▼第二話 
「羽の舞う軌跡」



第二章「羽と除隊届けと剣の腕」



羽は正式な除隊届けを提出しに、本局へ来ていた。

「ゼスト隊長には、わかってもらえたけど正式に除隊届けと長期休暇要請書、トランスポートの向こう一年の使用許可の申請書を出しておかないとな。」

羽は軽く笑いながら言った。そのとき後ろから声がした。

「おい、おまえ、ちょっと待て。」

羽は何かと思い、後ろを向いた。

すると、羽を呼んでいるような女性がいた。

その女性は、ピンク色のきれいな髪をポニーテールにまとめていて、本局の制服を着ている。

羽は、確認のために自分を指差した。

「そうだ。おまえだ。」

羽は自分が何かしたのだろうかと不安になりながら近寄っていく。

「おまえが主の言っていた羽と言う者か。」

「はい。僕が羽ですけど、どちら様でしょうか?なにか御用でも?」

「ああ、すまない。申し遅れたな。私は八神はやての守護騎士、烈火の将シグナムだ。」

シグナムは手を差し出し、握手を求めている。

「ええと、首都防衛隊ゼスト隊所属 羽です。よろしくおねがいします。」

二人は握手を交わす。

先日、羽を助け、新しく作る部隊に誘った、あの八神はやての守護騎士らしい。

「羽は、二刀流の騎士だと聞いたのだが、合っているか。」

「ええ、合ってますよ。これが僕の剣、rule of heart ハルと、heat by melody ヒメです。」

そういって首からぶら下げた透き通った青と赤の宝玉を見せる。

「そうか。では提案だが、羽。わたしと勝負してみる気はないか。」

「え!?」

羽は驚いた。正直いきなり勝負を申し込まれるとは思っていなかったからである。

「なにか用事でもあったのか。」

「ええ、まあ。でもかまいませんよ。」

「いいのか?」

「はい。急ぐわけでもありませんし。」

「そうか。なら演習場へ行くか。」

そして羽はシグナムに連れられて演習場へ向かう。

演習場は道場のようでそれなりに広く、身が引き締まる。

「いいか、手加減はなしだ。」

「望むところですよ。」

そういって、シグナムは赤を基調にした騎士甲冑のようなバリアジャケットに身を包んだ。

羽は、白と黒を使い、所々に赤を入れたバリアジャケットを装着する。

「いくぞ。レヴァンティン。」

「ハル、ヒメ、セット。」

シグナムが先に攻撃を仕掛ける。

羽は攻撃の速さに驚き、防御しかできなかった。

「くっ、うっ。」

「どうした。その程度か?」

シグナムの攻撃は今まで羽が戦ってきた中でも5指に入るほど、重く、鋭い。

「勝負はまだまだこれからですよっ!翔べっ!空閃剣っ!」

「むっ。」

羽はハルを使い、衝撃波を出した。シグナムはレヴァンティンを盾にして衝撃波を防ぐ。しかし、そのせいで脇が空いている。

「(いける。)裂竜刃っ!」

羽はヒメで切り掛かる。

「甘いな。」

シグナムはレヴァンティンの鞘で裂竜刃を受けとめた。

「なんだって!?裂竜刃を…(なら、)」

「あまいぞ。ふんっ!」

ヒメを弾き飛ばし、シグナムは切り掛かる。

「やばいっ!!」

羽はなんとかハルで防御をする。だが、一撃一撃が鋭く、手が痺れてくる。

(そろそろ決めたいけど、隙が見つからない、なら作るしかないか)

「どうした。このまま終わる気か?」(なにかやってくれそうな目をしているな。)

「どうでしょうね…ヒメっ!」

シグナムの後ろから回転しながら炎をまとい、ヒメが飛んでくる。

「なにっ!?」

「よしっ!氷嶺騎閃っ!」

「ちぃっ!」(挟まれた!?)

シグナムはなんとか避けて退いた。

それと同時に羽はヒメを掴み、詠唱を始める。

「打ち貫く数多の弾丸「パンツァーガイスト」クリスタル・ブリット」

羽は追い打ちに青い氷柱を5つ作り出し、シグナムに放つ。

3発は打ち消されて、2発は弾かれた。

羽は、弾かれた2発の氷柱と共にシグナムに突撃する。

「連、閃、剛ぉぉ衝ぉぉ!」

羽とシグナムがぶつかった。

2発の氷柱は、ぶつかった瞬間に消えたが、羽とシグナムは鍔迫り合いをしている。

「くっ、レヴァンティン、カートリッジロード。」

「Jawol!」

「はぁぁぁぁ!!」

羽は勢い良く弾かれ、壁に叩きつけられる。

ぶつかった壁が羽に加わった力を逃がすことができず変形した。

「うっ!」

(まだまだいけるっ!)

