▼ ハ ム ス タ ー パ ニ ッ ク -中編(頂き物)

「…どうだいシュウ、見つかった?」
「いたけど…隙間の奥のほうに篭っちゃって、ここからじゃ届かないよ」

懐中電灯をかざし、身を屈めて棚の隙間をうかがっていたシュウが顔を上げた。
不可抗力とは言え、シロンのせいで預かりもののハムスターに何かあってはマズイ。
ジャックの帰宅予定は夕刻なので時間はあるが、怯えてる彼を脅かさないように助ける必要がある。

「仕方ない、棚をずらして彼を出してあげようか」
「いや、それよりもさ…」

腕まくりをしたサスケを制して、シュウはおもむろにテーブルに近づくと
ケージの手前で大人しく事の成り行きを見守っていたシロンをガッシリと鷲掴みにした。

「お前のせいだからな、あいつをちゃーんと連れてこいよ」
「ガガ、ンガガ…(おいコラ、何すん…)」
「そーら、行ってこーい!!」

ポイッ!

シュウに棚の隙間に投げ込まれ、抗議をし掛けたシロンだったが
確かに今回は自分のせいなのでしぶしぶ奥に向かって歩き出す。

「ガ、ンガガガ(ったく、しゃーねーな。よお、俺が悪かったって。早くこんなとこから出ようぜ)」
「・・…」
「ガガガ…(おいって…)」
「………」
「ガーガガガガ!(あーもうめんどくせぇ!いいから出るぞ!」
「ぅきゅー!!」
「ッガーガガガ!!(っだー!コラ暴れんじゃねぇっ!!)」

「…何やってんだよ、ねずっちょー」
「グググーフググ(全く、だらしないですね。ハムスター1匹まともに連れ帰れないとは)」
「ガガ!ンガガ!(るっせーな!コイツが動かねーんだよっ!てかワル夫、てめーも手伝え!)」
「グググ(嫌ですよ。あなたの不始末なんだから、自分で何とかしなさい)」

壁の角にしがみ付いて動かないハムスターを引っ張り出そうとして悪戦苦闘してるシロンを
隙間から様子を伺っていたシュウとランシーンがすかさずツっ込んだその時。


ピンポーン☆


「あら、誰かしら。はーい……シュウ、お客さんよ」
「えー、俺?ってか、誰?」

来客の対応は母・ヨウコに任せ、父子は引き続きリビングの棚にへばりついていると
しばらくして玄関先からヨウコに呼ばれた。客という言い方に少々引っかかる。
クラブメンバーや野球チームなら顔見知りなので名前で教えてくれるはずだからだ。
首をかしげながら玄関へ向かうと、自分より小さな見知らぬ少女が立っていた。

「…えーっと。キミ、誰?」
「あら、シュウの知ってる子じゃないの?」
「んにゃ、知らない子」

「ハーちゃん、いますかぁ?」

「ハァ?」
「ハーちゃん…って誰かしら?」
「あのね、ハムスターのハーちゃん。パパがここにいるって」

……。

「ハムスター……って、げげっっ!!!」
「(もしかして、あの子の飼主さんの娘さん?)」
「(ヤ…ヤヤヤヤバイって!!)」
「あの〜、ハーちゃんここじゃないの?」
「ああああのさ、えーっと、ちょ、ちょーっと待ってな!(母さん足止めお願い!)」

風のようにサッっと踵を返し、シュウは速攻でリビングへ戻っていくと
棚の隙間にかがみこみ、すかさずシロンを呼んだ。

「おい、ねずっちょ!ちょっと来い!」
「ガ?ガガガ…ンガ!?(あ?今度はなんだよ…って、おわ!?)」

シュウは隙間から出てきたシロンを再び鷲掴みにすると、勢いよくケージへ放り込んだ。
てめー何しやがると言わんばかりにがなるシロンを無視して、ケージを持って玄関へ行き
少々引きつった笑顔を浮かべながら少女の前に差し出す。

「ほ、ホラ、このとーり元気にしてるぜ!」
「ガ…(おい…)」
「(静かにしてろって!飼主の女の子だぞ!)」
「ンガ!?(なに!?)」

「ハーちゃん元気で良かったー!ねえ、お兄ちゃん」
「はい?」
「その黒い子はお兄ちゃんの?」
「そ、そうだよ。ランシーンって言うんだ」
「わあ可愛い!ねえ、見せて見せて」
「玄関先じゃ寒いから、家の中へどうぞ」
「か、母さーん(そりゃマズイって!!)…そうだ!許せワルっちょ!」

「…ググ!?(ちょ、サーガ!?)」
「ちょっと今リビングが散らかってるからさ、俺の部屋でこいつら見ててよ」
「わーい、お兄ちゃんありがとう!お邪魔しますv」

そうして成り行きからワルっちょまでケージに放り込まれ、2匹はシュウの部屋へ運ばれてしまった。

「「………」」

ケージの中で呆然と佇む2匹を不思議そうに眺める少女の視線が痛い。
方や仏頂面で滑車を回し、方や屈辱に耐えながらヒマワリの種をガリガリ齧る伝説の生き物は
顔を引きつらせ必死に笑いを堪えながら階下へ消えていった己の主を
恨みがましい視線で見送り…冒頭の状況へと至る。