▼羽の舞う軌跡 番外編 次の日                          
羽と大変な任務の翌日のSSです。



二人がやりたいほうだいやってから一夜明けて。

――羽の部屋

「羽、起きてる!?」

扉の外から声が室内に向けられる。
しかし返事はない。
昨日は結局本物の雪は降らず、一晩中雪を降らせる羽目になった。
といってもそのおかげで羽は休暇をもらってまだ寝ているのだが…

「羽〜!」

今、羽の部屋に押しかけてきているパートナーのソラも休暇中のはずだ。
別の次元世界での任務の為に特別に休暇が出たらしい。
朝早くからご苦労なことだ。

「入るからね〜」

ソラはドアのロックを解除し、部屋の中に入る。

「ふう、やっぱりまだ寝てたか」

ソラは片付いているとも言えない部屋の中で寝ている羽の脇まで歩いた。

「お〜い、起きて〜、朝だよ〜」

羽は寝返りを打ってむにゃむにゃと口を動かす。

「起きてよ〜」

よほど疲れたのか何度も声をかけるが起きる気配がない。
それどころか、さらに寝返りを打ち、うつ伏せになった。

「チャ〜ンス♪」

ソラは目を光らせる。
羽の背中に乗り、首に手を回す。

「んふぁ、ん〜…」

羽はくすぐったいような声をあげ、身じろぎをする。
含みのある笑みをソラは浮かべている。
ソラは羽に顔を近付ける。
あと少しで肌と肌が触れるくらいに近い距離まで近づいている。

(せ〜の!)

心のなかでタイミングを計り、顔を巻き付けた腕とともに引き上げた。

「う、ぐあぁぁぁぁあ!」

背骨の節が鳴り、羽の叫びが聞こえる。

「はぁねぇ〜、起ぉきぃたぁ〜?」

ソラは放してくれそうにない。
むしろ反らす角度が徐々にきつくなってきている。
羽からソラの顔は見えないがきっと満面の笑顔だろう。
そろそろ降参なりなんなりしないと折られる。
そう感じた羽は片手で体を支えながらもう片方の手で首に巻き付いているソラの
腕をタップした。
そこでやっとソラはサブミッションを解く。
それとともに羽は力なく倒れこんだ。

「ソ、ソラ、朝早くからどうしたんだよ、それに今日は休みもらってんだよ!?」
「だからって寝てていいわけないでしょ!」
「でも休みもらったし…」
「ばか! 今は年末、忙しいのよ、走るし、その中でくれた休みなんてあってな
いようなものなのよ!」
「う、うん…」(走る?)
「いい、これでもまだ休むなんて言うならま〜た〜!」

ソラは羽の腕が動かないように手首をすねで押さえ、背中に乗ったままで脅し始
める。
そしてまた羽の首に手を伸ばす。

「ちょ、ソラ、首はだめ…ん、ひぁ、あはははははは!」
「ほらほら〜、行くんでしょ〜?」

ソラは怒っているはずなのだが実に楽しそうだ。
羽が動けないのをいいことにソラの手は首から脇腹へと移動していく。

「あははははははははは!!?っひ、っあははっはっは!」

羽は笑いすぎて呼吸困難寸前だ。

「どう?」
「はぁ、はぁ、わ、わかった、行くからもう許して…」
「やっぱりダメ〜」
「え、ま、待っ、あははははは!?」

こんなやりとりを何度か繰り返し、小一時間が過ぎた。

「うん、楽しませてもらったし、もうそろそろ仕事が始まるから行こっか♪」

ソラは羽の背中から下りて微笑んで言った。
羽は笑いすぎでぐったりしている。

「ほら、早く行くよ」
「鬼、悪魔」

羽は寝っ転がりながら顔だけを向けて言った。
さすがにソラもやりすぎたと感じたのかばつの悪そうな顔をしている。

「う、は、早く行こうか」
「わかったからちょっと待って、着替える」

羽は掛け布団から這いずり出ると膝に手を着きながら立ち上がり、答えた。

「じゃ、じゃあ、私は廊下で待ってるから…」

頬を少し赤くしながらソラは羽の部屋から逃げるように出ていった。

(朝から疲れた…、でも仕事に出るならクイントさんとの模擬戦もできるかも…)
「ぃよっし、やぁぁるぞぉぉぉお!」

着替えが終わり、廊下に待たせていたソラと合流して職場へと向かう。

「あれ、僕達が一番乗りじゃない?」
「そうみたい、ね」

ソラの顔がわずかにひくついている。

「? じゃあ、早く事務仕事終わしちゃおうよ?」
「おい、おまえら何してんだ?」

二人が立ち尽くしていると、いきなり後ろから声をかけられた。
二人の情けない悲鳴に声をかけた人物はやれやれと肩をすくめる。

「おいおい、そこまで驚くなよ」
「それなら、いつのまにか後ろに立ってるって状況を作らないでください!」
「ふぅん、後ろに立たせるおまえらが悪い、それに俺は死神、レキ・ジェハード
だからな!」

