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高校生生徒会メンバーのお話です。

渡部和成(3年生現副会長)×今泉明良(2年生書記→次期副会長)
桜庭隆一(2年生書記→次期会長)×鈴原向陽(3年生現会長)
梶山千紘(2年生会計)


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ACT,1 渡部和成

「わりぃ、オレにそーゆー趣味はない」
即答した。
何かと言えば告白に、だ。放課後の美術室。そこにオレを呼び出してきたのは可愛い後輩の今泉。生徒会の書記をやってる二年生。だけど、性別男なのである。……ええと、あれだ、その。まあ若い時には色々カンチガイもあるよな。うっかり友情とか憧れとか尊敬とかこんがらがっちまってレンアイって思っちまうこともあるよなうんうん。そーゆーもんだとオレは思う。思ってないと男からの告白なんてやってられねえってカンジ。女で尚且つ好みのタイプであるのなら、一も二もなくオーケイするが、残念ながらこの後輩クンはオレの好みに抵触しない。ちなみにオレの好みのタイプを述べるのならば、大学生とか社会人の化粧ばっちり決めた豊かなボディラインをお持ちのオネエサマ、なのだ。ちょっと可愛い感じで線の細い男の後輩など論外も論外だ。好みと真逆。……まあ、だけど、男からの告白ってのも別に初めてじゃねえから慌てたりとかもしない。寧ろ慣れてる。オレはそれなりに顔もマズくねえし、後輩の面倒も見るし、生徒会の副会長って立場からしてそこそこ教師ウケもよい。恋愛の意味でも尊敬の意味でもオレに好意的な人間の数は多い。この今泉とだって今まで生徒会の仕事関係で和やかな関係を築いてきた。慕われてるな、くらいは思ってた。まさかその「慕う」が「先輩に対する尊敬」ではなく「恋愛」だとは思いもよらなかったが。まあでもオレは女子からは比較的頻繁に、男からも年に一度や二度はうっかり告白されることもある。だから、断るってことには慣れている。余計なことは言わないがベスト。一刀両断てっカンジに簡潔に断って、あとは無言。相手のリアクションを待つ。たいてい女子からは「どこがダメなんですか?」とか「だれか好きな人がいるんですか?」とか食い下がられるけど、男はね。その点簡単。ホモじゃないんだごめんな、で済んじまうから。仮に泣いたとしても、相手が立ち去るまでオレは傍にいてやる主義。でも無言。一時間でも二時間でも無言でいる。そのうち泣きやむ頃には相手の気持ちも落ち着いてっからさ。それに好きになってくれてありがとうとかは一応思うし。だから、今日も、コイツからの告白に即答で断って。それで、オレは無言でいる予定だった。だっつーのに。
「そーですよね。あー、良かった」
今泉はオレの返事にホッと胸をなでおろしやがった。
はあ?良かったって何?オレは今、オマエの告白断ったんだぞ?
「俺は和成先輩のことが好きです。ええと、もしよかったらその、付き合って欲しいんですけど。あ、あの一応付き合うって食事に付き合うとかじゃなくて、その、あの、好きっていうのはもちろん、こ、恋人としてっていう……」
なーんてさっきまで頬染めてたのオマエだろオマエ。ええと、オレの返事ちゃんと理解しているのか?
「すみません、先輩。お忙しいのにお時間とらせちゃって」
ぺこりって頭下げてにっこり笑って。
「あ、あのさ、今泉……?」
もしかしてオレの断りのセリフちゃんと聞いてねえのか?告白オーケイとか勘違いしてねえかよおーい?
「断られるの、判ってましたから」
すっきりさっぱりにっこりって感じの超笑顔。ええと?
「あー、そうなの?」
「ええ、だって先輩の好みのタイプと俺と、天と地の差もあるし」
「あー。そうだけど」
知ってたのか今泉よ。
「また明日からは普通の先輩後輩ってことでよろしくお願いします」
「あー……、そう、だな。うん、生徒会関係よろしくな」
「生徒総会も近いことですしね。では、また明日」
「ああ……」
ぺこり、と頭を下げて今泉明良クン退場。
オレは半ば茫然とその背中を見ていたわけで。背中だけじゃなくものすごおおおおおおく「ああよかった」的なその笑顔も見ていたわけで。
わからん。
泣くでもなく悲しむでもなく。なんで告白断って「あー、よかった」なんだ?実に疑問だ。まさかなんかの罰ゲームなのかこれ。ゲームに負けたペナルティとして誰でもいいから男に告白とかか?そんでうっかり告白承諾されたら困るから、それなりに気心も知ってて尚且つ絶対にオーケイとか言いそうもないオレに言ってみた……、とかか?
いや、オレの知っている今泉はそういうことをするやつではない。結構気真面目に、淡々と仕事をこなす生徒会書記。メガネかけて、そのメガネの奥の目がなんかこー、穏やかに笑ってるっていうの?体の線は細っこいけどだけど、理不尽なことには屈しないっていうか結構男気のあるやつ。頼りになる後輩だったりするんだけど……。ううむ、わからん。
最近の若いモンの考えてることはわからん、なんて冗談めかしてふざけたセリフ、鈴原の阿呆あたりに吐くことはオレだってあるけど、冗談じゃなくて本気で今泉の気持ちがわからんぞ。
わかんねえけど今泉の告白は本気で、それで「あー、よかった」って言ったのも本気なはず。はずじゃなくて、オレの知ってる今泉はそういうやつ。割といつも本気。冗談とかそういうことあんまり言わない。どっちかっていうと言葉選んで喋るやつ。オレは今泉をそうゆうやつだと認識してた。信頼できる後輩だとも。
だから、ますますわからん。今泉がなんで笑顔なのかなんて。
だけど。オレはこれがきっかけで今泉のことを意識するようになった。
……何故だ。どーゆーことだ。
うっかり今泉を目で追っている今日この頃のオレ。

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