羽はまだ立っている。しかし、壁に打ち付けられたせいで呼吸が乱れている。

「いいだろう。レヴァンティン、カートリッジロード。受けてみろ。飛竜、一閃っ。」

「負けるかぁっ、閃孅烈火っっ!」

シグナムの飛竜一閃と羽の閃孅烈火がぶつかった。

羽は、一瞬、シグナムの蛇のようになった剣の攻撃を、打ち出した衝撃波と炎熱波で止めることができたと思った。

しかし、すぐにかき消され、羽は、切り裂かれた。

シグナムはレヴァンティンを元に戻した。

「うぅ…」(やばい、次が来る。)

(倒れないか…)「ならば!」

シグナムはレヴァンティンを鞘に納め、居合い抜きの形でいる。

「レヴァンティン、カートリッジロード。」

「Jawol!」

羽はハルとヒメを構えた。

「冷たい光に打たれて砕けろ。」

「紫電──」

「冷光空絶刃っ!」

「一閃!」

シグナムと羽はぶつかり、辺りに衝撃が響く。

「うおぉぉぉ!!」

「はあぁぁぁぁ!!」

ガキィンッ

羽の冷光空絶刃がシグナムの紫電一閃に、破られた。

羽は少し飛ばされ、倒れた。

シグナムはレヴァンティンを羽の首筋に付けた。

「はあ、はあ、わたしの、勝ちだ。」

息を切らせながら、羽に向かって言う。

「立てるか、羽。」

「いえ、辛いです。」

羽は倒れたまま、顔だけをシグナムに向けて答えた。

「…そろそろレヴァンティンを離してもらってもいいでしょうか。」

「あ、ああ、すまない。」

シグナムはレヴァンティンを羽の首元から離し、鞘に納めた。

「これでいいだろう。肩を貸してやるから医務室へ行くぞ。」

シグナムはバリアジャケットを解除して手を差し出し、羽を起こす。

「あ、どうも。」

「気にするな。」

羽もバリアジャケットを解除し、シグナムの肩を借りて、医務室へ向かっていった。

「シャマル、いるか。」

「は〜い。誰ですか。」

奥から金髪でやさしそうな雰囲気の女性が出てきた。

「わたしだ。」

「シグナムじゃない。どうしたの?お仕事は?そのひとは?」

シャマルという女性は質問をしながらも、2脚椅子を用意した。

シグナムは羽を椅子に座らせ、もう一つの椅子に座って質問に答えた。

「質問は一つにしぼれ。今日は仕事は休みだ。たが、家にいても暇をするだけだからな。本局に立ち寄ってみた。そこで、この、羽と会ったんだ。」

羽はシャマルに会釈をした。

そして疑問に思ったことがあったのでシグナムに聞いてみた。

「なぜ僕が羽だとわかったんですか?」

「昨夜、主から連絡が入ったんだ。羽と言う男を新しく作る部隊に入れる。と。そのときに写真も一緒に送られてきていたからな。」

なるほど。と、羽ははやての仕事の速さに感心したが、同時に新たな疑問も生まれた。

しかし、羽が聞く前にシャマルが抱いた文句のほうを聞かれた。

「わたしには来なかったわよ。そんな連絡。」

怒っているようにむくれている。

「おまえは昨日、急患が入っていたんじゃないのか?」

「そういえば…」

思い当たる節があるようだ。

「それならば仕方ないだろう。」

「そうなんだけどね。」

納得がいかないらしい。

「主も忙しいのだ。」

「うん。」

文句を言い終わったようなので、羽は先程抱いた疑問をぶつけてみる。

「シグナムさん、なぜ僕と勝負をしようと?」

シャマルも少し興味があるようでシグナムを見つめている。

「それは、羽の実力を知っておこうと思ってな。」

「どうでしたか!?」

負けた勝負だったが、シグナムに自分がどのように映ったか気になり、つい、勢い良く聞いてしまった。

「技のキレ、使いどころはいいと思うが、速さについていけていない。さらに言えば、技で剣撃が重くなることはあるが、普通の打ち込みは軽い。そんなところだ。」

羽は、後半の内容で落ち込みもしたが、同時に観察眼の鋭さに驚いた。

「羽さん。」

「なんですか?」

「シグナムにここまで言わせるのはなかなかないことですよ。自信を持ってください。」

シャマルは羽に屈託のないとても明るい笑顔を見せる。

「ありがとうございます。」 「ところで羽、用事はいいのか?」

「はい。体も動きませんし、ここで休ませてもらってからにします。いいでしょうか。シャマルさん。」

正直、早く済ませたいはずだが、修業が目的での用事であったので、シグナムとの一戦は、とてもいい勉強になった。

そんなこともあり、体も動かなく、急ぐ用事でもないので後に回すことにした。

「いいですよ。十分休んでいってください。」

シャマルは羽に笑顔をむける。

「そうか。だが、わたしは先刻も言ったが、暇なのでな。羽にわたしのわがままを聞いてもらった礼をしたい。」

「羽さん。シグナムにその用事を手伝うことはできないのですか。」

シャマルは親身になって羽に訴える。

「いえ、除隊届けと長期休暇申請書とトランスポートの使用許可の申請書を出すだけなので、後でいいですよ。ですが、シグナムさんにそこまで言ってもらえるのならお願いします。」

「わかった。まかせてくれ。」

「では、お願いします。」

羽は書類をシグナムに手渡す。

「では、行ってくる。羽はゆっくり休んでいろ。」

「わかりました。お願いします。」

「羽さん、こちらのベッドが空いているのでこちらで休んでください。」

「はい。すいません。」

シャマルの肩を借りて、ベッドまで移動し、寝ころんだ。


そのまま羽は眠りに就いた。
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