▼18(完結)
腕の赤い痣、未だに残ってるけど。そんなものなんて偶然の産物だ。運命の相手の証明とかなんて思わない。
久慈さんは黙って俺の言葉を聞いた。少しだけ、寂しげなっていうか徒労の色が濃いみたいな……がっかりした表情して。
「でも……、久慈さんがそうやって俺のこと一生懸命探してくれたってことのほうはですね、現実の努力のほうにはすごい感動した。正直嬉しい。また会えてよかったと思います」
きっぱりと、言う。
現実主義なんだ俺は。幻想なんて信じないってほど頭がちがちではないつもりだけど、やっぱりどうしても苦手だし。授業で不思議系の物語文の解説もするけどさ。正直肌に合わないし。
「宇佐美さん……」
強張った久慈さんの顔がほんの少し期待に緩む。だから俺は、俺に出来る最大級の笑顔を向けた。
「久慈さん、俺のこと探してくれてありがとう。あと、それからさ……」
それから言わないけど。
俺はわりと現実主義だけど。
……一生の内で一度くらいなら運命ってモノ信じてもいいかもって思ってる。
それ、相手が久慈さんだからだよなんて、言えないけどさ。
言わないけど思ってる。
でも、信じます、じゃなくて、信じていいかもって程度だよ。
運命の相手だから結ばれるなんて、俺はそんな幻想なんて信じない。
そうだなぁ、もしも俺と久慈さんが結ばれるのなら。それは運命とか宿命とかじゃなくて、これからのお互いの努力だろう。久慈さんが俺のこと探し出してくれたみたいなさ。
そういうほうが俺は好み。
一年間、忘れられなかったのは運命とかじゃなくて単なる恋。
うん、いい加減俺もそれは認めていいだろう。
一年も忘れてなかった。
電話かけるのに指が震えた。
ここまで走ってやってきた。
一秒でも早く会いたかった。
多分、ずっと……もう一度会いたかった。
正体わからないままいきなり消えられて、納得がいかないってのもあったけど、きっとそれだけじゃない。
激好み。好みのど真ん中ストライク。男でも、そう思っちまったのは俺自身。
つまり、これは一年前のあの時にもう既に恋に堕ちてたってことなんだ。
だったらさ、出会いかたが何だろうと、これは世の中に当たり前に溢れている出来事の一つ。
出会って、気になって、恋だと認めたってそれだけの。
世の中に転がりまくってるありふれた話。
俺と久慈さんが出会って恋に墜ちた。
ただそれだけ。
去年はどうであれ、今の久慈さんは現実の人間として俺の目の前に存在している。あのときみたいなユーレイじゃない。もう触れる。触れて掴めるんだから。もう過去の出会いなんてどうでもいいだろ?せっかくなんだからこの先を始めようよ。
好みです。お互いに。
じゃあ、さ。これからはどーかって?
俺はゆっくりを口を開ける。
「久慈さん。俺もですね、貴方がとっても好みです」
笑って、そして一緒に。これからの最初の一歩を始めよう。

−終−
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