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「ごめん。待たせたか?」
「いいいいいいえええええっ!お、俺が早く着きすぎちゃっただけでっ!」
先輩はいつも五分前行動。現在十時五十五分。うん、正確です。
「そっか」
じゃあ行こうかなんて誘われて、行った先は海に浮かんでるみたいに見えるガラスのドームが特徴の水族館。エスカレータを下りると、巨大な水槽の中を泳ぐ魚達が見える。照明を落として、水槽の中をはっきり見えるようライトを調整しているからか、魚の表面が鈍く光ってる。鱗とかすごいピカピカで金属みたい。南の海の魚の、色とりどりのカラフルさもいいけどさ。俺はペンギンが特に好きで。陸上だとぽてぽて歩くのに、水の中だとすごい勢いで泳いでいくところとか見ていて飽きない。俺が夢中になって水槽にへばりついて見てたら後ろからくすくす笑われた。
「あっ!ゴメンナサイ。俺、夢中で……」
「いや、その、さ。隣の小さい子と今泉、顔が一緒」
「え……」
隣に居た幼稚園くらいの子。じーっとおっきい瞳で口なんかポカンて開けたままペンギンの動きに目を奪われてる。
うわっ!って思った。俺もこんな顔して水槽の中見てたのか。
顔、赤くなった。館内、薄暗くてよかった。
「ペンギン好きなのか?」
「えーっと、水の中泳ぐと速いのがすごいなって」
そんなこと言ったら水族館の土産物売り場でペンギンのぬいぐるみを「はい、これ今泉にプレゼント」なんて買ってくれて。うわっ!どーしよー、嬉しい。
嬉しいこと、ホントはもう一つあったんだけど。っていうか嬉しいことって範疇なんてぶっちぎりで飛び越えちゃってることがあったんだけど……。え、ええと、ええと、ええとそのー……。やっぱ駄目だ。話せない。
だって、えーっと。
「おーい、今泉っ!和成先輩とのデートどうだった?」
なんて興味津々に桜庭と梶山から根掘り葉掘り的に聞かれてるんだけどえっと、話せません。
どーしても喋らなきゃ、ダメ?
「のろけていいから話せよ。どー?上手く行った?」
なんて桜庭にも言われてるけど……。えっと、面白がってるのも多少はあるかもしれないけど、桜庭も梶山も俺のコトずっと心配して応援してくれたから。頑張って報告しなきゃとか思ったんだけど。えっと。その……ですね?帰りに、先輩が俺の家まで送ってくれて。それでそこで、人通り無くなった隙にえっと……。
うわああああああっやっぱ駄目っ!言えません!ごめんなさいっ!思い出すだけで顔赤くなるし体温上がるしもうどっしようだけど俺、すごい幸せで。あああああやっぱりそのあたりのコトはあのそのー。だから、ね。このあたりで勘弁してよゴメン……。え、ダメ?話せ?
……んんー、じゃ、そのあの、それは俺と和成先輩だけの秘密だから駄目ってことで。
へへへって笑ったら二人から「オメデトーこんちくしょー」って笑いながら殴られた。い、痛いよー……、へへへ。


− ACT,5終わり、 エンディング・影山千紘に続く −




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