▼第一話 
 
「羽の舞う軌跡」


第一話「羽の転機」




羽は、今にも壊れてしまいそうだった。


ゼスト隊で訓練生時代からのパートナーを亡くした悲しみ。

それを感じる時間さえ与えてくれない程の緊急出動。


託された一本の剣の重さ。


自分はこの剣を使いこなせていないのではないかという不安。

無くす前はわからなかった彼女のこの部隊での重要性。代わりになることができないという絶望感。

羽は、いつ壊れてもおかしくなかった。


「ヴ〜〜!ヴ〜〜!」


緊急出動の連絡が入る。

「都市部ハイウェイで破壊活動を行なっている者達があらわれました。被害状況は拡大中です。至急現場に向かってください。繰り返します。都市部ハイウェイで…」

また、緊急出動の要請だ。

「行くぞ、羽。」

「わかってますよ。レキさん。」

トランスポートへ向かう途中、ゼスト隊長と鉢合わせた。

「大丈夫か、羽。顔色が悪いぞ。」

「大丈夫です。」

そっけなく答える。

レキは黙ってやりとりを見ている。

「自分にはヒート・バイ・メロディがついていてくれますから。」

「そうだったな。すまなかった。俺が弱かったばかりに。」

「隊長のせいじゃないですよ。守れなかった自分が悪いんです。」

「無理は、するなよ。」

返事をせずにトランスポートに乗り込む。

羽の表情は暗くなっていた。

現場に着いた。そこは、もはや廃墟のようで、人だったもの、もしくはそれの一部が転がっていた。

しかし、もはや羽は何も感じない。

だが、レキは激昂し、すぐに飛び掛かっていった。

レキはニアSランクだ。心配はない。

この状況でなければ…

レキは、怒りに身を任せているだけだった。さらに敵の数もゆうに200を越えている。

(レキさん待ってください。増援を待ちましょう。)

念話で呼び掛けるが、レキからの返事はない。血だらけになりながらも、敵を撃破していく。

「仕方ない。ハルっ!swift move!/スウィフトムーブ!」

瞬時にレキの元まで行き、腹へ一撃を加えた。

「羽? 何をしやがる。こいつらはここにいる人たちを殺したんだぞ!?」

それだけ言って、レキは気絶した。

「わかってますよ、レキさん。だけど、あなたにも死んでほしくはないんです。死ぬのは、僕でいいんです。」

ここで、ゼスト隊長や、他の隊員がやってきた。

「どうしたんだ、羽。レキが倒れているじゃないか。」

「ゼスト隊長、レキさんをお願いします。」

「おい、待て、羽!」

羽はまたswift moveによって戦場へ向かっていった。

「隊長、命令をお願いします。」

「くっ、全員待機!」(ここでばらばらになるわけには、羽、死ぬ気か)

「いくぞ、ハルっ!ヒメっ!空閃剣、翔炎剣、いけっ孅閃烈火っっっ!」

炎と衝撃波が乱れ翔ぶ。

それによって25体は倒せた。

「まだだっ、襲騎閃、裂竜刃、連閃剛衝、歌炎翔、氷嶺騎閃。」

目にも止まらぬ蓮撃で、敵を薙払っていく。

だが、敵はまだ100は残っている。しかも、魔力もだいぶ削れていて、体もぼろぼろだ。

ゼストが増援に駆け付けた。

「羽、そろそろ下がれ。もう十分だ。」

「大丈夫です。まだいけます。」

「だが、羽、「いけます。いかせてください。」 そうか。わかった。だが、死ぬなよ。夜天のエース・オブ・エースが、増援できている。だから無理はするな。」

「わかりました。それではまた。」

羽はゼストから離れる。

「罪深き者に炸裂したるは絶氷の槍 アイシクル・バースト」

アイシクル・バーストによって、敵を30体葬り去った。しかし、アイシクル・バーストを打った瞬間、羽は倒れた。魔力が尽きてしまったのだ。そこに、敵が羽を貫こうと迫ってくる。ゼストはその様子に気付いた。だが、ゼストは羽を助けるには遠い場所にいた。

「くそっ、間に合え。」

ゼストは全速力で飛んでくる。

だが、敵は容赦なく羽に武器を振り下ろす。

「ブラッディ・ダガー」

血の色をした魔力で造ったナイフが、武器を振り下ろそうとした敵を貫き、爆発した。

「羽ぇぇぇぇぇぇ!!!」

ゼストは、ナイフが敵を貫いたのが見えたが、爆発が起こったので叫んだ。

「大丈夫ですよ、ゼスト隊長。」

独特のイントネーションでゼストに話し掛けるのは、背中から漆黒の翼を6枚生やしていて、騎士甲冑を身にまとい、先に十字架がついている杖を持っている女性である。

(八神はやて指揮官候補生か。助かった。)

(気にせんといてください。)

敵の攻撃を回避しながら二人は念話で話をしている。

(なんでこの人はこんなふうになるまで闘っとったんですか。ぼろぼろやん。)

(こいつは少し前にパートナーを亡くしてしまっていてな。まだ、どうしていいかわかっていないようなんだ。)

(ふ〜ん。ま、一気に決めたったるんで、そのひと、運んだってください。)

(わかった。頼んだぞ。)

