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俺がストライクって思ったような穏やかな笑顔を浮かべて。でもそれだけじゃなくて瞳にすごい力があって、視線が痛いくらいに俺に突き刺さってきて。……俺はちょっとドキドキした。ああ、いや。ちょっとどころじゃない。かなり、だ。
「運命の赤い糸で結ばれているのならきっといつかまたお会いできると思っていましたけど。まあ、少しでも早くお会いしたくて」
そう言って久慈さんは少し照れたみたいに視線を流した。運命だから、会えるって。でも早く会いたくて頑張ってくれたって。うわー、って思う。運命とかそういうのは俺はそんなの信じはしませんが。だって現実主義だから。天使も悪魔も精霊も。赤い糸の伝説みたいに生まれた時からの決められた運命の相手とか。星の導きとか何とかかんとか。そんなのにはちっとも心魅かれない。寧ろ苦手。でも、さ。
「今まではですね、そんなファンタジックというか非現実なものは信じていませんでしたけど。生死の境を彷徨って、せっかく何とか生の範囲にとどまれたことですし、今後の人生は私が後悔しないように好きにやってみようかと、そう思った次第です」
俺を探しだせなかったらどうすんですか。そんなこと考えなかったんだろうなぁこの人。ああ、いや、考えたのかな?考えて不安になってもきっといつか会えるって、そうやって諦めないでいてくれた?それで一生懸命に探してくれたのかな。……うわ、どーしよ俺。
すげえ嬉しい。
俺だってさ、この一年ずっと久慈さんのコト考えてた。
名刺に印刷された久慈さんの名前に心臓跳ねた。
電話の声ですぐわかった。
このコーヒーショップまで全力で走ってきた。
それはきっと……。
会いたくて。
きっと。多分そういうことだ。
「……俺はね、久慈さん。ファンタジーとか運命とかそういうのは苦手なんです」
一言一言、間違えないようにゆっくり言う。苦手だよ、運命の赤い糸なんてそんな乙女チックな展開は。
「運命なんて信じない」


続く



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