るように蓋をするかたちで覆いかぶさる
そして普段出すことのない翼をバサリと広げ
バスタブを包み込む


神様・・・お願い
私はどうなってもいい

子供達だけは

この愛しい2つの命だけは助けてください


「アース・・・エイク・・・愛してるわ」
近づいてくる轟音の中で
そう小さく呟くマリア

「え?・・マ・・・」
ママ?とアースが声を出そうとした瞬間

ドオン!!という衝撃音と共に
ジェトコースターのように体が中に浮く感覚
回転しているのか遠心力でバスタブの中で強い圧力を感じる
「キャアアアアア!!!」
アースは悲鳴をあげた
「うぇええぇぇん」
普段大人しいエイクも恐怖で泣き出す
衝撃の強さにバスタブから放り出されそうになったとき
背中に柔らかな肌の温もりを感じた
マリアが身を挺して子供達がバスタブから放り出されるのを防いでいたのだ

バスタブの外は竜巻の渦の中
自分達は今地上から離れて空にいる
色々な壊れた家の破片や木々、ガラスすべてが弾丸のようになる世界
その弾丸が今まさにマリアを襲っていた
小柄な体にいくつもの破片が突き刺さり
バスタブを護る翼にも突き刺さる
それでもマリアはバスタブから手を放さずしっかりと握りしめる

今・・・この手を放せば
この破片は子供達を襲う

それだけは

それだけは防がなければ

神様

神様

お願いです

私に力をください

子供達を護る力をください

その小さな体の何処にそんな力があるのかわからないほどに
さらに力を込めてバスタブに爪を食い込ませて固定させるマリア
多分一生に一度出せるか出せないかの力

体は真紅に染まり
弾丸で無数の穴が開いていくマリア
痛みも苦しみも
今、子供達を護る力になるのならば
私は耐えることが出来る







貴方・・・ダトー

私は子供を護ることが出来た?

消え逝く意識の中で
マリアは夫を思い出す

教会で結婚式を挙げた日
二人で愛を誓い合ったあの日

私は幸せでした

アースが生まれて

初めて笑った日

初めて立った日

初めて「ママ・・・」と呼んでくれた日

私は幸せでした

エイクが生まれて

私が
「この子は手・足が大きいから
きっと将来貴方に似て大きい子になると思うわ」って言った時

貴方は少し照れくさそうに笑って「そうだな・・・」って言ったわね

全てが光り輝く宝石のような幸せな思い出


貴方・・・一緒に歩いて行くことが出来なくてごめんさない

アース・エイク・・・貴方達の成長を見続けることが出来なくてごめんなさい



ダトー・・・
愛してるわ



アース・エイク・・・

可愛い子

愛しい子達

願わくば、すこやかに・・・・