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悩んでたら、気に病んだのか桜庭が「和成先輩にせまるなら協力するけどー?」って軽い調子で言ってくれたけど……。協力されても無理は無理だと思う。それよりこの先輩後輩っていう和やかな関係も崩しそうで。
だから俺は告白なんてしない。先輩の役に立てればいいし、足手まといになりたくないって言い続けた。
でも、自覚した想いはそんなにあっさりと翻りはしないんだ。寧ろ、秘めれば秘めるほど和成先輩への想いが強くなった。
それに……。和成先輩には実はカノジョって人がいて。その人は大学生の大人なお姉さんで、夜遅くにデートとかしてたの見たって噂流れてショックを受けた。いやショックだったの俺だけじゃないみたいだったけど。
「さっすが渡部副会長かっこえー」とか羨望したりする奴とかいて。
それから女子はさ「いーやーっ!大人の女なんて勝てないじゃないいいいい」とか悲鳴あげたりしてて。
俺はそんなの聞いて……すごく落ち込んで。
で、そのうち先輩がカノジョと別れたなんて噂なんか聞いた日にはすごくほっとして。
感情ぐるぐるぐるぐるして煮詰まって。……もういっそ一気にフラれちゃえってそう思った。
案の定、「俺は和成先輩のことが好きです。ええと、もしよかったらその、付き合って欲しいんですけど。あ、あの一応付き合うって食事に付き合うとかじゃなくて、その、あの、好きっていうのはもちろん、こ、恋人としてっていう……」って告白したら「わりぃ、オレにそーゆー趣味はない」って即答された。
胸がすごく痛んだ。わかってたけど痛くて痛くて死ぬかと思った。だけど俺はなんとか「そーですよね。あー、良かった」って用意してたセリフ言うことが出来た。
だって、俺の告白が先輩の負担になったら嫌だったから。告白したところで態度変えるような先輩じゃないけど。だけど、さ。態度変わらなくても、気持ちはさ、複雑だと思うから。後輩だとしか思ってない俺みたいな男から愛の告白されたら……普通嫌だよね。キモチワルイとか思うよね。俺は男だし。そんなこと、態度に出す和成先輩じゃないけどさ。
「すみません、先輩。お忙しいのにお時間とらせちゃって」
ぺこり、って一回だけ頭を下げた。それで俺は顔を上げる間に表情を作る。
「あ、あのさ、今泉……?」
「断られるの、判ってましたから」
すっきりさっぱりにっこりって感じの笑顔。精一杯頑張って作った。
「あー、そうなの?」
「ええ、だって先輩の好みのタイプと俺と、天と地の差もあるし」
「あー。そうだけど」
「また明日からは普通の先輩後輩ってことでよろしくお願いします」
「あー……、そう、だな。うん、生徒会関係よろしくな」
「生徒総会も近いことですしね。では、また明日」
言うだけ言って俺は逃げた。
失恋、決定。
わかってたけどさ。
泣きそうになったけど涙こらえて。桜庭と梶山は俺のコト応援とかしてくれたから。だから二人に「やっぱりふられたよ」ってそれだけ言って家に帰った。
ずっと大事にしまってる和成先輩のシャープペンシル。返しそびれてお礼とかも言えないままで、ずっと今まで来ちゃったけど。それ言わないでおこう。それで、失恋だけど、これだけはこっそり貰ったままでいようって思った。それで充分だって思うことにして。
なのに。
……視線を、感じる。
和成先輩、なんかこう……めちゃめちゃ俺のコト気に病んでるみたいだ。あーあ、演技、ダメだったかなあ。平気な顔、作ったのに。それ和成先輩にはバレバレだったかなあ。
だけど、文化祭&体育祭の準備で忙しくなってそれに追われて。それどころではなくなって、俺はちょっとだけほっとした。俺のことが心痛で、ってわけじゃないんだろうけど生徒会室で準備関係ガシガシやってる時に、和成先輩がいきなり倒れた。
「うっわ、和成先輩?」
疲れたとかだけ言って、和成先輩は生徒会室に置いてあるソファーにずるずるっていう感じに倒れて行ったっていうか……昏倒?
「おーい、かーずーなーりい?」
向陽会長がひらひらってカンジに手を和成先輩の前で振っても目を閉じたままで。
「あ、あの、大丈夫なんですか!?」
すっごい心配になって、どうしようって思った。
「あー、寝てる。リミッター切れたみたいだな。ま、寝息穏やかだからだいじょーぶだよー。寝てるだけー」
「えっと、保健室とか行かなくていいんですか?」
「ダイジョーブだいじょーぶ。和成は昔っから限界超えると寝るんだよ。へーき」
「そうですか……。ならいいんですけど」
「三十分くらい寝かしてやって。しかたねーから今日はここまでで終わりにしよー。あ、おれ、残ってるからオマエら先に帰っていーよ」
鈴原会長はそう言ったけどおれはせめて和成先輩がちゃんと起きてくれるまで傍に居たかった。でもそんなこと言えなくて、どうしようって思ってた。そしたら桜庭が思いついたみたいに言ってくれてんだ。
「あのですねー、会長。和成先輩寝てる間に職員室に現状までのところ、報告行きましょう。そのくらいだったらオレらでも出来るし。今日は時に一年の子、怪我出しちゃたからセンセー方に生徒会のほうからも一言言っておいたほうがいいっしょ?」
「あー、そっか。そーだな。オマエら行ってくれる?」
「何言ってんですか会長。当然アンタも来て下さいよ、会長なんだから。オレら下っ端だけが報告行ってもハクつかねーっしょ。ここには誰か一人残ってりゃいーからえっと、今泉お願いしていい?」
「あ、うんうんもちろん」
「じゃ、会長とオレと梶山でいっちょ職員室へ報告の旅。行きますよ、ほら会長歩いて歩いてー」
ええええええーって文句言いたげな鈴原会長を右から桜庭が左から梶山が連行するみたいに連れて行った。
あー……、これきっと二人が気を使ってくれたんだな。後でお礼言おう。
おれは、眠ってる和成先輩の顔、見てた。
失恋、したんだけどね。やっぱ諦めることなんて出来なくて。
でも想ってるだけならいいかなって。
先輩の負担になんか絶対にならないように、態度にも絶対に出さないから。
勝手に好きで居ることだけ、許してください。


続く



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