レキの顔には自信が満ちている。
ソラの反論もレキには通じることはなかった。

「で、おまえらは何してんだ?」
「僕らは仕事に来ました」
「は?」

羽の言葉にレキは口を開けてぽかんとしている。
対するソラは何かから逃れるように顔を背け、まずそうな雰囲気をかもし出して
いる。

「だから仕事を…」
「今日はみんな休みだぞ」

沈黙が流れる。

「…ねえ、ソラ? みんな休みなんだってさ〜」

ゆっくりと口を開いた羽はすごい笑顔をしている、何がすごいというのかはわか
らないが、ともかくレキがひいているのは確かだ。
ギチギチと聞こえそうなほどぎこちなくソラは顔を羽の方向に向ける。
見つけた笑顔にソラは大量の冷や汗を流して笑顔を返す。

「っ、ごめん!」

嫌な雰囲気のなかでなんとかソラは謝ることに成功した。
しかし羽の顔は依然としてすごい笑顔のままだ。

「ふ〜ん、寝込みを襲ってきたのにそれだけなんだぁ〜?」
「ちょ、ちょっと!?」
「僕は悶え死にしかけたんだよ!? それに何回も何回もやるし…」

ただ羽は事実を述べているだけだがレキの顔がニヤニヤしている。


「もう、誤解されるような言い方でそれ以上言わないで! 今度書類手伝うから
許して? ね?」
「(こいつらほんとに仲いいな)おい、なんでもいいんだけどクイントさんと模擬
戦するんだろ。」
「あ、はい、そうですけど」
「よし、俺もやるから、よろしく」
「あ、よろしくおねがいします」

不意に伸ばされたレキの手に羽も手を伸ばして握手をしようとする。

「ちょっと待ってよ、羽!」

ソラが割り込んで羽とレキの握手を遮った。

「なんだ、ソラ、こいつは決定事項なんだぜ?」
「誰が決めたんですか!」
「決まってんだろ…俺だぁぁぁぁぁ!」
「ですか…」

半ば予想どおりな、ソラにとって絶望的な答えが返ってきた。
もはやソラは反論するのをあきらめたようだ。

「まあ、そういうわけだから、訓練室行くぞ」
「え、もうですか!?」
「ああ、実はさっきクイントさんとメガーヌさんがコンビネーションの練習して
んのを見つけてよ、クイントさんが妙に楽しそうなんでちょっと聞いてみたんだ
よ、そこでおまえたちと模擬戦の約束してるってことだから、俺とタッグでって
提案したらオーケーしてくれたんだ。今は訓練室で待ってくれてる」

羽とソラはレキがクイントのことになるとすごい力を発揮することは知っていた

しかし羽とソラの二人は実際にそれを見る機会がなかった。
レキとクイントは二人の先輩である。
だがクイントは中での仕事が中心、事件で駆り出されることも少なくないのだが
やはり全体で見るとデスクワーク、模擬戦での教官のような立ち回りが多い。
ちなみにクイントとの模擬戦はひそかに人気がある。
変わってレキはほとんどが前線での戦闘を主にした仕事ばかり。
誰に呼ばれたかはわからないが「死神」という二つ名を持っている。
先輩といっても全く違う仕事をしている。
それは仕方のないことなのだがそのせいでレキとクイントの会う機会は少ない。
それでもレキはクイントを気に入っているらしい。
レキが息継ぎもなしにクイントのことを矢継ぎ早に話す表情は心なしか柔らかか
ったようだった。

「そうなんですか、なら早く行きましょうよ」
「大丈夫なの?」
「うん」

羽は軽く言ったものだったがソラもそれなりに心配しているようだった。
顔を覗き込み、伺うように聞いている。
この光景を見ているレキは置いてきぼりにされているような気分を覚えたのか、
一つ咳払いをして声をかける。

「なら、さっさと行くか」

のろけ放題な二人はレキのことを思い出したように振り向き、羽は勢いよく首を
縦に振り、ソラも少し控え目にうなずいた。

「ホントにおまえらは…ふぅ、まあいい、とっとと行くぞー」

ため息を混ぜ、少し肩をすくめたレキは二人を連れて職場を出た。
クイントとアルピーノが待っている訓練室へ向かうレキの足が急いでいたのは言
うまでもないだろう。
レキは辺りをキョロキョロと見回して落ち着きなく羽とソラを先導していた。
訓練室に到着すると羽とソラを置いて一人でクイントに向かって走っていく。

