▼最終章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」 最終章「Immortality Emperor 不死の王」
動物が存在しないとは思えない、神秘的な大自然。
静寂が包み込むエイムズに男は、立ち尽くしていた。
動くことなく、目の前に映る大自然を見つめている。
勝利を目の前にして逃した悔しさ。この感情が、体をがくりと崩させた。
両手を地面に付け、悔しさの余り地面を握り締めようと爪を立てる。
そして、ぽつりぽつり、頬を伝わりながら涙を零した。
俺は初めて、大地に崩れる王を見た。
泣き崩れる王の姿を。
俺の知る王は、勝利の為なら手段を選ばない、まさに戦いにおいて鬼人のような冷血な王だった。
その王が、生ぬるい感情を持ち始めたのは、新暦65年の頃。
そう、王が初めて魔界から一歩外へ踏み出すことになった事件。
『PT事件』で出会った者たちとの出会いが、王を変えてしまった。
詰めの甘さが生まれたのが、その頃だろうか。
その詰めの甘さが、『A,V事件』と続き、今回に至ってしまった。
「レキ!」
「今やってる」
険しい顔で、叫び声のような厳しい声で弟の名を呼ぶ。
言い返したレキは、目の前に大量のモニターを展開し、両手を屈してブレイ・ガノンの転移先を割り出そうとしていた。
しかし、顔は徐々に険しさを増し、そしてゆっくりと両手を動かすのを止め、首を横に振った。
「立てるか?」
「はい」
顔を曇らせながら、樹木に寄りかかるレイルに肩を貸し、一歩一歩しっかりと足取りで王の元へ歩み寄る。
ワタルの視線が、レキがいる上空に向けられる。
左腕の力を無くしたため、ベアトリーチェを残った右腕で肩に担ぎながらゆっくりと地上へと降下している。
四人は、泣き崩れているアルに傍に寄り、レキは一人膝を付いて、同情するように肩を優しく叩いた。
──この日
後に様々な重罪を犯し、各世界から指名手配となる男を逃した、という失態を犯しながら生涯初めて、アルは小隊を率いた状態で戦に敗れた。
それはまた、ワタルが言う、彼が生ぬるい感情を捨てた日でもあった。
「……くっそおおおおおおおーーーっ!」
─────時空管理局 本局 総合病院──
病院の窓から流れる、心地よい風。
あれだけの戦闘があったにも関らず、ここは平和が保たれていた。
病院に再び搬送された際、前回入院中に飛び出したことについて、院長にこれでもかというぐらいに、ひどく怒られ今に至っている。
ベットから体を起こした状態で風は、病院服を着た体に絡み付いてくる。
これほど心を穏やかにする風は、あっただろうか。自然と、顔が緩む。
「はい、できたよ」
綺麗にカットされたリンゴが盛られた皿を、ベットの脇に設けられた小机に置く。
ヘレンの声に、窓の外を眺めていたアルが皿を置く音の方へ向く。
「ありがとう」
そっと盛られたリンゴを手に取り、一口。
口の中にしゃりっとした食感と、甘みと酸味が混ざった味が口の中に広がる。
噛み締めると同時にコクりコクりと頷き、味を確かめる。
「うん、旨い」
一口食べ終え、パイプ椅子に座っているヘレンの方を向く。
すると彼女は涙ぐんだ顔をして、こちらを見つめていた。今にも、瞼に溜まった涙が零れてしまいそうだ。
そして、アルの胸に飛び込むように抱きついてきた。
突然のことに、流石に驚きを隠せず体が硬直し、持っていたリンゴが床に落ちる。だが、この硬直は一瞬にして消え、両手を腰に回しお互いに抱きしめあった。
瞼に溜まりに溜まったヘレンの涙は溢れ出し、強く、強く、強く抱きしめた。
「良かった、本当に…」
それは、生きていてくれたという喜びからきた涙。
今回の任務が失敗に終わったとはいえ、何よりも生きていたことが彼女にとって最も重要だった。
アルも昔、魔界で指揮を執っていたときに何よりも’生きる’ことを最重要としていた。
例えどれほどの時間が過ぎようとも、彼の思いは騎士たちへと伝わり、決して朽ちることの無いモノとなっていた。
アルが生きて帰ってきてくれた。戦いに敗れようが、生きてこうして抱きしめ合える。それが、嬉しくて嬉しくて、堪らなかった。
「頑張ったね、頑張ったね…アル。本当に、頑張りました…」
涙が止まらない。
抱き締め合う中、自分が情けなくてしょうがなかった。
こうして自分が生きている事に対して、涙を流してくれる人が居てくれるという嬉しさもあるが、自分の失態を責める人は誰一人いない。
