▼第一章
魔法少女リリカルなのは ワタル外伝第一章
死神とは
魔族の突然変異により、生み出された特殊な種族である。
特殊な故に、希少種として登録されている。
戦いを好む戦闘種族であり、戦いや殺し合うことで、生を感じて生きる糧としている。
定期的にその糧を得ようと、無差別殺人を行う。
だが、ゲヘナ騎士団はそのことについて、あえて介入しないでいる。
その理由は、単体で桁外れた戦闘能力を発揮する死神に対し、無理に介入して紛争などが起こることを避けているのだ。
『B,C事件』から約120年前。
魔界アルデバランの郊外に、小さな里が存在する。
そこはまるで、首都ゲヘナの町並みをそのまま小さくくり抜いたような里。
死神の世界で80歳は、まだ若造と呼ばれる年齢。
それでも俺は、大人の死神と変らない任務をこなしていた。
死神とは、無差別殺人を無くすため、ゲヘナ騎士団と連携を取り、首都ゲヘナに脅威をもたらすテロリストや悪人などを逮捕し、さらに質量兵器やロストロギアの密輸を摘発し、回収にあたっている。
その任務中に、独断で敵と判断した者を容赦なく殺している。それにより、糧を得ようというのだ。
その時の俺は、長期的な任務から帰ってきたところだった。
里へ戻った俺は、彼女と出会った。
里から少し外れた場所で、訓練所が存在し、そこを覗きに来た俺は驚きを隠せなかった。
そこには、熟練の死神が二人掛りで、紫色の髪をした女性と模擬戦を行っていた。
女性の死神と言えば、任務から帰ってくる男達のために、家で家事などをしているはずだ。
だが、その女性は攻撃的な黒のバリアジャケットを身に纏い、オリジナルのデバイスと赤色の光を巧みに操り、その死神二人に難なく勝利したのだ。
圧倒的な強さを見せた女性。
俺はこの時、こう思った。
あの人みたいに強くなりたい。と
だが、驚いたのはこれだけではなかった。
女性は死神ではなく、ミッドチルダという次元世界で生まれた女性だと言う。
戦闘種族ではないミッド人だというのに、何故このような死の代行者’死神’を遥かに上回る力を持っているのか。
俺は彼女に迫った。
強さを欲した。彼女のような、圧倒的な力を得ようと。
「なら、付き合ってみます?」
女神のような笑顔を見せながら、彼女はそう言った。
俺はその時初めて、彼女の満面の笑顔を見た。
レイヌ・ゲルンガイツの美しい笑顔を。
後の、妻となる女性の笑顔を。
魔法少女リリカルなのは ワタル外伝 死神の妻 レイヌ・ゲルンガイツ
彼女の言われるまま、二人は付き合い始めた。
そして、共に任務に出ることにもなった。
そのことに、誰もが「女性を戦場に連れて行くなんて、何を考えているんだ」と。
非難されることは、予測の範囲内だったワタルは、そんな言葉などに耳に入れることはなく、レイヌも気にする様子など見せなかった。
それどころか、二人は見事に任務を果たし、その優秀ぶりが皆を黙らせていった。
彼女はワタルを強くした。
高速移動を得意とするワタルを考慮し、絶影を改造して脚甲に変形できるようにし、彼の長所を伸ばした。
そしてワタルは、’流星のワタル’と呼ばれるほどの、一人前の死神へと成長した。
それは、彼が85歳の時である。
とある日、里から遠く離れた丘に、二人はいた。
そこからは、綺麗な朝日が輝きだすのが見える。
そんな美しい景色を眺めながら、ワタルが口を開く。
「ずっと気になっていたんだ」
「ん?」
「お前の本当の目的は、何だ?」
彼女は驚いた表情を浮かべ、思わず後ずさりする。
ミッド人の彼女だが、何故魔界という地獄のような世界に来たというのか。
その理由を前々から聞こうとしたが、その度彼女は何かで誤魔化して話そうとしなかった。
「言えないか」
少しして、ワタルが言う。
「……ごめんなさい」
「いや、構わないよ」
突然と、ワタルの声が明るくなる。
そして、後ろに振り返り、彼女と見つめ合う。
レイヌは眉尾を下げ、困った顔をしながら見つめている。
「──それなら、お前と共に一生生きていけば分かることだ」
その言葉に、おもわず困った顔は消え、放心状態のような目で見つめる。
「俺と、一生付き合ってくれるか?」
「……はい」
気付けば、ワタルは力を欲していなかった。
ただ、彼女が欲しかった。
美しい女神のような笑顔を見せる、彼女が。
そんな彼のブロポーズに、レイヌは涙を流しながらも満面の笑みを見せて、コクりと頷いて応えた。
お互い強く抱きしめ合い、唇を重ねあった。
彼女の香りと、唇の柔らかさと暖かさが伝わりあい、朝日が昇る中、深いキスを交わした。
始めは強さを求めて、ワタルは彼女に近づいた。
彼女は望み通りに、彼に強さを授けた。
だが、いつからだろうか、彼女が彼を欲したのは。
それは、今考えても分からないだろう。
そして二人は結ばれた。
共に永遠の愛を誓った。
かと言い、彼女は結婚指輪という物は必要ないと言い、式を挙げることもなかった。
そしてすぐに、二人は任務を遂行していった。
だが、ワタルがこの世界で、一生殺しを続けることに対して、疑問を抱き始めていた。
自分はこのまま、一生任務漬けで良いのだろうか?
──答えは、否だ。
こんな生き方では、満足できない。
彼女の生まれ世界、ミッドチルダで二人で暮らすのも悪くないだろう。
とにかく、ワタルは魔界だけで、人生を終わらせたくなかった。
いずれ、二人で知らない世界をまわり、知識を蓄えたい。それが、自分の糧となり、彼女を守ることができる物となると信じて。
だが、運命はそんな二人に残酷な運命を突きつける。
そして、ワタルが彼女から教わった、大切なこととは何か。
強さを得たワタルは、何を知るというのか?
次回予告
「任務か、生か」
あとがき
どうも、お久しぶりです。レキです。
今回もご愛読有難うございます。
外伝として、ワタルの話を書かせてもらいました。
オリジナルストーリー2で彼の妻、レイヌさんが少しだけ登場しました。
なので、これからワタルもSSに登場してくるので、彼女のことも知っておいて貰えると嬉しいので、今回の短編SSをはじめました。
出会ってから結婚するまでは、あまりにも早すぎるのではないか?
と思われる方もいるかもしれませんが、その間に何かいれると、グタグタと長く書いてしまい、一回のSSで書ける枠に入りきらないので、こんな感じになってしまいましたorz
そして次章は、彼女がミッドチルダから魔界へと来た理由も明らかにしますので、お楽しみに。
では、また来週。
はあ、グラビモス亜種にハンマーと双剣、どっちがいいかなぁ…