「お、ほんとに連れてきてくれたんだ。ありがとうね、レキくん」

クイントはレキにまぶしいほどの笑顔を向ける。
レキは一瞬そのまぶしさにたじろいでしまったが、言葉をしぼりだす。

「そんなことはないです、俺が無理矢理お願いしたんですからトーゼンですよ」

カタコトに話すレキにクイントはクスリと微笑む。
その間に羽とソラも二人の集まっていた。
離れた場所にいたアルピーノも微笑みながら歩み寄り、レキとクイントに話しか
ける。

「じゃあ私は羽・ソラ側に着くから頑張って」
「うん、そっちもね」
「マジですか…」
「あぁ、そういえばそうだった!」
「そういえば…!」

アルピーノの言葉にクイントはうなずき、レキは苦笑い、羽とソラは驚きの声を
あげた。


訓練室の真ん中に集まった四人を二分するようにアルピーノが羽とソラを引き連
れて訓練室の片側に向かう。

「いやだったのかしら?」
「そんなわけないですよ!」
「そんなわけないじゃないですか!」

アルピーノのちょっとしたいたずらだろうが羽とソラと向き合い、無表情で詰め
寄る。
古い話だがクイントと出会う前のアルピーノは冷たい空気を纏った才色兼備な科
学者兼召喚師で「氷面の科学者」、「インセクトチューナー」と呼ばれて恐れら
れていた。
そんな過去を耳にしたことがある二人は勘違いをしているのだろう、慌てて弁解
を図っている。
表情を崩し、アルピーノは言葉を続ける。

「私は補助に回るから戦うのはあなたたち二人まかせなのだけれどね、頼んだわ

「はい、まかせてください!」

アルピーノはにこりと二人に笑顔を向け、羽とソラの後方へと下がっていった。

「羽、あの二人だって人間なんだから隙はあるはず、チャンスがあれば攻めるわ
よ。でもメガーヌさんの補助は強力だから空回りしないように」
「わかってる」

先生のように指を立て、ソラが羽に注意を促す。
羽はおざなりに返したがそれでもソラは満足そうに背中を向けた。

「とっておきも使っちゃダメだからね」

思い出したように振り替えって羽に釘を刺した。

「え、ダメ!?」
「絶対ダメ」
「うぅん、わかった…」

ソラの忠告にしぶしぶ返事をして自身のデバイスを展開した。

―「クイントさん、メガーヌさんがあっち行っちゃいましたけど大丈夫ですか?


ニヤニヤしながらレキはクイントに尋ねる。

「ふふん、あたしがメガーヌの補助なしじゃ戦えないって思ってるのかしら?」
「そういうわけではないんですけどね、お手並み拝見といかせてもらいますよ♪


自信満々といった様子でクイントはレキに答えたが、レキは軽く言葉を返し、苦
笑いのような笑みを浮かべ続けた。

「見てなさいよ。それより、どうやって戦う? プランとしては二つあるわ。強
化された二人を倒すか、その前にメガーヌを倒してから倒すかの二つくらいだけ
ど…」

話の途中だったがレキはその提案に迷う事無く瞬時に答えた。

「二人を先に倒すほうで」
「やっぱり! レキくんもそっちだよね♪」

クイントは仲のいい友達に会った子供のように無邪気に笑いながらレキと拳を合
わせる。

「じゃあ、あたしは羽の相手をするわ」
「わかりました、それなら俺がソラとやります」
「決まりね」

二組のチームで話がまとまった。

「そっちはいいかしらー!」
「いつでもいいですよー!」
「メガーヌさん、スタートお願いします」

だだっ広い訓練室の端から端まで声を届けるために大声でやりとりを交わす。
アルピーノは羽とソラに運動能力、魔法効果上昇の補助魔法をかけ、同時に簡単
な攻撃魔法を一つ作り出した。

「それじゃあいくわよ、レディ、ゴー!」

アルピーノは合図と同時に作った攻撃魔法を打ち上げ、大きな音と共に炸裂させ
た。
スタートに相応しい爆音だ。
それと同時にソラとクイントは魔方陣を展開する。

「炎熱の詩を歌い、衝撃の炎の波を作らん、ヒートッウェイブッ!」
「リィボォルゥバァァァァァシュゥゥゥトッッ!」

二人が放った魔法はお互いのペアの中間でぶつかり、勢いよく弾けた。その際に
衝撃波と爆煙が拡がる。
羽とレキは魔法がぶつかり合った瞬間に動き出し、爆煙の中に入っていった。

「すごい、クイントさんと相殺できちゃった…」

ソラが数瞬呆けていると、爆煙の中で煌めくものがあった。
羽の剣撃とレキの大鎌の斬撃だ。
二つの煌めきが重なりあう度に少しずつ煙が晴れていく。

「へぇ、なかなか速いな」
「それは、どうも! 空ぅぅぅぅぅっ閃っ剣!」

羽は飛び退き、爆煙から飛び出し、空中で自身のデバイス、ハルを右手で大きく
振り抜いた。
刃から衝撃波が放たれ、それは爆煙を巻き込みながらレキに襲いかかる。
しかし羽が飛び退き、空中に停止した瞬間、深い蒼に発光した道が羽の右隣を通
っていた。