気を遣ってくれているのだろう。だが、こんな失態をしなければ、こうはならなかった。
そう思うと、抑え切れない悔しさと情けなさが込み上げてきて、涙が溢れ出す。
「──悔しい……悔しいよ、ヘレン!うぅう──うわああああーーーっ!」
まるで、ケンカに負けた子供のようだった。
そんな姿を晒しても構わない。それを、受け止めてくれる人が居るのだから。
「……出直すか」
「──ああ」
病室の外に、見舞いに来たヴィータとシグナムがフルーツバスケットを持って、入り口の近くで二人の泣き声を聞きながら呟いた。
そして、ヴィータの言うとおり、二人は一度病室を悲しそうな顔で見つめ、病院を後にした。
─────先端技術医療センター──
鉄らしきもので造られた青色の天井。
瞼を開けると、そんな天井が目の前に飛び込んできた。
それは、よく知っている天井。
本局に帰還した際、それからの記憶が曖昧だ。
体を起こし、頭を掻きながら記憶を辿るが、その曖昧な記憶ははっかりしなかった。
それよりもここが何処なのか分からず、辺りを見渡すと少し離れた後方に、ガラス越しにこちらに向かって笑顔で手を振る女性が一人。
それは紛れも無い、自分やギンガ、スバルの定期検診を行ってくれているマリエル技官。
「大丈夫、レキ君?」
体勢を前に傾け、マイクを通して聞こえる言葉に自分の体を確認して視線を落とすと、そこには素っ裸の自分の体が見えた。
目を見開き、胸の鼓動が高まりながらも冷静さを保っているように見せる為、カプセルから降りる。
「っ!──すみません、マリエルさん」
そしてすかさず、背中を向けて近くに折畳んである衣服を手に取って着替え始めた。
「良いの、慣れてるから」
と、苦笑いしながら応える。
流石に慣れているとは言っても、多少の抵抗があるだろう。
それでも、彼女は着替え終えるまで視線を逸らすことは無かった。
局員制服に着替え終えると、破損して動かすことができなかった左腕の調子を確かめるように、肩を大きく回したり左腕と十字に交わらせて肩を伸ばした。
「スバルやギンガのパーツをそのまま流用できるから、あまり時間は掛からなかったわ」
部品を交換するのにあまり時間が掛からなかったとは言え、自分が目が覚ますのと部品交換は関係ない為、つい不安になって質問した。
「バッチリですね、ありがとうございます。──ん、どうかしましたか?」
振り向いて礼として頭を下げたレキだが、頭を上げる際のマリエルの笑顔に疑問を持ち、質問する。
質問され、キョトンとした顔を見せ、すかさず首を横に振る。
「うんうん、別になんでもないよ。ただ、運ばれてきたレキ君が気持ちよさそうに眠っていたから、何かあったのかなーって」
人差し指で頬をぽりぽりと掻いて気持ちを誤魔化そうとしているが、それに対してドキっと体を硬直させるレキ。
何かあったと言えばあった。
クイントとの夢の中ではあるが、再開しあの時約束したことを再び再確認し、クイントさんと…
そう思考を巡らせ、思わず頬を赤くして視線を逸らした。
「いや、別になにもありませんでしたよ。ただ、任務を果たしただけです」
と言ったが、あの時あったことをマリエルに、決して言えるものではなかった。
それから、数日後
フェイトが退院して少しした今、時空管理局 本局 総合病院では、退院日を迎えたアルがモニター越しに誰かと話していた。
病室に備えられていたフルーツバスケットは、前日にヘレンが荷物と纏めて自宅へ持ち帰ったのだ。
「お前さんが部隊とは、予想外だったな」
「そうですか?」
モニター越しに話している相手は、ゲンヤ・ナカジマ。
数ヶ月前、はやてにも彼に相談している。アルも今回、彼に相談する理由はこれから、自分がどう生きていくかを相談するためだった。
「ようは、ちびタヌキと同じ用件か。捜査官がやりたくてやらしときゃあ失敗して、そしてすぐにそれを捨てて部隊を作りたい、か。なんかお前もちびタヌキと、あまり変わんねぇな」
言い返せず、苦笑いしかできないアル。
すると、ゲンヤは目の前に置かれた緑茶が入った湯のみを手に取り、一口。
それに対して、アルも皿に盛られたリンゴを一口。
「まあお前のことは、ある程度知ってるからな。ようはあれか、魔界でのことをこっちでもやりたいってことか?」
「ご名答です」
瞼を閉じて、口をニヤっとしながらコクりと頷く。
