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なんて俺の頭の中は忙しくぐるぐるぐるぐるしていたんだけど、ヒマワリ男はあいかわらずのほほんとした笑顔浮かべて、俺の作ったチャーハン見つめてた。
「私は食べることは出来ないようなのですけれど」
しみじみ語っていくその男。あー、この語り口調までますますストライクとか思うな俺。理性を保てっ!いくら好みのタイプとの出会いが皆無であろうとも、この男と恋に落ちるのは大問題。非現実。
「でも貴方の気持ちがとても嬉しいです」
そう言って手を合わせて「お気持ちだけ、いただきます」って俺に向かって微笑んで。
「とてもいい匂いですね。美味しそうです。貴方の作ったチャーハンを食べることができる人は幸せですね」
そんなことまで言ってくれた。
俺はなんか胸が詰まって、無言のままもそもそ食べた。そんなにさ、美味くないんだよこれ。コショウ振りすぎだし味なんて均一なんかじゃない。パラパラもしていないチャーハンだし。
だけど、宝物見るような目つきでヒマワリ男は俺の作ったそれを眺めてる。
……まいったな。どーしよ。
「本当にこれが運命の赤い糸で、貴方が私の運命の相手だとしたら嬉しいのですがねえ。貴方、実に好みのタイプです」
その言葉にはさすがに俺もぐっと詰まった。米ツブ、喉に詰まるかと思った。さっき俺、似たようなコト考えてましたけど。でもそれを相手から言われるのは大問題。げほげほげほ。慌てて麦茶ごくごく飲んで。ぜいぜい息を吐いてから、叫ぶ。
「あ、あのオレ男ですがっ!」
好みのタイプが男でいいんかアンタ!さっきの自分の思考を誤魔化すみたいに叫ぶ。いや、俺だって同じようにこのヒマワリ男の穏やかな笑顔をストライクっ!とか思っちまいましたが!でもそれ、問題だろ?なあ、大問題じゃないですかっ!男が運命の相手って超大問題ではないですか!ちょっと待って、冷静に考えようよお互いにっ!
「男でも、好みだなあと……思います、はい」
「そそそそそそれって貴方、ええと、ホモとかゲイとかそういう嗜好の持ち主ですかっ!それとも俺の目には貴方男の人に映るんですけど実は違うとかっ!」
一瞬だけヒマワリ男はきょとんとした顔になって。右見て左見てそんでもって上を見て、何かじいいいいいっと考えて。それからポンと、手を打った。
「どうやらそうみたいですねぇ……」
「そうってどっちがそう……」
ホモか、それとも男じゃないか。おおおおおい一体どっちだどっち!
「今考えてみました。どうやら私は女性に対してそういう気にならないみたいですねぇ……」
「ま、まじでしょーか……?」
ホモのほうか!うわぁどうするってかどうしようっ!い、いくら赤いリボンで結ばれているとはいえそれ思いこみでは……。だって記憶がないんだからそんなこと判断できるはずないのではないか、と俺はマジで焦る。
「いえ、覚えていることはありません。先ほど言った通り向日葵の上でふわふわ浮いていた以外に何もわからないんです。ですが……」
「ですが?」
「今、少々想像してみました」
「な、何をですか?」
「こちらのですね、」
そう言ってヒマワリ男が指さしたのはテレビの画面。テレビなんてつけたきりで注視してなかったけど、いつのまにか恋愛ドラマっぽいのがやっててですね、そんでもってカップルさんが海辺でデートみたいなカンジの場面になってたんだよ。多分こっちがドラマのヒロイン。そんでそっちがそのヒロインの友達役かな?女優さんの名前なんてわかんないけど、素敵な水着で素晴らしいラインをご披露なさっておりました。ドラマなんて俺はほとんど見ないけど。うーん、ちょっと眼福かも。胸、でかいし。
「こちらの画面の美しき女性たちと貴方とを見比べてみましてですね、」
う、なんか嫌な予感。
「どちらに心魅かれるかなあと想像してみましたところ貴方のほうが好みだなあと思いまして」
「そそそそそそーですか……」
胸のでっかい水着のおねーちゃんよりも俺のほうが好みって……そりゃホモ決定ですね。
「とすると、記憶は定かではないのですが、私の性的な嗜好は同性愛的なカテゴリーに入るかなあと」
「そそそそそそーですか……」
同じ言葉を繰り返す以外に何ができただろうか。いや出来ない。反語表現。


続く



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