▼エピローグ 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」

エピローグ「魔剣の名を継ぐ剣」


私は、後に『B,C事件』と呼ばれる事件が起きている最中に、一人の局員が逮捕されたことを知った。

アル=ヴァン・ガノン三佐が任務を終えた頃にそれを知った私は、あらゆる情報網を使いその局員を調べることを決意した。

逮捕された時期も考え、その局員は今回の事件に大きく関わっていると思われる。

事件の詳細を未だ知らない私は、その局員と今回の事件がどう関係しているか、これからも捜査を続けて行きたいと思う。

それよりも、噂とされているアル=ヴァン・ガノン三佐が愛用しているデバイス、「エクスキューショナー」が任務中に奪取されたということだが、仮にそれが真実なら、武器を失った彼はこれからどうするのだろうか…


─────時空管理局 本局──


ワタルは一人、本局の廊下を歩いていた。

その手には、起動状態の絶影が握られていた。

局員が余り通ることが無い本局の奥地では、デバイスを起動していても局員に発見されることは少ない。

とある会議室の入り口で、足を止める。

場所を確認し、周りに局員がいないか首を左右に振って確認する。

アルを消そうとした管理局。

だが、事件後ワタルの捜査により、それは一部のグループが目論んでいることだと分かった。

そのグループの人間を逮捕すれば、王の危機は消える。

そう考えたワタルは、こうしてその者たちが会議していると思われる会議室の前にいるのだ。

最悪、殺していもいいと思った。

だがこうして、自分の意思で人の命を奪うのは久しい。

深呼吸をし、絶影を握り直し扉を開けた。

「なっ!?」

確かに、ここで会議をしていたのだろう。

だが、それは生前の時の話。

会議室は、凄まじい返り血により赤色一色に染められていた。

血液と若干の腐敗臭に、顔をしかめながら、一歩踏み入る。

ウィンドウを展開し、グループの人間の顔を一人ずつ確認していく。

椅子に座りながら首を撥ねられた者や、心臓部を一刺しで殺されている者。殺人方法は、一人一人異なっていた。

なんとか全員確認できた思われたが、ワタルはふと、おかしな点に気が付いた。

「…一人いない」

そう、殺されている局員の数とグループのメンバー数と一致しないのだ。

(まさか、残りの一人が今回の件でこいつらを…)

アルをブレイ・ガノンを利用し、抹殺するという計画が失敗に終わった今、いずれ自分のたちが危ないと考えたのだろう。

そして、自分一人残して。

(だが、何故殺す必要が…)

ワタルには理解できなかった。

計画に賛同してくれた同士を、わざわざ殺す必要はあったのだろうか?

