▼バレンタインSS 
 
「バレンタインSS 男三人、女一人。」

ミッドチルダのとあるアパート。

その一室に、二人の男が居た。

二人とも上半身裸で片手には、酒が入ったグラス。

室内は、タバコの煙が充満していた。

アパートの住民、サイレント・ワタル。

彼は、ソファーで寝ッ転がりながら、グラスを見つめていた。

そして、弟のレキは片手で懸垂運動。

グラスを持ったグラスは背中に回し、こぼさない様にゆっくりと運動を続ける。

「今日は、バレンタインだな…」

「そのようで……」

ワタルがレキにふと話しかけるが、素っ気無く流れてしまう。

そして、室内には沈黙に満ちてしまった。

「チョコ喰いたいな…」

「買ってくれば良いだろ。」

また素っ気無く返答するレキ。

それを聞いて、さすがにワタルの表情も暗くなる。

「………夢の無い男だな。」

と、ふと口にするとレキは懸垂運動を止めて床に足を置く。

そして、片手に持っていたグラスを口に運び軽く流しながら、クイントの姿が収められている写真の目の前に移動する。

「そう言えば、youは彼女しか興味ないんだっけ ? 」

頭を掻きながら、ニヤけた顔で尋ねるワタル。

レキはそれを聞きながら、小さなグラスにウイスキーを注ぐ。

そして、それをクイントの写真の前に供える。

「もちろんだ。」

そう言いながら、クイントに向って軽く敬礼を送る。

そして、キッチンに向って冷蔵庫を開ける。

中にはウイスキー、ウォッカ、赤白ワイン等が仕舞われている。

すると、ラップに包まれたタコスが持ってある皿を取り出す。

それを暖める事も無く、ラップを剥してタコスを口に入れる。

実際、最初から分かっていた事。

ゲンヤと結婚している彼女から、本気で貰えるとは…

そう、本気…本気と書いてマジ…

そのマジが、レキは欲していた。

しかし、そんなのもう乾き過ぎた為、実際どうなのかすら分からなくなっていた。

それは、ワタルも同じ事だった。

クイントとは違って、現世に居るギンガ。

だが、彼女には涼香という素晴らしいパートナーが居る。

やはり、兄弟揃ってマジに乾いていた。

「ま、こんな事は毎年の事さ…気にする事はない。」

ワタルが呟くと、近くのテーブルに置いてあるギンガから部隊員達に配られたキョコを取り出す。

それを丁寧に一個ずつ、しっかり味わって食べる。

レキは、タコスを食べながらそれを見つめていた。

「ところで、アルさんはどうなんだろう?」

「アルさんか、あの人にはちゃんと居るだろう…」

呆れた表情でチョコを食べながら話すワタル。

そして、そのアルは…

「ぁ、ありえないって!?」

アルは私室で書類に追われていた。

横では、リバルも手伝って貰っている。

「これ、いつになったら終わるんだ?」

「現在、258枚目が終了。残り22枚です、頑張りましょう。」

相変わらず、無表情で淡々と仕事をこなすリバル。

既にアルの眼は死んでいた。無意識で腕と手が動いているだけの状況だった。

「今日はバレンタインと言うのに、残業なんてついてない!」

書類に何かを記しているようだが、かなり雑のようだ。

つい、ペンに力が入って手首が痛む。

「私もこんな事はさっさと仕上げて、夜の街を楽しみたいものです。」

そう言い、淡々と作業を続けるリバル。

それをちらほら、横目でちらっと見ながら作業をするアル。

そして、二人の頑張りもあって書類作業は全て完了した。

「…………これだから、書類関連は嫌いなんだ。」

「では、私はこれで…お疲れ様でした。」

作業を終えた瞬間、リバルは席を外しアルの私室から去っていった。

愚痴っていたアルは、それを見た瞬間唖然として私室の扉を見つめていた。

そして、書類を提出して建物から出るアル。

すると、出入り口の柱に寄りかかっている女性が立っている。

アルは、少しを眼を疑いながら女性に向う。

女性はアルに気付いて、アルに迫る。

「お疲れ様、アル。」

「おう、突然残業が入っちまってごめん。」

アルの近寄ってマフラーを巻いているフェイト。

それを頭を掻きながら謝る。

しかし、フェイトは首を横に振る。

「ううん、平気。後で、チョコあげるからね。」

チョコ。その単語を聞いた瞬間、アルの表情が歪む。

そして、フェイトに申し訳無さそうな顔で話すアル。

「ぁ、悪い。俺…チョコとか甘いのは…苦手だから…ごめッ!? 」

チョコや甘いものが苦手アル。

謝ろうと頭を下げようとした時、フェイトは無理矢理アルの唇と唇を重ねる。

仰天していたアルだったが、少し経つと落ち着いてフェイトの身体を抱いた。

あの突然のキス以来のキス。

お互いは、身体を温めるように身体を寄せ合う。

そしてしばらく唇を重ね、ゆっくりとお互い離れあう。

「「………………」」

お互い、頬を紅く染める。

アルは恥ずかしさの余り、少し俯いてしまう。

そしてフェイトも、照れくさそうに少々俯きながらアルを見つめる。

「………うーん、こういうのはベタじゃないか?」

頭を掻き、苦笑いしながらフェイトに話す。

かなり照れているようだ。

「キスより、チョコの方が良かった?」

怪しげな表情で、アルを下から目線で問い詰める。

「………いいや、最高だよ。」

顔を横に振り、嬉しそうな顔でフェイトの髪をそっと撫でる。

それを嬉しそうに微笑むフェイト。

そして、二人は手を繋ぎ合って建物を後にしていった

スポンサード リンク