▼子供の特権 1(グリディノ)
ある日の夕方
スパークス邸の庭にある温室にその少年は居た

金髪で少し細身の少年
ディーノ・スパークス
この家の子供である

今ディーノは薔薇の手入れをしていた
朝と学校から帰ってから薔薇の手入れ
それが彼の日課だった

今日は胸に挿している薔薇はない
グリードーはお留守のようだ
というか最近グリードーはお留守が多かった

「ふぅ・・・・」少しため息をつく
「休憩で紅茶でも飲みに戻ろうかな・・・」
どうも薔薇の手入れにも気合が入らないディーノ

温室を出て応接間へ向かう

「お!ディーノじゃねぇか?」
声を掛けたのはグリードー
手には大工道具を持っている

「グリードー、今日は何をするの?」ディーノは聞く

「オヤっさんに頼まれてな、屋根の修理を今からしに行くとこだ」

スパークス邸は大きな家だが
最近ダックマインドカンパニーを売って
ダックダック・トイズを立ち上げたはいいが
売り上げはあまり良い訳ではなく倹約生活が続いている
そのため今ではメイドや使用人は一人もいない
食事はメリッサが作っている状態だ

GWニコルは風の2竜と違い小さくはなれない、彼らの食費は半端ではないのだ
グリードーは少しは手伝いになればと最近家の修繕は自分でこなしている
勿論ウォルフィーやリーオンも出来る事は色々と手伝っている
ウォルフィーに至っては人型なのもあって週2〜3回出稼ぎ(土方)に出ていたりする
『働かざる者食うべからず』それが彼の心情だ

だからと言ってディーノを疎かにしている訳ではない
ディーノが出かける時はいつも薔薇になって付いて行っている
離れているのはスパークス邸内だけである

「これから何処か出掛けるのか?」とグリードーが聞く

「ううん、ちょっと疲れたから紅茶飲んで休憩しようと思ってね」

「疲れたのか?カムバックするか?」

「そんなんじゃないよ」
笑顔で言うディーノ

「そうか・・・」

しばらくの沈黙

少し考えて、ディーノが口を開く
「あのね、グリードー」

「あ!!いたいた!!お〜い!グリたん!!」
ディーノの言葉を遮りグリードーの後ろからリーオンが呼びかける

ディーノにちょっと待ってと言うような手で止めるポーズをして
グリードーはディーノに背を向けリーオンの方へ向く
「その呼び方ヤメロっつってんだろが!!」

「わりぃわりぃ」頭を掻きながらリーオンは言う
「でさ、今ウォルフィーが風呂場の修理してるんだけど」
「なんかドライバーっての?が要るからグリードーから貰って来いって言われてな?」

「ドライバー?」そう言ってグリードーは工具箱を開けてドライバーを取り出す

「ほらよ、2個あるから別に急いで返しに来なくていいが」
「使い終わったら返せよ、その辺置いてたら無くなるから」
ドライバーをリーオンに渡す

「さんきゅーグリードー!んじゃ、俺風呂場に戻るわ」
リーオンはグリードーに背を向けて風呂場へ向かった

それを見て再びディーノへ向き直るグリードー
「待たせたな、で、何だ?」

「うん、あのね」再び口を開きかけた時

「あ!グリードーさん!探してたんだよ〜!!」とメリッサが声を掛ける

「ん?」メリッサへ向くグリードー

「台所の火が上手く点かないんだ、このままじゃ晩御飯が作れないからね」
「出来ればちょっと手伝ってくれないかい?」

「お安い御用だぜ、おっ母さん!」返事をするグリードー
「ディーノ、話は後でいいか?」と聞いてくる

「あ・・・うん、別にたいした用事じゃないから・・・」

「そうか?じゃあ、ちょっと行って来る」
そしてグリードーはメリッサと行ってしまった

ひとつため息をついてディーノは応接間に向かう




応接間に着いてソファーに座り
少し目を閉じて考えるディーノ

グリードーは色々な事によく気がついて
結構皆から頼りにされてる
むしろ引っ張りだこだ
それはよく解る
僕もそんな彼のサーガだから鼻が高いし
嬉しいとも思う

グリードーがしてる事は僕の家の事で
家の事を考えてしてくれている事で
そんな事に我侭は言っちゃいけない

・・・・・でも

「寂しいな・・・・」と小さく呟く

最近2人(1人と1竜)で居る事が少なくなったと思う
そりゃ学校とかは2人で出る訳だけど
学校でリボーンする訳にいかないし
何より他の生徒がいるから2人という訳じゃない

帰ってきたら家の中を走り回って色々手伝いしてて
落ち着いたかと思うと傍にはウォルフィーとリーオンがいて・・・

「・・・・・・はぁ」大きなため息が出る

家の中は本当賑やかになったと思う
明るくなったと思う
使用人は居なくなって人は減ったけど
昔のあの孤独な雰囲気は無くなった


でも・・・この寂しさはなんだろう・・・・




「・・・・あ!」
ディーノが何かを思い出したように目を開ける

ガバっとソファーから立ち上がり
「しまった!もしかして学校に宿題忘れてきた?」
慌てて自室に戻るディーノ
部屋に戻り鞄の中を見る
「・・・・・やっぱり」

なんて失敗、今までこんな失敗する自分じゃなかったから余計に悔しい
宿題持って帰るの忘れて翌日宿題忘れたなんて恥もいいとこだ

「学校に取りに戻らなきゃ」
外を見ると夕方のため空は赤い
「早く行かなきゃまずいな・・・・」

そう思いながらグリードーを呼びに行こうと部屋を出る

台所に近づいたらメリッサとグリードーの声が聞こえてきた

「いや〜!助かるよ、その翼!火加減もお手の物なのかい?」
フライパンを片手に持ってグリードーの翼に乗せているメリッサが言う

「火加減どころか引火しないようにしたり」
「火傷しないようにしたり何でも出来るぜ」
得意げにグリードーは話す

確かにそんな調節が出来ないとディーノが火傷したり
家の中を平然とうろうろ出来る訳がない

そんな楽しげな会話をドアの向こう側で聞いていたディーノ
料理の途中と言うのもあって
なんだかグリードーを呼ぶのも悪いと思ったのか
ディーノはそのまま台所から離れて学校へ向かった