▼30

二人で一緒に吐きだすモノ吐き出して。そんで終わりだった。上条さんは俺から身体離して、ごろんってシーツに横たわって、取り出した煙草、ふかしてる。後悔、しているような顔で。
……俺もね、煙草吸いたい気持ちだけど。前に海行った時に吸わせてもらった煙草、苦いだけだったから。
こんな状況で煙草ふかして咳き込んで涙流したら、どっかの三文小説みたいで嫌だったから。俺は無言で服を着た。
立ち上がった時に、腰が重くて。ていねいにしてもらったと思うけどさすがに身体がギシギシいっていた。
どうしようオレ?このまま無言で帰って行って自分のベッドで膝丸めて眠っちまうこともできる。上条さんにやっぱ諦められないんだって縋りつくこともできる。
だけど俺はどちらも選ばなかった。
「ねえ上条さん。なんか書くモノ……紙とペンあったら貸して」
何だそれって顔されたけど、「ちょっと待て」ってそれだけ言って、上条さんはリビングのほうへと向かって行った。すぐに帰ってきて、「ほら」ってシャーペンとレポート用紙を俺に差し出してくれた。
俺は「ありがと」って短く言ってそれ受け取って、それで、壁に寄りかかって座った姿勢のまま、そのシャーペン走らせた。
No Damage
傷はつかない。つかなかった。……つけて欲しかったのにね。メチャメチャにされて、立ち直れないくらいにズタズタに切り裂かれればよかったのに。
だから諦めきれない。何度でも、繰り返す。諦めずに手を伸ばす。
言わないけど、心の中で想うのは自由だろ?
シャーペンの音だけが、部屋の中に響く。
今のオレの気持ちオレの心。痛みとか、未練とか全部隠さずに、書く。
書いて書いて、いくつかのフレーズを確認するみたいにちょっとだけ歌って。
完成したそれを差し出した。
「上条さん。これ、どう?」
レポート用紙に書きなぐった音符の山をそのまま上条さんに渡す。
「悪いな、譜面とか俺は読めねえんだよ」
視線を、音符に向けたまま上条さんが言う。
「じゃあ歌う。聞いてくれる?」
「ああ……」
息を吸って吐く。深呼吸。オレは歌いだした。
No Damage
俺の歌。


「……スタジオ」
「え?」
「明日一日スタジオキープしとくから。それ音入れまで全部完成させとけ」
「クマちゃんたちみんな呼べって?」
「そうだ。明日で終わらねえようだったら明後日でも明々後日でもかまわねえけど。納得のいくもの作れ。出来たら社長にかけあってくる。それでオマエらメジャーにデビューさせるってな」
「……いい、の?」
「ああ。この歌。オレが世の中に出してやる」
多分きっと今。俺の歌は上条さんに届いたんだ。
才能。歌。
そっちだけは。
俺の歌を世の中に出す。上条さんが俺の歌、認めてくれたってことだよなこれ。
「わかった。出来上がったら連絡する」
「スタジオの手配出来次第、場所とかはメールする。それでいいか?」
「うん、ありがとう」
じゃあまたねってそれだけ言って俺は上条さんの部屋を出ていった。
嬉しいのか悲しいのかわからない。
どうしていいのかわからない。
歌を、認めてくれた。
歌だけは、上条さんに届いた。
でも、上条さんが欲しいのは魂引き付けられるほどの、才能。
俺、個人じゃ、無い。
約束通り、俺はもう上条さんに好きとか言わないし迫ったりもしない。
……苦しいね。うん、苦しいな。傷、つかないけど鈍痛みたいに身体が心がすごく重い。
好きだよ。
言えないから、身体の中に溜まって行く。
好きだよ。
溜まった気持ちが重くて痛くて辛いから俺はそれを歌にする。
好きだよ。好きだよ諦めることなんて出来ないよ。
言わないけど、ね。
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