▼「羽と大変な任務」
「羽と大変な任務」羽がゼスト隊を辞める二年前の十二月の中旬、羽は任務から戻ってきていた。
十二月と言っても雪は降っていない。
冷たく乾いた風が吹くばかりだ。
年末の市街地では人々はいつもより忙しく働いている。
呼び戻された理由は、なんでもゼストから手伝ってもらいたいことがあるらしいとのことだ。
(いったい何を手伝わされるんだかな、ソラあたりに手伝ってもらえるものならいいんだけどなぁ。)」
自分勝手な考えを巡らせている間に羽の所属しているゼスト隊の前に到着した。
「そんなに時間が経った気はしないけど、なんか懐かしいな。」
思わず顔の筋肉がゆるんでしまう。
(しかしみんな忙しそうにしてるな、年末だから仕方ないけど…待てよ、年末? もしかして僕は年末イベントの手伝いなのか!?)
「正解!」
「うわっ!?」
後ろから荷物を持った女の人が抱きつくようにして声をかけてきた。
持っていた荷物は鳩尾辺りにぶつかり、羽は息をつまらせた。
「ふふふ、だーれだ♪」
「う、ちょ、ちょっと、ソラだろ、早く放してくれ。」
「な〜んだ、もうわかっちゃったんだ、おもしろくないなぁ。」
「こんなことをするのはおまえぐらいだからな。」
ソラはむくれ、羽は苦笑いを浮かべた。
「でも、おかえり♪」
ソラはいつもの人懐っこい笑顔に表情を変えて迎えてくれた。
「ただいま♪」
これには少しどきっとしたが毎度のことなので羽も笑顔で返した。
「ちょっとちょっと、そこの少年少女、いちゃいちゃしてないで早く手伝ってよ!」
隊舎の中から聞き慣れた声が聞こえた。
「「いちゃいちゃなんてしてるわけないじゃないですか!」」
羽とソラは一言一句間違わずぴったりのタイミングで反論した。
「もう、君たちは本当に仲がいいなぁ、でもソラはその荷物早く持ってきてね、羽はゼスト隊長のところに行くんでしょう。」
「あ、はい! 今持って行きます。」
「クイントさん、ゼスト隊長はどこにいますかね?」
「たぶん隊長室にいると思うわ、いなかったら誰か捕まえて聞いてみて。」
「ありがとうございます、またあとであいさつに行きますから。」
「うん、またあとでね。行くよ、ソラ。」
「はい、じゃあ羽、またあとで。」
羽は隊長室にいると思われるゼストの下へ急いだ。
その間にすれ違う隊員達が「おかえり」と言ってくれた。
羽は隊長室の前にくるまでに何回も返事をしながら走ってきたので息が切れてしまった。
息を整えてから隊長室に入ろうと思って扉の前で休んでいた。
すると中から何かが崩れるような音がした。
その音を聞いた羽は扉を勢い良く開け、中に入った。
「ゼスト隊長、大丈夫ですか!?」
中は本が散乱していて、おそらくその本が入っていたであろう本棚はゼストを押しつぶしていた。
一応自分でも抜け出せるであろうが急いで手を貸しに向かった。
羽はなんとか本棚をゼストの上からどかした。
「おお、羽か、悪いな助かった。」
「いったいどうしたんですか?」
「ん、まあちょっと手が滑ってな、それよりおまえを呼んだ理由は二つあるんだ、まず一つ目に人出が足りなくてメインのツリーをまだ採りに行っていないんだ、二つ目はおまえにしかできないことだと言っておこう。」
やはり年末行事の一つ、クリスマスの手伝いだったようだ。
(こんなことで任務切り上げてきていいのか、管理局。)
「とにかく僕はまず木を取ってくればいいんですよね、どこから取ってくればいいんですか?」
「そうだな、そういう関係はアルピーノが詳しかったはずだ、探しだして聞いてくれ。」
「わかりました、行ってきます。」(業者に頼んでるんじゃないのか?)
羽は隊長室から出た。
アルピーノという人は、本名メガーヌ・アルピーノ、クイント・ナカジマのパートナーであり、生物学者顔負けの知識を持ち、魔道士ランクは二人ともAAAを持っている。
クイント・ナカジマはシューティングアーツの使い手で、パートナーのメガーヌとはとても相性が良く、昔からコンビを組んでいるだけに隊長であるゼストにもコンビならば並ぶとも劣らない。
羽とソラもコンビであるが、この二人のコンビには勝てた試しが無い。
羽が部屋を出て、アルピーノを探しにいこうとすると部屋の前にはレキが立っていた。