様々な疑問が思い浮かぶが、考えるより、行動しなければ分からない。

酷い状態の会議室を一巡りして見渡した後、ワタルはため息を零しながらこのことを通報した。

「まだ終わってない、か…」


─────第34無人世界 マウクラン──


この男も一人、とある家に続く一本道で佇んでいた。

開発途中のこの世界で、自分以外に『戦闘機人事件』で生き残った人がここに住んでいる。

『B,C事件』の最中に、クイントと再会したレキ。

この事件を通して、過去から逃げることをやめようと決心した彼は、こうして目の前に佇む家を眺めている。

彼の手には、風呂敷に包まれたボトルが握られていた。

私服のロングコートを靡かせながら、レキはゆっくりと前に歩き出す。

もう、恐れる必要は無い。

仲間が待っている。そう信じて、レキは一歩一歩、前に進む。

そして、玄関前まで辿り着くと、呼吸を整えて扉をノックした。

木製の扉からなる独特の乾いた音が、家の中に響き渡る。

少しして、少女の声が遠くから聞こえた。

聞き覚えがあるその声に、体に少しばかり緊張が走る。

扉が開くとそこから赤い瞳をし、紫色の髪をした少女が現れた。

「レキさん!」

彼女は飛び込むように抱きついてきた。

両手を腰に回して抱きつく彼女に、流石のレキも戸惑いが隠せない。

「ぉ、おい、ルーテシア…」

すると、奥から車椅子に乗った女性が現れた。

その女性を見て、レキは驚いた。

「やっと来てくれたわね、レキ君」

「…メガーヌさん」


三人は、ワタルが訪れたときと同じようにリビングに案内されるレキ。

初めてここを訪れたこともあり、家の中の周囲をキョロキョロと見渡しながら歩く。

リビングに到着すると、椅子の方へ手招きされてそこに座る。

それに続いてメガーヌも、向かい合うように車椅子を止める。

ルーテシアはどうしたかと思い、彼女を探したが彼女はリビングから姿を消していた。

二人のことを気遣ってくれたのだろう。

「えっと、まずはこれを」

そう言うと、風呂敷に包まれた状態のボトルをテーブルの上に置き、それを解くとボトルの本来の姿を現す。

それは、メガーヌが好んで飲んでいたボトル。

レキはそれをしっかりと覚えており、いずれ訪れることになるのだろうと思って、予め購入していたのだ。

そのボトルを見て、メガーヌはキョトンとした顔を見せると、すぐに微笑みながらをそれを受け取った。

「ありがとう。覚えていてくれたんだね」

「もちろんです。メガーヌさんは、これしか飲んでませんでしたからね」

仕事を終えた後、クイントと三人で飲みに行く際、必ずメガーヌはこのボトルを注文していた。

すると、沈黙が二人を包み込む。

レキは何を話せばいいのか分からず、少し俯いて思考を始める。

しかし、緊張しているレキに、まともな考えなどできなかった。

その沈黙を破ったのは、メガーヌだった。

「──どうして、今まで来てくれなかったの?」

ドキッとしたが、その質問が来るとは予想していたが、やはり質問されると緊張が高ぶる。

眉尾を下げながら、口を開いた。

「すみません。自分は、「J,S事件」の時にクイントさんと再会しました」

事件当時、意識不明となっていた彼女。

だが、意識を取り戻した後、事件に少なからず関係していることもあり、事件の全貌は管理局から説明を受けている。

同僚のクイントとゼストの死も。

レキの説明に、うんうんと、頷く。

「──自分は、助けることができませんでした。あなたが生きていることを知り、会わせる顔がなくて…」

その言葉に、メガーヌは思わず悲しそうな顔で俯いてしまう。

「会おうと、何度も思いました。でも、どうあなたに話せばいいのか分からなくて……すみません」

どこか悔しくて、悲しくて、ごめんなさいという思いがあって、それが言葉にできなかった。

思わず、レキも悲しそうな顔で俯いてしまう。

すると、うんと顔を強張らせて車椅子を走らせ、レキの元に近づいくと上半身を可能な限り動かして抱きしめた。

