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ACT,3 鈴原向陽

欲しいものってあるだろう?おれの場合あれだ。不思議アイテムで何でも願いを叶えてくれる未来から来た超有名な猫型ロボット。あれがどーしても欲しかった。
机の引き出しとか開けて、本気で足突っ込んだりしたり、押し入れの隙間にどら焼きとか置いておいたらある日ひょっこりやってきてくれるんじゃないのかな、なんて思って実践。で、カビまみれのどら焼き、かーさんに見つかってゲンコツ喰らった。
でも本気で願ったんだよな。どーしても、欲しいって。
そしたらある日、猫型じゃないけどおれの願いを叶えてくれるヤツが転校生としてやって来た。
ソイツの名前は渡部和成。
おれはまあ当時からクラスの中心で、下級生とかも合わせてみんな含めてガキ大将的にワイワイやってったんだよね。隣のクラスとかと戦争ごっことか、下級生含めた探検ごっことか。おれの言いだす突拍子の無いことに、クラスのみんなも下級生のチビどもも半分面白がって半分呆れてたけど、毎日いろんなことやって。で、そこにやってきたのがその和成。おれの夢を次々と現実のものにしてくれちゃったんだすげーだろ。
例えばそーだなあ。空飛びたいって言いだしたら、フツー無理だーとか馬鹿じゃねーとか言うだろ?だけどおれはどーしても飛びたいってすっげーゴネて。そしたら和成が図書室とか行って調べてきてくれた。そんでこの方法ならイケるかもとか言いだして巨大凧の作り方とかメモしてきた。そのメモ見ておれは、みんなにもやろうぜーってすげえめちゃめちゃに言いまくって。そしたらそのうちみんなもだんだん乗り気になってきてさ。大勢でワイワイ言いながら材料集めて実際にでっけえ凧を作って、それだけでもすごい楽しかった。で、おれはその巨大凧に縛り付けられてホントに空飛んだ。ちょっとの間だったけど、ふわって浮いた。すぐに墜落したけど一瞬だけど、確かにおれは空を飛んだ。……墜落して、そんでもって骨折とか打ち身とか捻挫とか大怪我したってオチはついたけどさ。でも飛んだんだ。すげえって思った。和成すげえええええって。コーフンして馬鹿みたいにケタケタ笑った。おれが大怪我したの見て周りの奴らは焦ったり泣いたり心配したりしてくれたけど、な。
「こーちゃん、血が出てるー」とか「腕っ!腕がなんでそんな方向に曲がってんだっ!折れてる折れてるっ!」とか騒がれたけど。そんなの全然気にならなかった。
とにかくおれはあの時、叶うはずもない夢が実現したことにすごい感動して、サイコーの気分だった。
それ以来、おれは何でも和成にお願いした。
「なあなあ和成ー。これ面白そー、やろーぜー」ってカンジで。
和成はなんだかんだブツブツおれに文句は言うけどでもずっと一緒にいろんなこと、やってきてさ。おれはそんな和成が大好きだった。だけど、その大好きが友情じゃなくて恋とか愛とかっていうものだって自覚した時にはどーしよーってさすがのおれも、ちっと悩んだ。だって男どーしじゃんおれら。和成もおれのコト好きだとは思うけど、ええと、恋愛の好きっていうのとは違うってことくらい馬鹿なおれでもわかる。そのくらいはわかる。そもそも和成は「安らぎが欲しいんだよっ!オレだってたまには誰かに頼りたいんだっ!」とか言ってさ、お付き合いするのはいっつも年上のおねーさまばっかり。それも社会人とか大学生とかのきりっとしたカンジのオンナノヒト。別に派手な夜遊びとかしてるわけじゃねえけど、アイツのところ父子家庭だからさ。夜、一人で外にメシ食ってとかしてるうちに出会いとか色々あったらしい。……ちくしょ、おれの気も知らねえで。まあでも、女のヒトと和成が付き合っててもべっつにちょっとチクショーくらいしか思わなかった。だってさー、好きだから、めちゃめちゃ惚れてるから付き合ってるとかいう感じじゃねーんだモン。すげえクールっていうかさあ。なんつーの?向こうから言いよってきたから断る理由なんてないから付き合ってるだけって感じだし。別れても、べつにって気にも留めないふうだったから。来るモノ拒まず去るモノ追わずってさー。だからおれも和成が誰と付き合おうとそんなには気にならなかった。おれたちだってお年頃だからそーゆーお付き合いにもキョーミはあるよねーふーん、てなもんで。あ、でもやっぱちっとショックはショックだったけどさ。
なのに、さ。ちょっとどころじゃないスペシャル大ショーーーーーーックが。
今泉、だ。
生徒会の後輩で現在書記。和成の後を引き継いで次期副会長になるちょっと可愛い顔つきのヤツ。
好き、なんだってさ。あの和成が。
誰かを好きだなんてセリフ、おれ、初めて聞いたぞおい。
マジで惚れてるだ?ベタ惚れってなにそれ?
今までお付き合いしたことのある大人の女の人たち。ムカつくけど夜遅くすげえ甘ったるい匂いさせて帰ってきたこともある。だけど、その時の相手のことだってこんなふうにおれに話してきたことなんかねえぞ?
今までどんな美人と付き合ってきても「あー?いーじゃねえか」とか「べつにー」とかそんなことくらいしか言わなかったくせに。なーにがデートだ。なーにが可愛いだ。この色ボケめ。受験生の自覚あるのかよ。超ムカつく。おれが今まですげえ何回も「和成愛してるー」って言ってきたのなんか「はいはいはいはい」ってスルーしてきやがってくせに。チクショウ。今泉のどこがいいんだ。和成、オマエの好みのタイプって年上のお姉さまだっただろ?なのに真逆じゃねえかよ。しかも男だ。今泉はれっきとした男じゃねえかよ。
男だぜ男っ!
男でいいならおれでもいいだろおおおおおおおっ!
マジで叫びたかった。
チクショウふざけんな。ずっと想い続けてきたこのおれの純情どうしてくれるっ!



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