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今日こそ怒鳴りつけてやろうと思って生徒会室で待ち構えていたら、やってきたのは和成じゃなくて、桜庭だった。
「向陽会長?待ってても和成先輩は来ませんよ。もう今泉と一緒に帰りましたし」
にっこりと、綺麗な笑顔を向けやがった。相変わらず芸能人みたいな男前な顔。だけどどっかでなーんか企んでるような悪人顔っぽいんだよなぁコイツ。正直ちょっとおれは桜庭が苦手だ。次期生徒会長のこいつと、もうすぐ引退だけど現会長のおれが仲悪いとかだと、ダメじゃんとか思うから苦手意識出さないようにしてっけど。なんかいっつもじっと探るように見られてっから、ホント苦手。なんでこんなふうに見てくるんだろーなあおれのコト。おれ、コイツになんかしたかなー?
「あーそぉ?じゃ、おれも帰るわ」
桜庭から逃げる。それにプラスして和成が帰っちまったんならなんかちょっと肩すかし喰らったみたいで不満。おれは仕方がねえから大げさに「あーあ」って言って立ち上がった。だのにその途端におれは桜庭に足を払われた。
「え?」
視界反転して、おれはそのままソファに倒れ込む。
「帰っちゃ駄目ですよ」
がちゃり、って生徒会室のドアの鍵、閉められた音がなんかすごく重々しく響いた。
「そろそろアンタの我慢も限界でしょうけど、オレもね、限界なんすよ。もう十分待ったと思うしねー」
にっこりって、綺麗な笑みが悪魔のそれに見えるのは何故だ?
「は?さくら……ば?」
「会長ってさあ、和成先輩のこと好きでしょう?でももう駄目です。今泉がゲットしましたし諦めてね」
「ちょ、桜庭オマエ何……」
「知ってますよー、アンタの気持ちなんか、オレにとってはすげえわかりやすいですからねー」
知られて、た?
「あ、安心してください。和成先輩も今泉も、向陽会長の気持ちなんか気がついてないですよ。二人ともお互いのコトしか見てないですから」
二人ともお互いのコトしか見てないって、それはそれでムカつくんだけどさ。
「だから、なんだよ」
思わず低い声を出した。……コレじゃおれが和成のコトそーいう意味で好きだって認めてるようなもんだけど、知るもんか。ホントコイツ苦手っていうかなんか嫌だ。
「そろそろ和成先輩のコト諦めてオレのこと見てくんねえかなって。現時点ではオレ、まだ負けてるけど、将来性買ってもらえればオレのほうがいい男だと思いますよーお買い得。しかも昔っから、めっちゃアンタに惚れてるっておまけ付き」
「へ?」
惚れてるって何それ?昔って何だよそれ?
「向陽会長もさー、何でも願い叶えてくれるから和成先輩のコト好きだったとかじゃないんすか?だったらオレでもいーでしょ?オレだってアンタの我儘くらい叶えられる力あるよもう。オレもいつまでもね、アンタ達の後ろくっついて歩いてるガキのままじゃねえし」
「お、い。ちょっと待て桜庭……」
「だからね、考えてくださいよオレのコト」
そう言って桜庭はおれの上に圧し掛かって。……圧し掛かってって、ちょっと待てそれ以上はシャレにならん。
「ちょっ!どけよ桜庭っ!」
「いーやーでーっす!」
なんか茶化した返事だったけど、目が、すげえマジで。顔が、口が……近づいてくるんだけどちょっと、って思った途端にあったかくて柔らかいモンがおれの唇に、触れた。
……キスを、されてるんだって理解した時には反射的に桜庭を殴ってた。
「いってーじゃないっすか!」
「お、おおおおおおおまええええええ何しやがるっ!おれのっ!」
ファーストキスをっ!ってセリフは男の沽券があるからさすがに言えはしなかったけど桜庭には筒抜けだったらしい。
「ファーストキスどころかアンタの初めて関係、今から全部オレがいただきますから覚悟してください。和成先輩への気持ち、とっととさっさと諦めてオレのこと好きになってくださいね?最初は身体だけで我慢しますから。でもそのうちアンタの心もオレに下さいよ」
ここまで待ったんだからもうあと何年待っても同じだしーなんて付け加えて。何それ。おれには桜庭の言っていることが全然全く理解できない。
「は?オマエ何言ってんの?」
「だーかーら。言葉通り、オレ、アンタを押し倒してオレのものにしますからよろしくってことです」



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