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レコーディングは順調に終了。俺の歌い方が変わったことにクマちゃん達は驚いてたみたい。歌い方、変わったねってみんなから言われた。うん、変わったのかもしれない。変わったとか変わらないじゃなくてそうだなあ……、きっと俺の中身が俺の歌に全部出てるんだと思う。
音楽で、俺達は繋がってるからきっと全部分かられてる。その証拠に「この歌で、いいの?」ってクマちゃんに言われたし。ヤスさんにも一之瀬にも同じようなコト聞かれたし。あー、バレバレ、だよな。別にばれても構わないけど。
答える代わりに俺は歌った。
好きな人が居て、諦められなくて。だけど、傷なんて付かないまま想い続ける。
前にも後にもどっちにも進めなくて。足踏みしてる。気持ち、停止したままどこにも行けなくて。心の中の想いだけ大きくなって、言えなくて。
そういうの、全部伝わっちゃうんだよね。歌ってさ。
何があってもダメージなんて受けないよ。ねえ、いっそ傷ついたらよかったのにね。
なのに、さ。
上条さんには届かないんだ。
好きになったからって、好きになってもらえるなんてそんなこと奇跡みたいなもんだと思うけど。
まあ、そっちは考えても考えてもどうにもできなくて、足掻くこともできなくて、停滞状態保留状態宙ぶらりん。
それはわかっていたんだけどね。
だけど話が違うって思ったのが一つだけあった。
上条さんが思いっきり俺に向かって頭下げてる。
「ごめん。すまんソーヤ」
「……どーゆーことさ、上条さん?」
「だから、今説明した通り。オマエらのデビューは延期って社長に言われてな」
「上条さんが俺に言ったんだよね。この曲、世の中に出してくれるってさ」
俺の、魂込めた、歌。俺の気持ち俺の本音。上条さんに向かって歌う曲。曲作って、それ例えば何年後かに世の中に出しても意味無いじゃんか!今の、俺の気持ち、今歌ったんだよ?今、だよ今っ!そのうちなんかじゃ意味無いじゃんかよっ!
「今会社の方でな。一大プロジェクト組んで売りだそうってグループがあってな」
「……それと俺達デビュー出来ないのと何の関係があるの?」
「ぶっちゃけ会社に予算が無い」
「は、あ?」
予算ってオカネ?そんなもんでデビュー消えるのか?
俺は呆れてっていうかなんて言うか上条さん睨んだまま眉根寄せた。
「……一応、社長にはかけあった。オレは今、絶対にオマエのこの歌、表に出したいんだってな」
「へー……」
なんかこう……腸煮えくり返っていいのか怒鳴っていいのか怒っていいのか呆れていいのかなんて言うのかわっかんねえなっ!だからめちゃめちゃフラットに声出した。
「社長の言質は取った。会社の金、使わなくて済むなら勝手にやっていいってな」
「は?」
会社の金使わなくて済む?ってどーゆーこと?
「これでもオレはな、それなりに名前の通ったプロデューサー業長いことやっててな」
知ってます。そんなの知ってるけどそれが何?
「だ、もんで。方々にコネだとか伝手だとか、今まで売りまくった恩だとか山ほどあってな。ついでに貯金もそこそこある」
それが何?
「それ、総動員してオレが個人的にオマエらメジャーデビューさせてやるから許せ」
は、い?
まったくもってぜーんぜんわかんねえですけど個人的って何?上条さんが会社とか設立してそこから俺達デビューするとか?え、それも違う?俺達は勝手にメジャーデビューすることになった……って、どゆこと?なんなんだこれ?
「ウチの会社の名前は使って良いってことになった。オレが勝手にオマエ達デビューさせる分には契約その他何でもかんでも問題ない。オレが、個人で勝手に動く。ソーヤのこの歌世の中に出す。売ってみせる」
「は、あ……」
「ただ申し訳ないが、正攻法使えねーから裏技使う。ま、それでも絶対にオマエ達売れるようになるってオレは確信してるから。だからソーヤ、オマエは心おきなく思いっきり歌え。後のことはオレがやる」
俺が呆けている間にも、上条さんはさくさくさくさく話を各方面に通してた。
まずはプロモーションフィルム作るんだってさ。シナリオライターの人とかになんかストーリー性のあるお話作ってもらって、その話と俺らの歌絡めてなんかしらんけど絵コンテっていうの?そういうの見せてもらった。画家みたいな男が絵を描いてて、その絵から女の子が飛び出てくるみたいなストーリー。その画家の部屋にテレビがあって、そのテレビの画面の中で俺達が歌ってるみたいな。
その撮影の手配もざかざか進んでた。舞台美術やってる柿崎さんって人に背景になるセットとか作ってもらうことになったとか。メイクしてくれる人とかええと、音響関係の人とかも名前の結構通った人ばっかりかき集めてきて。しかもプロモのストーリーの中の画家の役に羽鳥先輩まで引っ張ってきて。売れっ子俳優若手ナンバーワン的な羽鳥先輩ノーギャラでって、何か裏技もいいところじゃないの?そのうち売れる予定だけど俺たちのバンドは今現在は無名のバンド。そこに先輩がPVにご登場なんて……それだけでもすっげえ話題になるんじゃないの?
あー、いいの?って羽鳥先輩に聞いたら「ちょっとした恩返し、かな。会社のほうも問題ないよ。ほら『友情出演』って便利な言葉あるからね」ってにっこり笑って引き受けてくれてるし。
い、いいのかな?いいんだよね?
なんか俺のほうが恐縮しちまうんだけど。
だけど上条さんはもう本気モードで各方面声掛けて、本気でって言うよりもはや意地でってくらいに気合いで俺達売りにかかってる。
うーん、すげえ。
プロの人達の集団ってすごいんだ。ものすごい勢いで物事が進んでいく。
だから俺も恐縮ばっかりなんてしていられない。
本気で、歌う。
上条さんが優秀な人材引っ張ってきてくれても肝心の俺達の歌がボロクソだったら本気でみんな力貸してくれないだろ?しかもねえ、これだけの人材の皆さま、全員が全員ノーギャラで働いてくれるって嘘だろってカンジ。上条さん曰く「今まで売りまくって恩を返してもらう」って、えーっと。い、いいのかな?ありがたいけど。えーっと。
でも恐縮するくらいなら俺は全力で歌うべき、だよね。ノーギャラでも上条さんの頼みだからとかじゃなく、俺達の歌にみんなが全力出してもいいよって思えるくらいのすっごい歌、歌うべきだとか思った。
だから、俺はとにかくひたすら歌う。本気で。魂かけて。
気持ち、込めて。
俺の歌が、俺達の歌が、響き渡るようにって。










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