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和成先輩はすごいよく寝てた。でも鈴原会長が言った通り三十分くらいで目が覚めたから。せめてこのくらいはいいかなって、コーヒー淹れて、それ、和成先輩に差し出した。
そしたら先輩が。「オレさあ、おまえのこーゆートコすげえ好きだなー」って、いきなり。いきなり言われて俺は心の準備とかそんなのなくて、素のままで、真っ赤になってしまった。
慌てて「な、何お世辞言うんですかもうっ!」なんて言ったところで遅かった。顔赤くなってるの、先輩にバレバレ。好きって単語に俺が期待するような意味なんてないのに。だっておれはもう和成先輩に振られてるんだから。今のはアレだあれだ。後輩として好きって意味。コーヒーのお礼、ありがとうって意味しかない。勘違いしちゃ駄目だ。嬉しがっちゃ駄目だ。普通に、普通にしなきゃ。俺は単なる先輩の、後輩なんだから。
必死になって自分に言い聞かせた。でも動揺収まらなくってヤバイって思ったからだから。
「そ、そういえば会長達戻ってくるの遅いですねっ!俺ちょっと職員室行って見てきましょーかっ!」
って逃げようと思ったのに、生徒会室から出ようとしたところで俺の腕、和成先輩がいきなり掴んできた。
「いっ!」
硬直。顔が赤いなんてレベルじゃない。体温急上昇。掴まれたところが心臓みたいになってどくどくどくどく音立ててる。
「体育祭終わったらオレと一緒に出かけねえか?」
「は、あ?」
「二人で」
「へ?」
「デート的に」
「ええええええええええええええええっ!」
……腰、抜かした。ペタリ、って俺は床にしゃがみこんだ。さ
「オマエからの告白、断っちまってごめんな。だけど、オレさ、オマエ好きなんだよな」
「す、すすすすすすきって……」
「気に入りの後輩って言うのと恋愛の好きって言うのとちょうど中間みたいでさ」
「へ?」
「どっちに傾くか、オレにもわかんねえの。だから、猶予くれねえかなって」
和成先輩の声が言ってること、耳からは聞こえてきたけど俺の頭は全然理解してなかった。猶予って何?ええと、何言ってんの先輩。
「試しで悪い。だけど、もしもオマエの気持ちまだ変わってないなら。オレこと好きでいてくれてるんなら、時間が欲しい」
「か、和成先輩……?」
「断っておいて今更って思われるだろうけど、試しにオレと付き合ってみねえ?」
「た、たたたためしって……」
「多分、好きになりそうな予感してんだけど」
何か言わなきゃって思ったけど、口をパクパク開け閉めするだけで声なんか出なかった。
「駄目か?もう遅い?オレのことなんてふっきっちまった?」
ぶんぶんぶんぶんって首をなんとか横に振り続けて。
「返事は後でいいから。……考えておいてくれよな?」
嘘、だろうって思った。でも現実だった。

文化祭終わって体育祭終わって。
それで、休みの日に和成先輩と待ち合わせをしたんだ。午前十一時で駅前。
……これ、現実何だろうか?俺、なんか変な妄想の世界に逃避してない?
腕とか抓ってみたけどちゃんと痛い。
痛いってことは現実で……いいんだよね?
ぐるぐるぐるぐるしているうちに、和成先輩がやってきた。


続く



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