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「だーからさあ、こっちのほうがいーだろ?」
鈴原向陽、またもや何かをうっかり思いついたらしい。このクソ忙しい時じゃなければオレだってオマエの意見に賛同したが。
「体育祭の、応援合戦。午前中のプログラムの中でやるよりもさ。昼飯食った後の午後イチでやったほうが盛り上がるじゃん。メシ食った後なんてさー、みんなダレてんだろうし。な?プログラム変更しよーぜー」
その案は至極真っ当だ。ああ真っ当だ。メシ食って、応援合戦で盛り上げて、そんでもって午後の競技を始めたほうがそりゃあどう考えても体育祭のプログラム的には良いだろう。だが、問題は。
後三十分でその体育祭の実行委員会、各クラスの担当者にプログラム説明だとか各種係の取り決めだとか、そーゆー会議が始まるだけどなああああああ。
「オマエっ!そーゆーことはなんでもっと早くに言わねえんだよっ!もうすぐ実行委員会始まるってこの時にっ!委員会の資料、オレらがこの間からがっつり作ってたの知ってんだろっ!オマエだって最終決済印押してんだから内容確認済みだっただろうがっ!見ろっ!そこに並べられてる素晴らしい資料の山っ!完璧だろうがっ!桜庭と今泉と梶山の力作だっ!何時間かかってんだと思うんだコレ作るのにっ!いいか、もう一度言うぞ、桜庭と今泉と梶山の汗と涙と根性の傑作だっ!どこからどーみても完璧にわかりやすい資料っ!今更のサラでオマエっ!コイツらの努力無にすんじゃねえよっ!」
昨日だって一昨日だってあいつらがすげえ気合いで何回もチェックして、オレだって手なんか抜かないで何回もチェックしてリテイク出したんだぞっ!それをこの期に及んでえええええっ!ぜいぜいはあはあと肩で息を吐く。オレの怒鳴り声は生徒会室の窓を揺らさんばかりだった。
「うん、ごめん。でも今思いついた」
すーずーはーらああああああああ。キサマっ!と怒鳴る時間は惜しかった。どうせこういうこと言い出したらどうせ鈴原の言うとおりに応援合戦は午後のプログラムに回ることになる。
「だから、さ。おれが実行委員会でちゃんと説明するから。赤ペンで修正いれればいーじゃん」
実行委員会のメンバーといえども口頭の指示なんか聞き洩らすヤツが出てくるんだよ。資料、後で読み返して「あれー?どーだったけかなー?」とかあやふやになる奴なんかザラだ。だから、皆に配布する資料とかプログラム関係は訂正なんてないようにって完璧を期したってーのに。はあ、とため息を零す。零している短い間に意識を切り替える。
「……桜庭」
「はーい、なんすか和成先輩」
「資料に訂正挟み込む。プログラム8藩目の応援合戦な、昼食休憩後の午後イチに変更。訂正プリント挟み込みでいいからすぐ作れっか?」
「簡単ですよー。エクセルで作ってますから入れ替えれば一瞬。ホイ出来た!」
「サンキュ。それ印刷かけて」
「もうやってますー」
「今泉」
「はいっ!」
「もともとの資料のほうのプログラムのほうな、間違うヤツでないように修正してくれるか?ああ、斜め線でも入れておいてくれればいいから」
「了解です」
「梶山、プリントアウトした訂正版、資料の中にはさみこんで」
「わっかりやしたー」
ざざざと、支持だけ出す。後は有能なあいつらがやってくれる。はあ、とため息ついたら後ろから抱きつかれた。
「あっりがとーっ!和成愛してるーっ!」
「愛は要らん。オマエの愛は要らんから、せめてもうちっと早くこういう提案するように心掛けてくれないか?」
どうせオレはコイツの言うこと実行するようにってそういうふうにもう脳味噌が出来あがってんだ。ガキの頃からそういうことばっかりオレはやってきてるんだ。文句を言うのは惰性っつうかなんていうか……。実行プランを立てるための、時間稼ぎみたいなもんだ。あー……。終わってる。
「和成先輩、任務完了でっす」
オレの背後に抱きついたままの鈴原をべりべり弾き剥がしながら、桜庭が言った。
「あー、ホントオマエら優秀で助かった。マジさんきゅーな」
「いいえー。和成先輩の指示的確だから。それより会長〜、そろそろお時間です。会議室のほうへどーぞー」
気がつけば会議三分前。オレも二人の後に引き続いて会議室のほうへと向かって行った。



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