「羽っ!」
「羽!」

気づいたソラとアルピーノは叫ぶが羽の耳には届いていない。
羽がハルを振り抜くと同時に、クイントが動いた。
その道を走り、羽から衝撃波が飛ぶのとすれ違いにがら空きの右脇腹へと拳を叩
き込んだ。
羽は無理やりに息を吐き出させられ、勢いよく吹き飛び、壁に叩きつけられた。
膝をついて呼吸を整える羽を見る。

「もっとがんばってもらわないと、すぐに終わっちゃうよ?」

いたずらっぽい笑顔を浮かべるクイントに対し、地面にいたソラは魔法を放つ。

「燃えたりし赤き弾丸、クリムゾン・バレットッ!」

ソラの周りに炎の弾丸が3つ作り出され、そのすべてをクイントに向かって打ち
出す。
しかし狙われている本人は微笑み、狭い足場でステップを踏みながら次々と迫る
炎の弾丸を軽く避けて見せる。
呼吸を整えた羽が立ち上がった。

「まだまだ、終わりませんよっ!」

弾幕を避け続けるクイントに羽が踏み込む。
依然として魔法が当たらないクイントにソラは焦りつつも制御に集中している。

「相手は2人なんだ、忘れんなよな」
「ソラ、前!」

不意にアルピーノの声が響き、ソラの目の前に大鎌を振り上げたレキが現れる。
予想外な出来事にソラの集中は途切れ、クイントの周りを行ったり来たりしてい
た弾丸が制御を失い、あさっての方向に飛んでいく。
問答無用に振り下ろされた大鎌はソラの反応ギリギリの回避行動によってバリア
ジャケットの袖を切り裂くだけにとどまった。

「不意討ちなんて…」
「誰が不意討ちをした! 俺は正々堂々と目の前に出てやっただろうが! 実践
なら、死んでたんだぜ?」
「っ!」

言いくるめられたソラが目を見開き、すぐに右下に視線をそらす。

だがそらした目線の先にもレキが現れる。

「目は口ほどにものを言う、戦闘中に目はそらすなぁぁぁぁぁ!」

レキが低い姿勢から遠心力を利用して足をさらうように鎌を振るう。
避けるには気づくのが遅かった。

―「裂っ竜刃っっ!」

クイントによって空中に作られた足場で勢いよく羽が剣を真横に振るう。
しかし羽の剣はクイントが片手で張ったバリアに防がれ、それより先に進むこと
が許されない。

「っ…なかなかに、重いわね」
「くっ、うあぁぁぁぁぁ!」

クイントのバリアにヒビが入る。

「うそ!? まずい!」

空中と地上、金属と金属がぶつかり合ったときの独特の甲高い音が響く。

「なるほど、そうきたか」
「…避けれませんからね」

地上でぶつかったのはレキの大鎌、絶影とソラの愛刀、ヒメである。
地面すれすれからの足払いは避けるには難しいものがある。
人は動物の中でも自分からバランスを崩して動くものだと言われている。
避けるには飛ぶにしても足を上げるにしてもひとつのモーションが入る。
それは相手にとってみれば隙以外の何物でもない。
それが力を込めたものならなおさらだ。
避けるために動く時間はソラには存在しなかった。
だからソラは地面すれすれの足払いを避けずに、ヒメを地面に突き刺すことで受
けたのだ。

「なかなか、やるじゃない」
「くぅぅぅぅぅ、手が、しびれた」

一方、空中での撃音は羽がバリアを破り、ハルがクイントに当たろうかというと
ころで左のリボルバーナックルで弾き返された音だった。
クイントのその動きに無駄はない。
バリアを破られた際の右手を引き戻し、体の回転を使い最短のコースでハルに打
撃を与える。
あまりにもスムーズなそれは流麗という言葉に当てはまるほどのものだった。
羽はしびれた手でハルを握り直すが、考える暇もなくクイントの追撃が迫る。
蹴撃は腕に当たり、拳撃は胸を貫く。

「(…ソラ、悪いけど、とっておき使う)」
「(な、ちょっと待って)」

羽は念話を繋ぎ、一方的に切った。

「しょうがないなぁ」
「何がしょうがないんだ?」
「っ!」

質問と同時にレキが鎌を突き出す。
切れることはないにしても鎌の刃の部分であることにに変わりはない。
重い一撃がソラの左肩をきしませ、レキとの距離が空く。
追撃はない。

