漆器あれこれ
★本物の漆器?=なかなか買えない漆器
本物の伝統的な丈夫な漆器とは、たとえば椀でいえば布着本堅地という方法でつくられた椀になるかと思います。
これはケヤキや栃の木を伐採してから何年も「ねかし」、板にしてまたねかし、ろくろで荒削りしてまたねかし、そしてやっとろくろで仕上げ削りをした木地に「本漆」の「生漆」で「木地固め」をして縁や高台に麻布で「布着せ」をして「地ノ粉」の「サビ」で「下地」(一辺地、二辺地、三辺地の3回)をして、本漆で下塗り→中塗り→上塗り、「加飾」をして完成となります。
簡単に書きましたがこのほかにまだまだ細かい工程があり、工程ごとに「ねかし」が入るので、とても時間がかかるのです。
このような本物の漆器は使い方さえ間違えなければ丈夫で長持ちします。
しかし漆器といわれるものには本物、漆器もどき、中国製、大正昭和などの古い漆器と種類が多く消費者がそれを判断するのは難しいものです。
違いはやはり値段で判断するのが無難で、さらに詳しい説明ができる店で買うことです。
そして出来立てのほやほやのようなものでなく、デッドストックのようなものがお勧めです。
そのようなものは漆がかちかちに硬化しており傷がつきにくく、また木地の狂いがあるものはゆがんだりひびが入ったりしていますので、それ以外のものは当たりということです。
  
●「ねかし」:材木の場合は何もしないでおいておくこと。主に含水率を下げて十分にくるわせるため。漆の場合は工程ごとに時間をあけて十分乾燥硬化させるため。このねかしが不十分だと良くできないし完成してから壊れることがあるのです。

●「本漆」:日本産やアジア産の漆の木からとった混ぜ物なしの漆です。カシュー塗料や新うるしはかぶれにくく安く扱いやすいですが本漆ではありません。カシュー塗料はカシュ−ナッツの殻から搾りだした油が主な原料で、漆に性質が良く似ておりカシュー漆とも呼ばれています。新うるしも植物性樹脂が主な原料の塗料です。ウレタンは化学合成塗料です。

●「生漆(きうるし」:漆の木からとった液のごみをとりのぞいただけの漆。日本産はきわめて少なく高価で、ほとんどが中国などのアジア産です。

●「木地固め」:木に漆を食い込ませ次ぎの工程の漆の吸い込み防止と接着をよくするため。

●「布着せ」:麻布や寒冷紗を漆ではって欠けや木地のゆがみを防止するため。

●「地ノ粉」:古代のプランクトンが堆積した土(珪藻土)で、これを焼いてふるいにかけたもの。空隙が多いので漆の食い込みが良い。

●「サビ」:地ノ粉や砥粉に生漆を混ぜて作ったパテ。

●「下地」:サビをつけて研いで表面を滑らかにするためと漆を節約するため。

●「加飾」:蒔絵や沈金等で模様をつけること。


★漆器もどき?=手頃な漆器
漆器もどきとは、木地が本物の木であっても塗りがカシュー(特徴として多少臭いがします:本漆はほとんど臭いがしません)とかウレタン(臭いがしませんので安いものはウレタンが多いです)であるとか、木地が合成樹脂や天然木加工品(木粉を合成樹脂で固めて成型したもの:特徴として重い)で、塗りがカシューやウレタンのものなどかなりの種類があります。
しかしながら価格が安く使いやすいというメリット(といえるかどうか?)は一応あります。
昔漆器の臭いは米びつに入れると良いなどと言っていましたが、前述したように本物の漆は完全に乾燥硬化するとほとんど臭いはしませんので、販売する時点で臭いがするなどというのは・・・・・です。
しかし今は品質表示法が厳しいのできちんと「塗装:カシュー」とか「塗装:ウレタン」とか書いてあるので判断できます。
でも偽装表示続出の昨今何が本当か分かりません。
また「塗装:漆」と表示してあっても、手塗りでなく最後の一回だけ混ぜ物漆のスプレー塗装だったりと、細かく見るときりがありません。
そのため本物の漆器と漆器もどきの線引きは、解釈の違いもあり難しいところです。
少し厳しい見方をすればこのようになりますが、品質表示法や食品衛生法をクリアした食器ですから、価格が手頃で扱い易いという点ではメリットがありますので、本物にこだわらないのであれば良いと思います。


★中国製?=?????
最近良く見かける100円ショップなどで売っているケヤキの木目風のお椀などがそうです。木地は一応中国のケヤキのようですが、塗装は最近のメディア報道を見ていると?????です。


★大正、昭和の廉価品漆器?=宝くじよりは当たる?
大正、昭和に大量に作られた手抜きの廉価品は、下地が漆下地でなく代用下地(砥粉等に高い漆の代わりに糊や膠を混ぜた贋物)なので、表面に傷がついて水がしみこむと、糊や膠がとけてふくらんで漆が簡単に剥がれてしまうのです。
少し良い柿渋下地でも似たようなものです。
特徴として椀等は縁がふくらんで爪でぱりぱりと簡単にはがせます。
よく蔵などに大量に保管されている赤や黒の揃い物によく見られます。
また、重箱や角膳でも麻布着せのしていないものは、内角の四隅にヒビが入っています。(指物は和紙着せや寒冷紗着せでさえも木地のゆがみに耐え切れず、ヒビが入りやすいのです。)
買うときに見た目でよくても、使い始めてから壊れることがあるので注意が必要です。(見分け方は慣れないと難しいです。)


★じゃあ何を買えばいいの?=決めるのはあなたです。
さいふが許せば本物がお勧めです。
本物は最初高くても手間がかかっている分丈夫で長持ちしますので、安物を何回も買うのとたいして変わりません。
また本物は使用法さえ守れば壊れにくいので、ランニングコストも少ないです。
壊れるのは使用法のまちがいか手抜き漆器の場合がほとんどです。
そして本物は年々つやがあがり色もクリアになり良くなっていきますが、ウレタン等は買ったときが一番きれいであとは汚くなる一方です。
本物はちょっと高いというかたは、漆器もどき(大正、昭和の廉価品漆器より、はるかに丈夫で優秀です。)が現代の生活様式や消費者の知識からみても、価格も手ごろで使いやすくお勧めです。
カシュー塗装は多少臭いがあるので気になる方は一番安いウレタン塗装が良いでしょう。
大正、昭和の廉価品漆器は水を使わない使用法なら良いかもしれません。
中国製はとにかく安いので各人の判断でしょう。
本物が良いのは分かりきったことですが、全部本物では価格が許しませんので、たとえば毎日使うお味噌汁椀や飯椀は本物(だんだん良くなります。)にして、たまに使うものは安価なものにするなど、あまり難しく考えずにケースバイケースでさまざまに使い分ければ、日々楽しめるのではないでしょうか。