突然抱きしめられ、驚きのあまりに体が動かない。

「謝らなくていい!レキ君は悪くない!ごめんね、辛い思いさせて…ごめんね」

彼の体を抱きしめながら、涙を流すメガーヌ。

その体を、力強く抱きしめる。

体を動かせなかったレキは、自然と涙がこぼれた。

そして、涙を流して歯を食いしばりながら、返すようにメガーヌの体を強く抱きしめて、大声で泣いた。

それがどんな惨めな姿だとしても、構わない。

こうして、お互い抱きしめ、泣きあえるのがどれほど大切だろうか。

涙が止まらなかった。

『戦闘機人事件』後の彼は、地面を這いつくばって生きてきた。

仲間との再会、そして、仲間の死。

助けることができなかった。それだけが、彼の心残りだった。

そんな彼に掛けられた、一つの言葉。

悔しさが込み上げてきた。

それと同時に、ごめんなさい。そんな想いが、脳裏に浮かび上がり、それを心で呟き続けた。

外に居たルーテシアは、涙を流しながら泣いている二人を見つめていた。



─────ミッドチルダ──


そしてその翌日、休暇を得たなのははヴィヴィオを連れ、病み上がりのフェイトとヘレンの四人で喫茶店にいた。

四人は丸いテーブルを囲むように、それぞれ椅子に座っている。

四人には、それぞれ注文した飲み物が手前に置かれている。

「にしても良かった。フェイトちゃんもアル君も、なんとか無事で」

「うん。なん、とかね」

「レキとワタルが居なかったら、どうなっていたことやら…」

二人の無事を祝うなのはに対し、フェイトは苦笑い。

ヘレンも彼女にしては珍しく、辛口で話す。

ブレイ・ガノンと初めて刃を交えたときは仕方ないが、それでも二人掛かりでも適わなかった相手。

そんなアルは、重症の状態で痛みを堪えながら死神を連れて戦い、結果としてベアトリーチェを助けることに成功した。

考えてみれば、あまりにも無謀な戦いだった。

「フェイトさん、もう体の方は?」

「うん、もう大丈夫だよ」

心配するヘレンに笑顔で話す。

「でも良かった。本当に無事で…」

ストローを咥えながら話すヴィヴィオ。

心配そうな表情は、どれほど心配していたかを現れしていた。

そんなヴィヴィオを見て、フェイトはそっと頭を撫でて言った。

「ありがとう、ヴィヴィオ」

「ヘレンさん、アル君はいまどこに?」

なのはは、注文したミルクティーを一口飲み、ソーサーに置いて尋ねた。

問われたヘレンは、記憶を探るように目を上に上げる。

「えっと、確か本局(海)の方に上がって、マリエルさんのところに行ってます。エクスキューショナーの代わりとなるデバイスを、作らないといけないから」

エクスキューショナーをブレイ・ガノンに奪取された。

そのことをヘレンの言葉で、皆思い出して顔を曇らせる。

「でも、魔剣の代わりになるデバイスなんて、作れるのかな?」

「んーそれは、マリエルさんに聞いてみないとね」

オレンジジュースを飲みながら話すヴィヴィオの素朴な疑問に、流石のヘレンも答えようがない。

それは、作る側のマリエルが判断することだ。

「それに、アル君がはやてちゃんに続いて部隊を作るんだよね」

「うん。正直、私もビックリしたよ」

アルが退院してから、皆に部隊について話していた。

なのはとフェイトは、驚いた顔で話す。

それに比べ、ヘレンは驚くことは無かった。

彼女は普段から、アルと二人暮しをしていたから分かっていたというのもあるだろう。

そんな彼女は、細い目つきでコーヒーを一口。

「今度は部隊を作ってまで、ブレイ・ガノンを逮捕するつもりなのよ。ここまでくれば、意地ね」

「確かに、部隊について話していたときのアル君、どこか悔しいそうな顔をしてました…」

同様に、なのはも目を細くして真剣な顔で話す。

彼女の真剣な眼差しは、どこか恐ろしい。

「アルさんのことだから、きっとまた無茶しそうな気がするよ」