「クリムゾン・バレットッ!」

後方への勢いが衰えると無詠唱で炎の弾丸を二発放った。
直線的な動きのそれはレキに向かうが簡単に大鎌の餌食となってしまう。

「紅閃桜っ!」

ソラが目の前の空間を大きく切り裂くと、桜の花びらの様な炎が剣閃に沿って現
れた。
花びらは妖しく輝き、レキの視線を固定させ、動かすことを許さない。

「襲ぅぅ、騎閃っ!」

声によってレキの視線が自由になる。
レキが声に気づいた瞬間にはソラがすでに懐に入り込んでいた。

「なにっ!」

レキが鎌を振るおうにもスペースがない。
レキは勢いを乗せた当て身を受け、体勢を崩す。
ソラが腰の左にヒメを引き寄せ、居合いのような構えから一閃。
レキは鎌の柄で受ける。
しかし体勢が悪く、受けようにも受けきれない。
仕方なく柄を傾け、勢いを殺す。
ヒメは甲高い音を立てながら流れ、弾き上げられる。
レキが気を抜いたのもつかの間、ソラの左手ががら空きの脇腹に狙いをつけ、魔
法の名前を紡ぐ。

「クリムゾン・バレット!」

炎の弾丸がレキに撃ち込まれる。
まだソラの勢いは衰えない。

「失礼しますっ!」

苦悶の表情でひざを曲げて仰向けに吹き飛ぶのをこらえているレキの体を踏み台
に、かじった程度の飛行魔法を駆使してソラは飛んだ。
踏み込まれればさすがのレキでも支える術はない。
なんとも言えない音を立てて頭から勢いよく地面に倒れた。
もんどりうっているレキの状況を全く知るわけもなくソラが空中に延びているウ
ィングロードの末端に降り立つ。

「うおぉぉぉぁぁぁぁ!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

いきなりの大声にソラは一瞬ひるんだ。
羽は加速魔法を使い、風のような速さで突進しながらクイントに打ち込み、対す
るクイントは両腕のリボルバーナックルのタービンを回してお互いの攻撃をぶつ
ける。
羽が押し負け、ウィングロードを滑る。
そして勢いが弱まるとまた突進をする。
そんなやりとりが何回か続けられる。
それはソラが見つめる前から続けられていた。

「…僕は、負ける気、ありませんから」

胸に衝撃を受け、むせながらも途切れ途切れに言葉をつなぐ。

「いまさらっ!」
「…スウィフト・ムーヴ」

とどめの蹴りを放ったクイントの視界から突然羽が消える。
蹴りを受けて吹き飛んだわけではなく、先ほどまでとは比べ物にならないほど速
く動いたのだ。
クイントがあわてて見回すと羽はクイントから見て左にいる。
羽はその場から動かずに息を整えていた。

「…なかなか、おもしろくなってきたじゃない」

がちがちに固まった金属が魔力という潤滑油によって―

「わたしも、負けるのは好きじゃないのよね」

―クイントが不敵に笑うと二つの手甲のタービンが爆発的に回り始めた。
羽は爆音に反応し、顔を上げる。
少し息が荒い気もするが戦闘中では普通と言えるだろう。

「…いきます」

羽の言葉に応じてクイントが構える。
羽は深呼吸をして空気を思いきり吸い込み、クイントに狙いを定めた。
何の変哲もない踏み込み。
だが速い。

「ふっ!」

短く息を吐き、横にハルを振るう。
勢いをつけた剣撃は風を纏う。

「あまぁぁぁい!」

右のリボルバーナックルが真正面からハルを受け止める。
クイントの左腕が引かれている。
次には羽が吹き飛ばされる画が浮かぶ。
しかしそれは成されない。

「おぉぉあぁぁぁぁぁ!」

ハルから風が逃げる。
それは暴れ、受け止めたクイントに見えない刃として襲いかかる。
クイントは驚きと共に暴風によって手が出ない。
頬に、腕に、脇腹に傷がつく。

「こんなとっておきを残してるとは、ね!」

だが足が出る。
吹き飛びそうな体を無理矢理にねじり、羽の左の脇腹を蹴り上げる。
吹き飛ばされるような威力ではなく、牽制のような一発。
羽は意表を付かれ、驚いたように離れるが、少し距離をとると再びウィングロー
ドを蹴りだす。
クイントも体勢を整え、迎え撃つ。

「くっ、うおぁぁぁぁぁ!」

一直線に剣を振るい、ぶつかる。
だが風が弾ぜた瞬間、クイントが絶妙のタイミングで左手を滑り込ませ、バリア
を張った。
そのバリアは顔を隠すほどしかない。
しかし風はバリアにぶつかり威力のないものへと変わる。
それは右腕の振りきる速さを上げた。

「はぁっっ!」

右腕で弾く時間が短縮された。
それは風の刃の爆発を押し戻し、真横に暴れさせる。
地面からうめき声が聞こえるが気にしていない。
羽は弾かれ、ウィングロードをけずる勢いで滑らされる。

