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それでも、触れられれば俺の身体は熱くなる。キスも、掌の温度も、もっともっと欲しくなる。
……好きになって欲しかった。無理だって知ってるけど。
こんなふうに抱かれてたくはなかった。仕方がないけど。
だって俺が無理矢理に、頼みこんで抱いてもらってる状況だからね。して、貰えるだけで恩の字ってカンジ?気持ちこめて抱いてなんてそんなのわがままだろう?
それでいいって言ったんだ俺が。後悔するくらい傷つけろってさ。
痛くて、たまらない。
だけど。
馬鹿だね俺。やっぱり上条さん好きなんじゃん。こんなことしたらさ、執着、しちまうじゃねえかもっとずっと。
上条さんも男だからね、その気の無い相手でも抱くことくらいできる。音楽業界に居るんだから、こういう状況なんてきっとハジメテなんかじゃない。男だってきっと抱いたことくらいあるんだろうな。仕事でか本気でか興味でかなんて知らないけど。だって躊躇なく、俺の身体に触れてくる。キスして、胸吸って、下擦って。指入れてかき混ぜてそれから。
俺の中に上条さんの熱が入ってくる。
好きな相手じゃなくても、出来るんだよね。
それとも、ニシナキョウコを諦めきれないでいろんな人に手を出した過去とかあるのかな?……あるのかも。ムカツク。
「キツイなら言え」
「……平気、ちゃんと動いてよ」
勝手に想像したことで勝手にムカついたところだったから、ちょっと不機嫌に俺は答える。それを上条さんは単なる強がりだと思ったのか、少しだけ、声が優しくなった。
「ソーヤ、男は初めてだろ?無茶すんな。ゆっくり動くから痛かったら言えよ」
……そーゆーわかるんですね?そのくらい経験あるんですねアンタは。ぶっちゃけ男も初めてじゃないんですね?ふーん、やっぱムカツク。
「痛いくらいでいいっつってんのっ!ふっきるつもりなんだから無茶苦茶にされたほうがマシっ!」
嘘つきな俺。ふっ切るつもりなんか無いっていうのにね。
「そう……か?」
「そーだよっ!」
……口先の強がりだって思われたのかもしれない。上条さんはすごい丁寧に俺のコト抱いた。同情されてんだなって俺にもわかった。そのくらい、上条さんは優しかった。まるで、恋人にするみたいに、キスとかしてくれて、ゆっくり俺の身体労わるみたいに触れてくる。俺の中で動く上条さん。俺の身体まさぐる指先も。
中途半端に優しいから、泣けてきた。
卑怯な言い草で、半分脅すみたいにこんなことさせてるっていうのにさ。
馬鹿だね、上条さん。優しくなんてしなくていいよ。傷つけてくれたほうがいいんだよ。
なんて、言えば言うほど優しくなって。
俺は、上条さんの背中に手を伸ばして、そこにしがみ付きながら、泣いた。
好きになってごめんね。
嘘言ってごめん。
ホントは諦めるつもりなんてないんだごめん。
心の中で繰り返す。
傷、つけて欲しかったんだ。
今まで、傷つかないようにのらりくらりと逃げてきて、真正面から戦わないで生きてきたから。
俺に、最初につける傷は、上条さんにして欲しくて。
だけど、俺は、傷つかないままだった。
真綿で締められるみたいに、苦しい。だけど、それだけ。傷はつかない。ダメージはゼロ。
……もしかしたら、そっちのほうがもっとずっと惨いかもしれないけどね。
だから俺は、上条さんに傷つけられなかった代わりに、盛大に背中にしがみ付いて、そこに俺の爪痕残してやった。
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