「──大丈夫!リバルも居るから、無茶しそうになったら彼女がなんとかしてくれるよ」

ストローで泡をたてながら話すヴィヴィオ。

無限書庫で見た、彼の笑み。

それはまるで、ブレイ・ガノンを必死に追いかけるようだった。

彼が部隊を作るまで必死になるというのは、これはもはや執念と言うべきだろうか。

「まあ、リバルさんは厳しいからね…って、ヘレンさんは?」

ヘレンの発言に、フェイトが話す。

そんな質問に、ヘレンはドキッとなり目をキョロキョロと右往左往。

その仕草はまるで、何かを隠しているかのよう。

「えっと、私は…また執務官を目指そうかなーって」

「ええっ!ヘレンさん、執務官また受けるの?」

驚くなのはに対し、予想もしていなかった告白に、フェイトは目を見開き、口を覆って喋れない。

一度は諦めた夢。だが、ヘレンはその夢を諦め切れなかった。

「やっぱり、一度目指した夢は諦めたくないなーって。父さんみたいな人が居たら、絶対に逮捕する。──やっぱり、誰でも死んで欲しくないから…」

ヘレンの父、ケロベロス。

アルの数少ない戦友であり、魔族でありながら悪魔側につき、アルと刃を交えた男。

死して尚、彼は『J,S事件』でジェイル・スカリエッティの手により蘇った。

だが戦いの結果、娘のヘレンにとどめを刺され、アルカンシェルによってゆりかごと共に消滅した。

どんな父のような罪人でも、ヘレンはその命が消えることが辛くて堪らなかった。

「ヘレンさん…」

「──頑張って!私、応援しますから、今度こそ、夢を叶えてください!」

そんな彼女の決意に、フェイトは両手を握り応援を送った。

「フェイトさん……はい!」
          

─────時空管理局 本局 技術室──


話題にされていたアルは、ヘレンの言うとおりマリエルが居る、技術室にいた。

薄暗い部屋は、ウィンドウや部屋に設けられたモニターから放たれる光によって、微かに照らされている。

「エクスキューショナーと同等なデバイス。んー、それは難しい注文ね」

「やっぱり、難しいですか?」

椅子に座ってしかめた顔で話すマリエルに対し、その横で腕を後ろに回して目の前に展開されているモニターを見つめながら話す。

彼女の表情は重いもので、アルは少し諦めてしまいそうだった。

「元々アル=ヴァン三佐が使っていたエクスキューショナーは、アームドデハイスに改造しただけの物だから、最初からあんなのを作るなんて…」

「──駄目ですか?」

彼女の説明を聞き、彼女同様にしかめた顔をして尋ねた。

それでも、しかめた顔を止めずにアルを横目で見つめる。

何を見つめているか分からず、思わず首を横に傾げた。

すると、突然パネルを叩き始めたマリエル。

どうしたのかと思い、慌てて彼女の手によって展開されるモニターを覗くように見つめる。

モニターは、一本の剣を映し出した。

まさかと思い、顔をモニターから彼女の顔へと向けると、そこには優しい笑みを浮かべたマリエルが、こちらを見つめていた。

「マリーさん、これって…」

その問いに、マリエルは頷いて言った。

「予め、騎士ヒカリから、これを預かってたの」

「ヒカリが?」

「アル=ヴァン三佐がもし、エクスキューショナーを失うような事があったら、これを渡して欲しいって」

そう言うと、白銀色の腕輪を手のひらに乗せてアルに手渡した。

その腕輪には、ゲヘナ語が隅々に刻み込まれている。

それを受け取ると、上に掲げて両手を使って他にも、何か刻み込まれているか探し始めた。

「まだ、名前をつけていないので、この子に何か名前を付けてあげないと…」

その言葉に、手を止めて仰天したかのような顔を見せる。

すると、困った表情で、その場で考え込み始めてしまった。

「マリーさん。俺はこういう、名前を付けるのが苦手なんです。部隊の名前やデバイスの名前、全てヒカリ任せでやってたもんですから。いざと、こういう時、どう名前を付けて良いのか、分からないんですよね」