「うおぉぉぉぁぁぁぁ!」
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

ぶつかる度に羽の攻撃をクイントは完璧に近い形で防いでいく。

「そんなんじゃもうあたしは倒せないわよ!」

さんざんぶつかり、弾かれた羽に言葉を投げる。
物理的、魔法的に返されたこの手はもはや使えないことを羽もわかっている。
しかし、また踏み込む。
そして、羽は二つ目の「とっておき」を出す。

「あぁぁぁぁぁあぁぁ!」
「…代わり映えしないね」

羽はずっと払ってばかりだった剣閃を突きに変えた。
ここでクイントは防御の形を変えた。
突きならば纏う風が激減する。
先に左手でバリアを張り、右手を引いてカウンターの体勢になる。
しかし実際は風が減った代わりに冷気が纏われている。

「氷ぅ嶺ぃぃぃ騎閃っっっ!」
「さぁせるかあぁぁぁぁぁぁぁ!」

羽の突きがバリアに触れる前にいきなりハルが横から現れた大鎌にさらわれた。

「レキくん!?」

クイントが困惑の中で叫ぶ。
鎌がハルに触れている部分に氷がつく。

「だぁぁぁあぁ!」

レキはそれにかまわずハルを巻き込み、上空へと弾き飛ばす。

「撃ち貫く…」
「もらったぁぁぁぁぁ!!」

ハルが手から離れ、防ぐ手段がない羽は攻撃のための魔法を詠唱する。
しかし言葉が続かない。
レキは容赦なく鎌を振るう。
羽だけでなくクイントも間に合わないと確信した瞬間、炎の弾丸が鎌に付いた氷
に当たり、溶かした。
鎌がピタリと止まる。

「殊勝だな、ソラ…っておいぃぃぃ!?」

レキが炎の弾丸が飛んできた方向に振り向くと、そこには魔方陣にヒメを突き立
て、周りの魔力の残滓を集めているソラの姿があった。
集まった魔力で作った球体は炎が閉じ込められたような赤、大きさはソラの体の
頭から太ももまでが、レキで言えば上半身が隠れるほどの大きさがある。
吸収している魔力が減り始めたことから見て、残る詠唱もわずかなようだ。

「―永遠の眠りに招かれよ!」
「「ソラ!?」」
「やっべえ!」

レキがいち早く動き、叫んだクイントと羽を置いて砲撃の軌道上でバリアを張る


「シャイニングヒートッ・ブレイカァァァァァァァ!」

ソラはヒメを抜き、球体越しにレキを示す。
球体から炎のように猛々しく輝く魔力が溢れる。
魔力の奔流が地鳴りのような音を立てながらレキに襲いかかる。
レキの張ったバリアに勢いよくぶつかると大きな流れの中から魔力の一部が行き
場を失い、細い道筋となって飛び出す。
ある一本が空中に舞っているハルに当たり、弾き飛ばした。
バリアを支えるレキの腕が軋み始める。

「こ、の、なめんなぁぁぁぁぁ!」

レキは片手で張ったバリアにもう片方の手も加える。
しかし相手は長距離では最も威力が高いと言われる砲撃、ブレイカー。
バリアが耐え切れずにゆっくりと飲み込まれていく。

「レキくん!」
「来るなぁぁぁぁぁ!!」

クイントが加勢に出ようとするがレキはそれを強く拒む。

「でも!」
「うぉ…手助けなんてされたら、くっ、かっこ悪いでしょう?」

レキは不敵な笑みを浮かべながら言葉を続けるが後ろを振り向くほどの余裕はな
い。
ソラの手元の球体が小さくなっていく。
しかしそれとは反比例し、スパートをかけるように威力が増していく。

「うおぉぉぉぉぉ!」
 
ついにバリアにひびが入る。

「ちぃっっ!」

レキが舌を打ち、悪態をつく。
ひびが大きくなり、バリアの上から下までになってしまった瞬間に高い音を立て
て砕けた。
レキは瞬時に腕を目の前で交差させて防御の形を取る。
荒ぶる魔力がレキの体にぶつかり、飲み込み、吹き飛ばす。
だが球体に集められた魔力はまだピンポン球ほどの大きさであるが残っている。
レキが壁に叩きつけられるがブレイカーが止むことはない。
嫌な音を立てて壁がへこむ。
レキが押しつぶされるとあきらめかけたその瞬間に全てを出し切った赤い球体が
消え、砲撃が止んだ。

「(へへっ、どうにかなりました)」
「(もう、無茶ばっかりなんだから)」

レキは念話でクイントに無事なことを伝える。
レキには少ないながらもここまでに蓄積されたダメージがあり、不意打ちとはい
えバリアを破り、壁まで吹き飛ばされ、なおかつ壁をへこませるほどの威力を持
ったブレイカーを受けた身にはクイントがいる場所まで声を張り上げるのは辛い
ものがあった。
「シャイニングヒート・ブレイカー」で魔力を放出し尽くしたソラは地面に降り
、ヒメを杖代わりにして立っている。

