【満ち足りた死】





紅い雫が 散る。

私に 跳ね返る。

私の服を 紅く染める。


愛する貴方の 紅い 紅い 血の雫・・・・・。

まだ 床の上で ひくりひくりと動く君。

血が溢れている。


血が 止まらない 止まらない・・・・。



貴方の虚ろな瞳が私に向けられる。

唇が微かに動く。




―――ア・リ・ガ・ト・ウ・・・・・。




そのまま、瞳は輝きを失った。

貴方の温もりは消えた。

貴方は動かなくなった。

貴方の瞳は私を見つめたまま 揺らがない。




―――ありがとう・・・・?




これで・・・・良かったのだろうか・・・・。


確かに 貴方は死を望んだ。

生きる意志を無くした。

私に 自ら 命を奪えと示した。

貴方の望みを叶えたのだ。


喜びを感じる・・・・筈なのに・・・・。


何故だろう。体が引き裂かれるような思いに駆られる・・・・。

涙が 溢れる。

喜びなどではない 冷たい涙・・・・。


「・・・・・っウアアアアァァァァァァァ!!!!・・・」


部屋中に 響き渡る 悲鳴 悲鳴 悲鳴・・・・・。

嗚咽を必死に噛み締める。


唇を噛んでも 涙は止まらない。悲鳴は止まない。



嬉しくない。嬉しいはずがない・・・・!

貴方の温もりを 自ら無くしてしまったのだ。


大好きな 傍に居たい貴方を 私が殺した・・・・!!

何故 何故私は止められなかったのだろう・・・。


ああ 貴方の傍で居たい。

貴方の声を聞いて居たい。貴方の温もりを・・・・・。

そうだ。




――――私も死ねばいいんだ――――




そうすれば 貴方の傍にいれる。

貴方の声を聞ける。

貴方の温もりを感じていられる。

どうして気付かなかったんだろう。


貴方の魂を葬った凶器 自分に向ける。

それは どこかスローモーションに見えた。


ゆっくりと 包丁が動く。 

ゆっくりと 私の喉に向かってゆく。

恐怖はない。貴方の傍に居れるのならば 構わない・・・。




―――ズシャッ.........










これで また傍にいれる。











―――――今朝のニュースをお伝え致します。

東京都渋谷区のアパートで 男女2名の遺体が発見されました。

現場の様子は・・・・・・・・・・・



ねえ 朝のニュース見た?

見た見た!怖いよねぇ。


何でも 他殺とかじゃなくて 心中らしいね。

遺書があってさ 


「ふたりで一緒に逝きます。もう、離れない・・・・」


とか書いてあったらしいよ!

キャー!怖っ!


しかも 2人とも、笑ってたんだって・・・。

それも 満ち足りた顔で・・・・ね・・・・。




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