話を聞いたマリエルは、頬を膨らませて口を覆って笑い始めた。

考え込んでいたアルは、そんな彼女が何故笑っているのか、分からなかった。

涙ぐみながら、笑い止んだ彼女は笑みを浮かべながら言った。

「──いやあ、ごめんなさい。騎士ヒカリが言った通りだなと思ったので…ははは!ちゃんと、名前はアル=ヴァン三佐がそうなんだろうなって、ヒカリさんが付けてあります」

「……え?」

「エクスキューショナー、エクスフォーム」

「Yes, sir.Exe Form.」

マリエルがそう言うと、腕輪は輝きを放ち、黒光りした刃に漆黒の柄をした剣が現れる。

まさに、黒剣。

ゆっくりと宙から降りてくる剣に、しっかりと柄を掴んでその全身を見つめる。

「新しい名前を付けるのもあれだからって、名前はそのまま、エクスキューショナーにしたそうですよ」

「ふん、ヒカリの奴…」

ヒカリは、アルのことを全て分かっていた。

いずれこのような時が来るだろうと。

その時には、きっと名づける名前に困るのだろうと。

だから、彼女は予め、彼に気を遣って備えていたのだ。

そんな彼女の気配りに、自然と笑みがこぼれた。

「騎士ヒカリは、アル=ヴァン三佐のことをよく知ってるんですね」

「……まあ、そうですね」

マリエルの問いに、照れくさそうに頬を指で擦りながら話す。

何かを話題を変えようと、アルが口を開く。

「エクスキューショナー、モードリリース」

そう言うと、エクスキューショナーを左手首に装着させるように、待機フォームの腕輪に戻す。

そして、腕輪を残った右手で触りながら、口を開いた。

「しかし、マリーさん。こいつを、いつから預かってたんですか?」

「んーそうですね、一週間か二週間前ですよ」

(一週間から二週間前。「老王の心臓」が見つかったと報告を受けた日より、少し前か。)