「さてと…羽、まだ続ける?」

クイントはソラを一瞥して羽にやわらかい笑顔を持って尋ねる。
誰がどう見ても余裕があるのは終わりを切り出したクイントと自分は戦うつもり
がないと後衛で補助魔法をかけていたアルピーノの二人だけだ。
羽は現在の状況を把握しようと辺りを見回してソラに念話をつなぐ。

「(ソラ、どう?)」
「(私はさっきので魔力が空っぽみたい… 羽は?)」
「(僕も時間切れ…)」
「(……完璧に負けちゃったわね)」

羽はソラとの念話で確認をとると残念そうにうつむき、戦闘を続けるつもりは無
いことをクイントに示す。

「(メガーヌ、終わったわよ)」
「(わかったわ。それじゃあ二人にそろそろ魔法を解くって知らせてちょうだい
)」
「(了解〜)」

クイントが楽しそうにアルピーノに返事をして念話を切る。

「羽、ソラ」
「…はい」
「…なんですか、クイントさん」

戦闘で疲弊し、加えて負けてしまった二人には倍以上の疲労感が襲っていた。
羽は膝に手をついて、ソラはヒメを杖代わりにうつむいている。
二人は怪訝そうに顔をあげる。

「メガーヌがあんたたちにかけた補助魔法を解くそうよ。覚悟しておいた方がい
いかもね、はじめてあたしが解除されたときのあれは大変だったから…」

楽しそうにクイントは話しかけるが、返事をする気力すらもないのであろう二人
は顔を縦に動かしてどうにか反応を示している。
そしてクイントが言い終わるのがまるで聞こえていたかのようなタイミングでア
ルピーノが二人への魔法の効果を薄めていく。

「あ…」

羽がふらふらと崩れるようにウィングロードに手をついた。
「スウィフトムーブ」の影響で体の筋肉が軋み、あちこちから突き刺すような痛
みが悲鳴のように体中に響いているのだ。

「あれ……」
「大丈夫?」
「羽!?」

羽は四つんばいの状況からさらに腕も立た無くなり、顔から落ち、横になった。
そのおかしすぎる様子を見ていたクイントが慌ててウィングロードを走る。
ソラもヒメを動かし、羽に歩み寄ろうとするが魔力も空っぽな体はソラの言うこ
とを聞こうとしない。
慌てれば慌てるほどにぎこちなくしか動かない。
足が絡まり、片足が宙に浮く。

「ぃよっと、ととと」
「…レキさん」
「お前もあんまり無理すんな。体は動くだろうが、魔力の方は空なんだろ?」

倒れ掛かるソラだったが、傾き始めたところでちょうどよくレキが肩の辺りを支
えたことによって倒れることは無かった。
ブレイカーを受けながらも余力のあるレキにソラはほっとした反面、遠さを感じ
ていた。

「そういうレキ君もね」

空中に縦横無尽に伸びているウィングロードが消え、羽を抱えたクイントが声を
かけた。

「ぅぐ、せっかくの見せ場なんですからそんな台無しにするようなことを言わな
いで下さいよ」
「ふふ、しっかりかっこよかったよ?」

先ほどまで戦闘をしていたなんてことを感じさせないような笑顔がレキに向けら
れる。
顔が熱を持つほどよろけかけた彼だったが、持ちこたえたのはなかなかだっただ
ろう。

「それより、羽が倒れちゃったから医務室に運ぶんだけど、ソラも連れて行きた
いんだ。だから手を貸してくれない?」
「っもちろんです!」

少し作られた溜めは頼られている喜びと一緒に医務室まで行けるという喜びの混
ざったものだろう。
ゆっくりとクイントの後ろからアルピーノも近寄ってくる。

「でも、体、大丈夫?」
「私も手を貸すわよ?」
「大丈夫です、任せてください! 俺にはこいつがいますから。絶影!」

周りの地面がえぐれ、削れたかけらを吸収するように人型の何かが現れる。
その精製された人型にソラは担がれる。
そんな芸当を目の当たりにしたクイントとアルピーノは目を丸くしてお互いを見
合わせる。

「え、あの、レキさん!?」

一番驚いているのは急に担がれたソラだろう。
担がれているのに手足をばたつかせている様子が混乱している様をよく表してい
る。

「大丈夫だって言ってるだろ。暴れやしないから安心しとけ」
「そう言われましても…」
「手が足りてるなら私はゼスト隊長に報告に行ってくるわ」
「あ、おねがいするわね。メガーヌ」


「――というわけです」
「ふむ」

話し終わったのはメガーヌ、そして手を机の上で険しい顔の前に結んで対峙して
いるのは首都防衛隊隊長ゼスト・グランガイツ。

「やはりあの二人を引っ張ってきたのはよかったのかもしれないな」
「そうですね、あの二人と戦っているにもかかわらずソラの動きはなかなかでし
た」
「そうか、ソラは適応力、瞬発的な状況判断能力、同年代と、いやそれより上の
年代と比べても目を見張るものがあった」