「お前には経験がある。それに、こっちの世界にくるのでは一応、成功していた訳だ。それに、今はヘレンとリバルがいるからな……ま、やってみたらどうだ。けどよ、お前が部隊を作る理由ってなんだ?ただ魔界のときのようにやりたい、というだけじゃねぇだろ」
すると、その質問に対しアルは目を細めると、またリンゴを一口。
食べ終え、一呼吸して口を開いた。
「今回での任務で逃がした男を、捕まえるためです」
「殺すため、だろ?」
いくら多少の本音が言える人とはいえ、流石に普通の人間に’殺す’、という言葉を言うわけにはいかなかった。
だが、この男は易々と自分の本音を見通してしまった。流石に、驚きが隠せない。
「──ふっ、やはりあなたには適いませんね」
「ぅんなもん、レキを引き取っちまえば、嫌でも分かっちまうよ」
呆れ顔で話すゲンヤ。
しばし沈黙が回りを支配する。
困った表情を見せるアルに対し、ゲンヤは何かを待っているかのように瞼を閉じて、緑茶を一口。
どう話を切り出せば良いのか分からず、アルは口を開くことができなかった。
それに呆れたのか、この沈黙に耐えられなかったのか分からないが、ゲンヤが口を開く。
「それについては、俺は何も言わん。それが終われば、部隊を解散するわけじゃないんだろ?」
「ぁ、はい。まぁ…」
「なら、その後はヘレンとリバルの力でも借りながらも、新しい目的を探せばいい。──まぁ、頑張れよ」
「……はい」
その後、多少の雑談を交わし、通信を終えた。
そして退院の手続きは既に終えているため、あとは制服に着替えて退院するだけだ。
病院服を脱ぎ捨て、制服へと着替え終わると内ポケットにタバコとライターがあるか確認し、確認を終えると病室を後にした。
正面玄関を出ると、そこには一人の女性が背中を向けて佇んでいた。
執務官だけが着ることを許される、黒い制服。
そして、金色の長い髪が駆け抜ける風で靡いている。
彼女を知るアルは、顔を緩ませ彼女の元へ近づいていく。
そして、彼女の名をそっと口にする。
「フェイト」
その声に、彼女はゆっくりと振り返る。
そして、お互い見つめあう。
微笑み合いながらも、アルは頭を下げた。
「すまん」
ただそう言い、頭を下げ続ける。
そんな彼に、フェイトは瞼を閉じながら首を横に振った。
「ううん、アルが生きて帰ってきてくれただけで、私は十分だよ」
「──だが……ブレイ・ガノンを捕えることは出来なかった」
思わず、頭を下げながら歯軋りを起こす。
歯軋りは、フェイトの耳にもしっかりと聞こえていた。
その歯軋りの音の大きさが、彼の悔しさを物語っていた。
「頭をあげて、アル」
その言葉の通り、ゆっくりと頭を上げるとフェイトはアルの優しく撫でながら語りかけるように言った。
「過ぎたことを悔やんでも、仕方ないよ。何かあれば、すぐに教えて。また一緒に頑張ろう?」
「……ああ」
すると、アルはポケットに入ったバルディッシュを手に取り、フェイトに差し出した。
金色に輝くバルディッシュ。
フェイトはバルディッシュを見ると、女神のような笑みを見せ、それをゆっくりと受け取り、内ポケットに仕舞った。
「ありがとう。彼に、どれほど助けられたことか…」
「そのために、貸してあげたんだから」
そして、互いに見つめあい、静寂があたりを包み込む。
見つめ合う二人は、どこか照れてしまい視線を逸らしあう。
だが、すぐに互いは再び見つめ合う。
アルが微笑みを見せると、フェイトもそんな彼の笑みに応えるように微笑返し、ゆっくりと唇を重ねあった。
柔らかい唇の感触。
女性の香りと唇の部分的な暖かさと温かさが伝わり、濃厚なキスを交わす。
それが、傷ついた彼を癒していく。
このときアルは誓った。全知全能の王 ブレイ・ガノン。今度こそ…捕まえてみせると。
こうして、自分を支えてくれる人のためにも……
この命に掛けて。
次回予告
エピローグ「魔剣の名を継ぐ剣」
あとがき
どうも、ご愛読有難うございます。
今回が最終回とは言っても、まだエピローグがありますw
長いエピローグになると思いますが、どうか最後までお付き合いくださいw
次で、本当に最後です。はい。
最後のシーンは、どうなんだろう。
キスシーンなんて、書き慣れてないものですから、駄目ですねorz
まあ、それもこれから少しずつ頑張ろうと思います(-ω-)
次回で本当に最後です。お楽しみに。