タイニングから考えるとやはり、今回の件に備えていたのだろうか。

それとも予め、製造していたのか分からないが、彼女に感謝すべきだろう。

やはり、この二人は親子と言うべきなのだろうか…

「そうですか、有難うございました」

「いえ。お礼なら、お母さんに言ってください」

と、満面の笑顔で話す彼女に、アルは急にリンゴのように赤くなった。

ドキッと驚いた顔をした彼は、口を震わせながら言い返した。

「──なっ、な何を言ってるんですか!別に彼女は、そんな母親でも何でもありませんから!」

そう言い張るように話すアルは、そのまま技術室を後にしてしまった。

そして、また技術室で一人になったマリエルは。

「ふふ、照れ屋さん♪」

と、一言こぼすと、再びモニターを見つめながら仕事を始めるのであった。


─────時空管理局 本局──


それから二日後、エイムズから帰還してから入院していたベアトリーチェとレイルは今日、共に身体検査を受けた。

続いて、今回の件について、簡易的な聞き取り調査を受けた。

二人は素直に調査に答え、時間はそう掛からなかったそうだ。

身体検査では、『老王の心臓』に異常のところは見られず、彼女の体にも異常は見られなかった。

それに対し、レイルは外見は人間だが、中身は全く異なった体をしている為、それを何も知らない局員に知られて、騒がれても困るというので身体検査は断ったそうだ。

そして今日、二人はここ、ミットチルダを去ることになった。

二人を見送るため、アルはフェイト共に本局を訪れていた。

一方のレキとワタルだが、レキはまだ本局に戻っていないそうだ。

ワタルに関しては、わざわざ自分が行く必要は無いだろう。と話し、見送りを二人に任せる有様。

そんなことで二人は、転送ポートの近くで佇む彼らに、ゆっくりと歩み寄った。

すると、ベアトリーチェが気がついて頭を下げる。

「もう、行くのかい?」

「はい。この度は、ありがとうございました」

顔を上げて、再び頭を上げて感謝の言葉を述べるベアトリヘチェ。

それに対し、アルは首を横に振って言った。

「いいや、君らを巻き込んでしまって、申し訳なかった」

「いいんです。自分が何の為に生まれ、これからどう生きれば良いのか、分かったような気がします」

「ベアトリーチェさん…」

ブレイ・ガノンの復活の為に、『老王の心臓』の器として人工的に生まれた彼女。

だが、そのブレイ・ガノンは今、彼女を不要としてどこかの世界に居る。

魔王の呪縛から開放され、これからはどこの世界にも居る女性として、生きていける。

そんな彼女は、笑顔を見せていた。

「──そうか」

「でも…私のこの心臓は、このままでいいんでしょうか?」

しかめた顔で胸に手を当てるベアトリーチェ。

その問いに、もはや答えるまでも無いと思ったが、アルは笑みを浮かべながら言った。

「何を言ってるんだ。その心臓は、君の心臓だ。なにも心配する必要は無い」

「でも、この心臓は…──」

「──大丈夫。この心臓は役割を終え、今では誰もが持つ普通の心臓だ。気にする必要は無いよ」

彼女の肩に、そっと手を乗せて話す。

笑顔で話すアルに、ベアトリーチェは戸惑いながらも、はい。としっかりした声で応えた。

そんな彼女を見て頷き、視線をレイルの方へ変えると、手に持っていた一冊の本を彼に投げ渡した。

「お前の物だろ?返すよ」

レイルは首を横に振り、それを投げ返した。

「それは、あなたが持っていてください。私にはもう、不要なものです」

それは、レイルと初めて出会い、彼から受け取った本だった。

アルはその言葉を聞いて頷くと、それを懐へと仕舞った。

「二人とも、気をつけてね」

フェイトはベアトリーチェの手をしっかりと握り、二人の顔を見つめながら言う。

その心配そうな表情を見て、彼女は涙ぐみながらコクり頷いた。

「レイル。頼むぞ」

「もちろんです」

見つめ合う二人は、口をニヤけさせながら握手した。

それは互いに、女を守るという誓い。

その手と手は、強く、強く握り合っていた。

そして、互いの手は離れ合うと、二人は転送ポートへと入った。

「それでは、さようなら…」

「ああ……さようなら」

「さようなら。どうか、気をつけて」

別れの言葉を交わす三人。

ベアトリーチェは、涙を流しながら頭を下げた。

そして、頭を上げて言う。

「あの、アル=ヴァン三佐」

「──ん?」

「また、会えますか?」

「……ああ。その時は、茶の一杯ぐらいご馳走するよ」

その言葉を聞き、彼女は安心したのか、涙を流しながら満面の笑みを見せた。

後ろから、レイルが肩に手を回し、身を寄せ合うと、見送る二人と見つめ合いながら、二人は転送された。

また、いつもと同じ日常に戻るために。

どこか、知らない世界へ…


二人の男女を救った彼だが、魔王の戦いが終わることはない。

これから、再び脅威が訪れるだろうか。

しかし、どんな脅威に対しても彼は、剣を抜くだろう。

あの男を捕らえるためなら、手段は選ばないと誓ったのだから。

もう彼に、ワタルが言う、生ぬるい感情は存在しない。


そして、それからの彼らは…


ワタル・ゲルンガイツ捜査官

今回の事件に関与したグループの残り一人の居場所を探るため
再びミッドチルダを後にし、各世界を転々として独自に捜査を進めている

レキ・ゲルンガイツ三等陸尉

「J,S事件」に決着を付け、心の整理を終えた彼
今でも嘱託騎士として働き、バー「Devii Tear」を続けている

ヘレン一等空尉

一度は諦めた掛けた夢を、現実と叶えた彼女
アルの元を離れ、今はティアナの執務官補佐として、執務官になるための実務研修
夢に向って、進行中

リバル一等空尉

長期任務を終え、ヘレンに代わってアルと共に部隊発足に協力
今も彼のお姉さん代わりとして、彼の面倒を見続けている

フェイト・T・テスタロッサ執務官

多少の休暇を終え、再び副官シャリオ・フィニーノとともに
次元航行部隊に配属している

アル=ヴァン・ガノン三佐

打倒ブレイ・ガノンを掲げながら鍛錬の毎日を過ぎると共に
部隊を発足するために、上層部と掛け合っている

フェイトとの関係は…



そして、物語は新たなステージへと進む



魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor
                                                 完


あとがき

どうも、長い間ご愛読有難う御座いました。
ついに、オリジナルストーリー2となる「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」が完結しました。
なんとか、修正&追加verで終わらせることができました。
まあ、ともかく長編第一章は終わりました。
これからブレイ・ガノンが、どう物語に関わってくれるか重要視されると思いますので、どうか次の作品にご期待ください。
今後のことについては、後日更新される日記で発表しますので、それまで気長にお待ちください。
改めて、ご愛読有難う御座いました!
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