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ラッキーだったことに、真っ赤になりながら選挙運動する俺に周りの視線は好意的だった。女の先輩からとかは「かわいー」とか言われたけどええと。それで、結果は当選。よかった。これで和成先輩の前に立てるってほっと一息ついた。
俺と同じく一年から当選したのは桜庭って中学の時のクラスメイトと梶山ってやつだった。二人とも一年生の間では結構目立つ存在だった。梶山は数学コンクールとかの上位入賞者で朝礼の時とかに表彰されてたし、理系の成績がぶっちぎりですごい良い。中間テストも期末テストも、理系の科目については今のところ全部満点。国語とか英語は赤点ギリギリなんだけどね。そのギャップで有名だった。それから桜庭はぶっちゃけたところを言うと顔がいい。芸能人の誰それに似てるなんて話、しょっちゅう聞いた。中学の時に女の子にモテまくってバレンタインデーとかチョコレート大量に貰ってたし。元クラスメイトでも天と地も差があって桜庭みたいに目立つやつは俺のことなんて覚えてないだろうなあって思ってたけど、そうじゃなかった。
「大人しいだけって印象しかなかったんだけど、すげえやる気なー。なに?高校デビュー?」
にやにやした顔で桜庭にからかわれた。ちょっとムカついたけどでも、そうだよね。俺だって和成先輩のことがなければ生徒会役員に立候補なんてしない。クラスの中でいるかいないかワカラナイ程度の存在で、社会に出てから同窓会とかやったところで「アイツ誰だっけー?」とか言われるような影の薄さ。だけど。
「憧れのヒトに近づきたいから生まれて初めて頑張った。悪いかよ」
思いっきり桜庭を睨んだ。誰かを睨むことなんて生まれて初めて、心臓バクバクしたけど。これだけは譲れないから。
和成先輩の近くに行きたいって気持ちは掛け値なしの本気だから。
そうしたら桜庭はからかう態度改めて、すごい真面目に「そっか」って言ってくれた。笑い顔がいきなり柔らかいカンジに変わって。俺はあれ?って思った。
「オレも同じ」
「え?」
「オレも今泉と同じ。とある人をな、追っかけて生徒会入ったんだよ」
これがきっかけで俺と桜庭は仲良くなった。もちろん梶山とも。生徒会一緒にガンバローなーなんて桜庭は言って。それでそのまま、俺と桜庭と梶山で三人一緒に和成先輩達に挨拶に行った。生徒会室には和成先輩と後二人の先輩が既に俺達を待っていた。
で、いきなり和成先輩に謝られた。
「ごめんな」
はい?ってハテナ・マークが俺達三人の頭の上に飛びまくった。
前フリとか何にもなしに、俺達が生徒会室のドア開けて入った途端にいきなり「ごめん」だったんだ。
「ああ、すまん。謝らねえとなってまず思ったから。ええと、だ。最初は自己紹介だよな。オレは渡部和成。副会長に就任した。で、こっちが会長の、」
「鈴原こーよーでっす。これからよろしく」
ひらひらって向陽会長はおれ達に手を振った。その会長を見て、思いっきり和成先輩はため息を吐いた。
「……コイツは役に立たないから、生徒会関係の仕事は俺に聞いてくれな」
「あ、和成ひでえー。役に立たないって何よっ!」
「……実務はコイツは出来ねえから。扇動要員でしかないから」
「なんだよ〜。かいちょー様に向かって和成ってばひっでーひっでえ、おれのコト愛してないのね、ちょーショック」
「阿呆口調すんなみっともねえっ!」
怒鳴る和成先輩をまあまあって抑えたのがもう一人の先輩だった。
「まあ、イベント開催時の挨拶とか盛り上げ役には役に立つから……。向陽はみんなをその気にさせるのはうまいからさ」
「それしか出来ねえんだよ鈴原はっ!なのに頼みの橘、オマエがっ!」
「んー、和成ごめん」
先輩たちだけでわかり合っちゃってるカンジで。何を言いたいのかさっぱり分からなくて。
「あのー、先輩たち?」
三人を代表して桜庭が口を挟んでくれた。
「ああ、すまないな。話戻すと、会長は実務には不向きだ。オレと、あとこっちの会計の橘がメインで仕事回す予定だったんだけどさ」
その後を引き継いだのはその橘先輩だった。
「親の転勤で、来月末に転校するんだよ……。それ決まったの昨日でさ……」
「へ?」
「だから、すまん。会計の子は……」
「あ、はい。おれです。梶山と言います」
「ああ、梶山君。君にはすごい負担になると思うんだけど一ヶ月以内で会計の仕事、全部覚えてほしい」
重々しい口調で、橘先輩がそう宣言した。


続く



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