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〔かんざし〕


私の母が嫁に入るとき私の祖母からもらった簪があった

それはとても綺麗であり

私もその簪を手に取り眺めるのがとても好きだった

いつもは母の部屋の小さな桐の棚に入っていて

私の家が改装される際には

大切なものを沢山詰めた茶袋と共においてあった

ある日また簪を見たいと母に言ったところ

母は、

この間、近くのお城の中に博物館が出来たでしょう

あれは古くて昔の文化のある簪だから

博物館に寄付したんだよ、

と言った

幼い私は、もう手に取り簪を見る事は出来なくとも

母の大切にしている簪がいろんな人に見てもらえて

永遠に残されるようになったのなら良かったと笑って言った




大人になった今でもその博物館には未だ行った事はない

後、姉に聞いた話であるが

家が改装される際に大工が家のいらないものと一緒に

大切な茶袋も捨ててしまった

つまり、共に簪さえも

捨てられてしまったそうな




あの時母はどのような気持ちで

私に語りかけていたのだろう
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