▼ハ ム ス タ ー パ ニ ッ ク - 後編(頂き物)

「父さん、ハムっちょは?」

二階から降りてきたシュウがリビングへと駆けつけてみると
サスケが家具をずらしてる最中だった。

「あ、シュウ丁度良かった。この隙間から取り出せないかな?」
「うん、やってみる」

小柄なシュウが、家具と壁の隙間から頭を突っ込むと、隅っこで怯えて丸くなっている
ハムスターと目が合った。ずらした家具が上手い事他の逃げ道を塞いでくれているので
もう逃げられる事はないだろうが、これ以上相手を脅かさないように、シュウは慎重に手を伸ばす。
大丈夫、怖くないって。
ねずっちょを摘み上げた時の乱暴な仕草からは見当も付かない程、静かに息を殺す。

ふわり。と、一瞬風が舞った。

ピクリと小さな体を震わせたハムスターだったが、優しい風の気配に警戒心を解いたのか
抵抗するそぶりも見せず、大人しくシュウの手のひらに収まった。

「よっしゃー!ハムっちょゲットだぜー!!」
「ああ、よかった。シュウ、ありがとう」

手のひらの上で、きょとんと見上げるハムスターに父子は安堵の笑みを浮かべる。
ターゲットを確保した所で、今度は囮部隊の救出だが、さてどうしたものか。
と、その時。
トントンと軽やかな足取りで少女が階下に下りてきた。
瞬時に父子の動きが止り、ほぼ同時に同じ仕草で少女の様子を伺う。

「あのぉー…、おトイレどこですか?」
「ああ、こっちだよ。ついておいで」

階段の横で少し恥ずかしそうに少女が問うと、すかさずサスケが前へ出る。
少女を前へ歩かせ、さり気なく自分の体で死角を作りシュウから遠ざける。
目配せでシュウに合図を送ると、シュウは素早く階段を駆け上がり自室に飛び込んだ。

「ねずっちょ!わるっちょ!!」

小さな全身に疲労を滲ませ、半ば放心状態のねずみ二匹の下に駆け寄ると
シュウはケージを開け、シロンとランシーンを外へ出してやった。
そして入れ替わりに、本来の宿主のハムスターを中に入れて扉を閉める。

「ガァ〜…(あ〜、ようやく開放されたぜ…)」
「…」

ランに至っては、言葉も出ない様子だった。

「二人ともサンキュ!!悪いけどさ、もう少しここで隠れててくれな」

ケージを持って再び踵を返して階下に下りていったシュウを見送って
机の上にペタリと座り込んだねずみ二匹は、放心状態のまま呟いた。

「ガ…ガガ(…おい、お前いつまでヒマワリの種くわえてるつもりだ?)」
「グ、ググ…ググ(誇り高きウインドラゴンたる我らがこんな…ブツブツ)」
「ガ…ガガガ(……。いいや、ほっとこ…)」

深く追求しないほうが身のためのようだ。


夕刻に出先から戻ってきたジャックが、ハムスターと少女を引き取ると
マツタニ家にようやく安息の空気が流れた。
再び家族全員リビングに集い、ティータイムの仕切り直しをする。

「シロンさん、ランシーンさん、ご苦労様。疲れたでしょ?」

母・ヨウコの穏やかな笑顔に癒されつつ、手作りのシフォンケーキにかぶりつく。
絶妙の甘さ加減とふわふわのクリームを乗せたケーキの味はまさに絶品で
体に溜まった疲れがすうっと引いていくような幸福感に包まれ
父子とねずみ二匹の顔は、文字通りふやふやに綻んでいた。
ふとシュウは食べる手を休め、幸せそうにケーキを食む二匹を見遣る。

「どうしたんだい、シュウ?」
「んー…、なんていうかさぁ。やっぱ外のがいいよなって」
「外?」
「うん。ハムっちょも、本当はあんな狭いとこ嫌だったのかなって思ってさ」
「そうかもね。時々は出してあげたほうがいいかもしれないね」

一風変わったねずみ達の下手なハムスター芝居は確かに滑稽で面白かったけれど
それでも本来の姿で大空を舞う姿のほうがずっとずっと好きだと思った。
小さい時も自由に室内を移動する二匹は、気の向くままに昼寝したり本を読んだり
思い思いの過ごし方をし、時には母ヨウコの手伝いをしたりもしている。
それが当たり前になっていたからか、尚更ケージの中が窮屈に感じられたのかもしれない。

シュウは自分の分のシフォンケーキをフォークで2つに切り分けると
シロンとランシーンの皿に添えた。

「頑張ったから、おすそわけ!」

驚いて顔を上げた二匹に、いたずらっ子のような笑顔を見せて
シュウは自由を愛する風のねずみ達を労った。


おしまい


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Windiaの鈴様にリクエストをして書いていただきましたw

鈴様の描いたねずわるのイラストがとても可愛くて
ひまわりの種を食べる振りをさせてみたり
滑車を回させてくださいとお願いをしたのですw
とっても可愛いお話でほのぼのしましたw
すごい嬉しいですww
本当にありがとうございます<(_ _)>
忙しいところありがとうございましたv

そして文字制限の都合上
本来前・後編だったものが
前・中・後編になったこと深くお詫びいたします