そう言って、ゼストは羽を担いで、退がった。

「ほな、やりますか。ディアボリック・エミッション!」

一気に、その場にいた敵が闇に飲まれ、消えていった。

戦闘は終結し、各々の部隊の局へ戻っていった。

そして羽は医務室に運び込まれた。

レキが羽の状態について聞いている。

「魔力の使いすぎなので、寝ていれば治りますよ。しかし、肉体的にもダメージがあるため、四時間程は目が覚めないかも知れません。」

「そうですか。ありがとうございます。」

「あなたも怪我人ですからね。お大事に。」

「はい♪ありがとうございます。」

「それでは。」

医師は仕事に戻っていった。

「まったく、こいつは無茶しやがる。俺まで殴りやがったしな。生き急いでんじゃねえよ。」

レキは寝ている羽に話し掛ける。

「ふう。寝てるだけなら別に大丈夫だよな。」

言いたいことを言ったようで、レキもまた仕事に戻ろうと席を立った。だが、部屋を出ようとすると、誰かが入ってきた。

「はやてじゃねえか。」

「レキさん、お久しぶりです。そのひと、どうなってはるんですか。あんなところで魔力使いきって倒れるなんておかしいですよ。」

八神はやて指揮官候補生が羽を訪ねてきたのだった。

「俺にもこいつがわからなくなってきたところだ。」

「そないなことでええんですか。このひと死にますよ。」

「こいつは、こいつのパートナーだったソラが死んでから、変わっちまったんだ。」

「知ってます。せやけど、それでは逃げてはるだけですやん。わたしがなんとかします。」

「そうか。あと四時間は起きないそうだが、がんばれよ。じゃあな。」

そう言うと、レキは仕事に戻っていった。

「え!? 四時間!? まあ、しょうがないね。」


そして四時間経過


羽は目を覚ました。だが、自分はベッドに寝かされていて、医務室らしきところにいる。さらに、ハルとヒメを探そうと、羽が体を起こそうとしたとき、自分のベッドのうえにうつぶせになって眠っている女性を見つけた。羽ははやてが助けてくれたことを知らない。なので、誰なのだろうと混乱していた。

「あの、どなたですか。」

羽ははやてをゆする。

「ん〜。あと5分。ん!? あと5分やない!おはよう!」

羽はそんな女性を見て、ソラのことを思い出していた。

「ええと、羽君? でええんやったっけ?」

「はい。あってますよ。」

「それでは自己紹介を、羽君が倒れたところを助けた八神はやて指揮官候補生です。歳はいけいけの11歳です。」

「僕と同じ年ですね。それと、羽と呼んでくれてかまいませんよ。それで何をしていたんですか。」

「そんな、羽が起きるのを待っとったんよ。」

「で、起きるのを待って何をする気なんですか。」

「まあ、要するに話し合いや。」

「助けていただいて、どうもありがとうございました。こんなもんでいいでしょうか。」

「まあ、それもあるんやけどな、本題はちゃうねん。羽がなんでそないなことに

なっとるかっちゅうことや。」

「僕は普通ですけど?」

「敬語苦手やから普通にしゃべってくれてええで。普通の人は戦闘中に魔力使いきって倒れるなんてばかなまね、せえへんねん。」

「ばかなまねか。かまわないですけど。別に。」

「死んでもええて言うんか。」

「そうですね。そうかもしれない。」

「ふざけるんやないで。パートナーを失ったぐらいでめそめそしとるなんて、ソラさんもうかばれんよ。」

「あんたに、あんたに何がわかるっていうんだ。あんたはどうせエリートで、大事な人が死ぬことの辛さなんて知らないんだろ!」

はやては羽が言っていることがわからなくなった。

だが、羽にとってソラがどんな人か、少し、見えた気がした。

「…しっとるよ。大事な人が消えてしまう辛さ。わたしの場合は闇の書の規制人格やったんやけど、リインフォースて名前をあげた。家族としていっしょに仲良うしていこうと思っとった。せやけど、消えてしまった。」

はやては最後の方はうつむいて、悲しみに耐えているような声だった。だが、凛としていた。羽は聞き入ってしまっていたようだ。

「あ…すみません。そんな過去があったのに無責任なこと言っちゃって。でも、あいつは自分なんかよりも魔法がうまかった。隊の中でも上官だけでなく、同期
にも気に入られていた。同じ剣士として、パートナーとして、俺はあいつを尊敬していた。だけどあいつがいなくなってからは、あいつの影をみるのが恐かった。」

「なんで恐なったんや。」

「俺はあいつを越えられない。仲間も、俺を見る目が、なんでソラがいなくて羽がいる、そういうふうに感じる。」

羽は涙を一筋流した。

「せやったら、越えるしかないやん。」

「え?」

羽はあっけにとられて、涙を拭かずにはやてを見る。

「せやから、ソラさんを越えるんよ。」

そう言いながら羽の涙を指で拭う。

羽は顔が熱くなってゆくのを感じた。

「越えられますかね。」

目を背けつつ、言う

「わたしはリインフォースとの約束を守るために部隊を作るんやけど、それに入れば越えられると思うで。」

羽は、自分と同じくらいのはやてが約束を果たそうとしているのを見て、決心した。

「その誘い乗りますよ。ぜひその新部隊に入れてください。」

「まかしとき。」

そう言って、はやてと羽は笑った。

そして、はやては帰っていった。

ゼストが見舞いにきた。

「羽、具合はどうだ。」

「はい。よくなってきました。突然ですが、」

「除隊したいというのだろう。」

「なんでそれを!」

「八神はやてのところに行くとすると相当な修業が必要になるからな。寂しくなる。だが、がんばっていってこい。」

「はい。ありがとうございます。」



はやては帰って、パネルウィンドウを開いた。

なのはとフェイトに連絡を取っている。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、メンバーの追加が決まったんやけど。」

「へ〜、どんな人なの?」

「はやてが選ぶんだからいい人だと思うけど、どんな人?」

「それなんやけど、羽って言って……」


こうして、羽の進路は決まり、修業へと、向かう。
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