▼28

既に何度か来たことがある上条さんの部屋に、俺はさっさと上がり込む。困惑した顔の上条さんはドアにもたれて腕を組んで顰め面。まあ、はっきり言って迷惑だよねわかってる。だけど俺は勝手にベッドにあがりこんで服を脱ぐ。
「プロデューサーのオシゴトだと思ってもらって構わない。俺のコト好きじゃなくても別にいい。だけど、一回だけ、俺の歌のためにアンタをくれ」
「ソーヤ、オマエ……」
「ふられた、それがどうした。そんなふうに俺はきっと上条さんの断りを受け流してる。だから何度でも付きまとって好きだっていうよ?失恋の痛みなんてものが身に沁みていってないからね。上条さんは俺の告白なんか断っても、関係は切れたりしない。きっと俺の歌を何度でも聞きに来る。だって、可能性ってもんがまだ俺にはある。歌でいい。レンアイじゃなくてもいい。俺の歌が上条さん引きつけられるならそれで構わないってそんなふうにしつこく思い続けちまう。だから、徹底的に傷つく必要あるんだよ。出来ることやりつくして、それでも受け入れてもらえなかった。これで終わりだってところまでさ」
一息に、言う。嘘じゃない言葉。本音の本音に近い言葉。それも違うか。本音に嘘を入り混じらせる。
傷つきたいのは本当。
逃げまくりの人生送ってきた俺にはそのくらいしないとホントのところで失恋ってこと、身に沁みないんだ。俺の、気持ちは、上条さんには受け入れてもらえなかった。それ、わからせて欲しい。
それは本当。だけど。
もう先はない終わりだってわかってもきっと俺は上条さんが好きなんだろうな。
ハジメテ執着したモノ、そう簡単に手放せるかよ。
別に身体使って上条さんを手に入れようなんて思っちゃいない。
身体くらいで手に入るような可愛げのある大人じゃないからさ上条さんは。
区切り、付けたいんだ俺は。
逃げないで自分守らないで、失恋っていうの骨の髄まで沁み込ませたい。傷なんて寧ろつけて欲しいくらいの気持ち。そう……俺に、最初に傷をつける人は上条さんがいいんだ、なんて。叶わない想いなら、その代わりに何でもいいよ。何か一つ上条さんから欲しいんだ。だから、俺に傷をつけて。
……嘘じゃない。それも本当。だけど。100%の気持ちで俺の全部がそう思っているかって言ったらそうじゃない。
傷くらいで諦められるんだったらこんな脅しみたいなことしないよね。うん。
こんなこと、上条さんには言わないけど、俺は諦めない自分守らない好きって思い続ける根性見せるって、心のどっかで思ってる。傷なんていくらつけられても、想いは変わらないんだよ。だからいくらでも、拒否なんかされても俺の気持ちは変わらない。なんてさ。
ごめんね、上条さん。
はるかさんみたいに、届かなくても好きだって自分だけで想ってればそれで満足っていうふうに出来ればよかったんだけどね。俺にはそんなの無理で。
でも少なくとも約束通りに好きだって今日以降は二度と言わないから。言葉に出して伝えないから。
だけど、胸の中に、この気持ち、持ち続けることだけ許して欲しい。
ごめんなさい。生まれて初めて人を好きになったんだ。
だから、諦めることなんて出来ないんだよ。

俺は自分からさっさと服脱いで、それで上条さんのベッドにもぐりこんだ。
「やっぱカーテン閉めてても明るいね。男の身体だと上条さん萎える?」
何でも無いみたいに、言う。
でも上条さんはドアのところから動かない。
「誰か別の人思い浮かべられると俺的にもムカつくけど、まあ、やりにくいんだったら女の子とか思って抱いてくれてもいーけど?」
仁科恭子とか思い浮かべられるとマジで怒り狂いそう。だけどそんな気持ち表さないようになるべく軽く俺は言ってみた。上条さんは盛大にため息吐きだして、それから、俺に近づいてきた。
薄暗い、部屋。だけど暗くない。カーテンの隙間から差し込んでくるのは街灯の光。はっきりと、見える苦虫潰しまくった上条さんの表情。
「絶対に、後悔するぞ?」
「そのために、してくれって言ってんの。傷、つけてよ思いっきり。そのくらいじゃないと俺、諦めらんないからさー」
ニヤリってカンジに嗤ったつもりだけど、上手く笑えたかわかんない。どうだろうな?それに笑えたとしても、この暗さじゃ上条さんに見えたかどうかもわかんないね。
上条さんのため息が、肌に触れる。そのため息から伝わってくるのは仕方がないっていう上条さんの気持ち。圧し掛かってくる身体がすっごく重い。すこしだけ、胸が痛む。だけど、そんなの無視して俺は上条さんの背中に手を伸ばす。触れる、肌。引き寄せたら、そのまま上条さんが俺にキスをしてきたけど。
温度がすごく冷たい。
ううん、違う冷たくない。そこまでの感情じゃない。
上条さんの唇も、ため息と同じだ。
仕方がないって、俺に伝えてくる。
嫌だとか、したくないじゃなくて。
義務だから、仕方がない。
そんなふうに、上条さんは俺に触れてきた。
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