バンドのメンバー以外、オトモダチ、皆無。しかもカノジョなんていない作る気もない俺はクマちゃんより駄目かもな。
「ここから一緒にやりなおす？ソーヤはせっかくコダワリ持てた上条さんでリハビリして、アタシも今度こそ、一生付き合えるようなカレシ見つけるってどお？」
駄目人間の最初の一歩のリハビリ……になるのかなあ？でもそうだよね。上条さんなんて無視して生きていくことも、出来る。今までだったらそうしただろうな俺は。でも、理由わかんなくてもムカつくとか気持ち悪いとか、そう思ったんならその原因掴むべきかもしれない。
足りないモノがある。俺には。それから俺の歌には。
多分、今まで自分を守っていろんなもの切り捨てて、自分の居心地のいいところにしか居なかったから。だから俺って成長してないんだね。コドモのまま。ハハオヤの顔色窺ってる情けないコドモのままなんだ。いい加減、二十年以上も生きてきてるんだからオトナにならなきゃなあ。キツイ、かもしれない。そんなことしなくても生きてはいける。だけど。
俺が、もう、コドモのままでは居たくなかった。
足りないモノ。それの正体なんかわからないけどだけど。気持ち悪かったりムカつくってことはつまり、そこに俺が引っかかってるモノがあるってコトだ。それ、わかったら俺の歌も。きっと足りないモノ、わかるんじゃないかな。俺に足りないモノ、何かわかったらそうしたら。
歌も、変わるかもしれない。
わかんないけど。
俺は、クマちゃんにもう一回ありがとうって言って、一晩中俺のこと探してくれたらしい一之瀬やヤスさんにも電話かけて謝り倒して、それで。
それで……上条さんに会いに行った。


「昨日はごめん。だけど、あの仁科って女に目を奪われてる上条さん見たらすっげえ腹の底からムカついたんだ」
俺が率直にそんなこと言ったら上条さんは目を丸くしてた。
「……なんだそれ」
呆れかえっちゃったのかもしれない。
でも他に言いようがなくって。
「ぶっちゃけたところ言うとなんであんなにムカついたのかその原因とか理由とか、そんなの俺にもわからなくて」
「へ？」
「クマちゃんに、俺は臆病者で人間関係真っ当に構築してこなくて、衝突するくらいなら諦めて逃げて、初めから手に入らないから仕方がないって諦めて、それでも何とか生きていける位置を探して。そうやって自分守って生きてきたからそれがクセになってるって言われた。だからなんであんなにムカついたのかわからないんだと思う。もしかしたら、俺のこういうところが足りない所なのかなっても思った。上条さんに対してムカツクコトが出来たんなら、執着ってものが俺にも出来たってことで、なら、このムカツク原因わかったら、俺の歌にっていうか俺の人格とか性格変わるかもしれない。わかんないけど、歌って人柄出るし。ええと、それからそのムカつきの原因がわかったら、俺の歌に足りないモノ、掴めるような気がしてる。だから、悪いけどしばらくこんな俺に付き合って。俺の歌に足りないモノ、俺に足りないモノ、それ、わかるまで情緒不安定かもしれないけど、上条さんには迷惑かも知れないけど、俺、上条さんに纏わりつこうと思うからごめん」
理論的に破たんしているような、何が何だか分からない言葉を俺はべらべら告げた。はっきり言って喋ってる俺にも意味不明。だけど、仕方ねえじゃん。俺が、わかってないこと、わかろうって努力しようとし始めたところなんだから。駄目人間の第一歩で、小学生からやり直し、なんだから、さ。
しばらくの間、上条さんは目を白黒させてたんだけど。
「ちょっと、……煙草一本分の時間寄こせ」って言って、それ吸った。俺は無言で上条さんが煙草吸い終わるの待った。煙が吐き出されて、それが全部ため息なのかななんてこと思ったけど。だけど、待った。上条さんが携帯灰皿取り出して、吸いがらそこに入れて。そんで俺のほうを睨むみたいに真っ直ぐ見た。
「とにかく昨日はソーヤはオレの何かにムカついたんだな？そんでその原因見極めるつもりなんだな？……ここまで、これでいいか？」
「うん」
「で、昨日のことは取りあえず謝ってもらったからチャラにしよう。で、問題は、だ」
「問題？」
「ああ……。ムカツク原因探る、か……」
はあ、と上条さんはため息をついた。
「だってわかんねーからさ」
「わからないままにしておいた方がいいと思うんだがな……」
「なにそれ、っていうかさ、そーゆー言葉吐くってことは俺のムカツキの原因、多少なりとも上条さんにはわかってるってコト？」
「……オレの誤解かカンチガイってこともありうるだろうけど、な。恭子見てムカついた、か。ならアレかなとか思っちまうんだけどな」
「あれって何？なんのこと？」
「……言いたくねえ、なあ」
「なにそれっ！俺の歌に足りないものあるって言ったの上条さんじゃん！その足りないモノわかるかもしれないってのに協力くらいしてくれてもいいじゃんかっ！」
俺が怒鳴ってんのに受け流すみたいにため息つきやがって。やっぱムカつくなぁこのオッサン。