ゼストは満足そうである。
しかしアルピーノはほんの少し陰りのある言い方をしていた。

「ですが羽は、おかしいんです」
「ん? 何がおかしいんだ?」

途端にゼストは眉をひそめる。

「私のブーストに合わない動きをするんです」
「というと?」
「はい、羽が加速魔法を使ったときだったのですが私のブーストの効果の上をい
っているんです」

ゼストは一瞬驚いたような顔をしたが、徐々に組んだ手に隠すように顔を動かす

どうしたのかと伺うためにアルピーノが口を開いた瞬間にゼストはゆっくりと笑
い始めた。
こんなことを予想すらしていなかった彼女には驚くほかない。
ゼストがひとしきり笑ったのを見ると彼女はようやく声をかけることができた。

「あの、なにかおかしなことを言ったでしょうか」
「いや、なに、羽も連れてきてよかったと思ってな。あいつはこちらの思惑通り
には動いてくれないんだ。成長期ということもあるのか本当によく伸びる」
「たしかに伸びていますが、それを考慮したうえでも飛びぬけているんです」

成長期なんて簡単な言葉でくくられてはたまらないといった顔でゼストの顔から
目をそらさない。

「ふむ、わかった。羽についても調べてみよう」

ゼストは羽とスカウト時に戦うことがあり、その経験が元の発言だった。
しかし調べないでの勘だけの発言は許さないという視線が語句を生み出させた。

「ところでおおまかな訓練室の状況はわかったが、他はどうしたんだ」

ゼストは視線の痛さに話を変えるために語句をつなげる。
ただそんな理由よりもゼストは本当に隊員たちが心配だったのだ。

「今は多分医務室にいるはずですね。羽が倒れましたから」
「何、大丈夫なのか」
「多分体がスピードに追いつけなかったのでしょう、疲れただけなのではないの
でしょうか」
「そうか…無理をさせてしまったからな」

ゼストの言った羽の無理というのは前日の任務のことを指している。
木を探させ、切り、雪まで降らせた。
それに付き合っていたクイント達も大変なのは言うまでもないだろうが羽にかか
る負担も多かっただろう。

「では私は失礼させていただきます」
「そうか、報告ご苦労だった」
「では」

電子音とともに扉が開き、ゆったりと歩いてアルピーノは隊長室を後にした。
アルピーノが向かう先は医務室。
羽の様子を見るためだ。
医務室まではそう遠くも無い。
何事も無く医務室にたどり着いた。
扉を開けようと取っ手に手を掛ける。
医務室は電子扉ではない。
なぜかといえばそうするものがいないからである。
しかし、こんなときはそれが役に立つときがある。

「ほんとに、大丈夫なのかな」

中からの声がアルピーノの耳に入った。
響いているのはソラ一人だけの声。

「やっぱり、わたしが朝に無理やり押しかけたのがまずかったのかな…」

切なそうに響いている。
羽はまだ眠っているのだろう、返事となる声はしない。

「…はあ、わたしもちょっと寝かせてもらってもいいよね」

これっきり声はしなくなった。
そっとアルピーノは扉を開ける。
三台置かれているベッドの一番窓際のひとつに二人はいた。
一歩、部屋の中に音を立てないように踏み込む。
一番奥に位置するベッドには羽が中に入って眠っている。
その太ももの横辺りの足に近い部分にソラが突っ伏すように眠っていた。
起こすことがはばかられる寝顔の二人を見て、アルピーノは戻ろうとしたが二つ
目、真ん中のベッドが目に付いた。
明らかに掛け布団が人が抜け出したような形になっていた。
わざわざ寒いこの季節に布団を抜け出したのは人のぬくもりを求めた女の子だっ
たのだろう。
アルピーノは真ん中の布団の毛布を抜き取り、窓際に眠るまだ華奢としか言いよ
うがない肩に毛布をゆっくりとかけた。
少女から伸びる手にはもう一人の手が握られている。
アルピーノは微笑んで音を立てないように医務室を後にした。
医務室の扉の前にあるのはフリースペースと称される雑談室のような役割のただ
座るだけの丸イスが壁に付けられているスペースである。

「こちらもですか」

アルピーノが見つけたのはクイントとレキ。
ため息混じりに微笑を消すことなく、やわらかく言葉を紡いだ。
壁際で隣どおしに座っている二人は会話を楽しんでいたのだろう、紙コップを持
ちながらお互いの頭を支えにして眠っていた。
レキもクイントもまるで警戒心なんて存在しないかのように気持ちよさそうにし
ている。

「そっと、しておきましょう」

アルピーノはやわらかい笑みを浮かべたままに、いつぞやのお誘いを思い出し無
限書庫へと足の向きを変えた。

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