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「いーよいーよ。ナツ君はホント可愛いなあ。羽鳥先輩が惚れまくってるのがホントよくわかるよ」
「か、可愛くなんかないです。こんなこと考えて……」
こんなことって、嫉妬的な感情だよねえ。俺、さっき羽鳥先輩に抱きついちゃったからちょっとむっとした、とかさ。いや、俺だってねえ、俺の目の前でどっかの誰かが上条さんに抱きついたらねー……、すっげえムカつく。ぐらぐら煮えたぎるくらいの嫉妬するし、心ん中真っ黒になりそう。
だけど、嫉妬って言葉の醜さはこの子からは感じ取れない。嫉妬すらキレイな気がする。だってすっげえ可愛いんだもんなー。赤い顔が、先輩のコト好きだって言ってるようなものじゃん。いいなー、こーゆーふうに感情表せたらいいね。こんなふうに、好きな人に、好きだって気持ちが伝わればいいのにね。
「んー、羽鳥先輩もナツ君に愛されてんだねぇ、いーなあ。ホントうらやましーなー。俺もいつか両想いとかにならないかなー、届かないかなー」
気持ちが滅入らないように軽く言ってみる。
だけど、切望する。
俺の気持ちがいつかでいい。上条さんに届いて欲しい。
……無理、かな?でも想うだけならいいよね……って女々しいか。でも仕方無いなあ。フラレテも、気持ちそう簡単に変わらない。
ナツ君が真っ赤になってちょっと気の毒そうなので、そのまま視線逸らして俺は歌いながらすたすた歩く。ナツ君もなんか俯きながら俺の後にくっついてきてくれてるから特に何か話しかけたりしない。
別にね、話さなくてもいい感じだったし。
そのまま二人して無言でステージの扉を開ける。客席の後ろのほうのスペースで、羽鳥先輩達がすっげえ真剣な顔であれやこれやと言いあってた。
「あー、それじゃこうしたほうが動きがいいかな?」
羽鳥先輩がスパっと筆を横に払う。絵を描くっていうよりも、ナイフの筆でイーゼルを切り裂くみたいに。
全部切り裂いて、現状壊して。
鋭い切っ先で、一直線に前に進む。一ミリだって迷わない。
「オーケイ、その案で」
上条さんが名取先輩に向かって頷いてる。
「最終確認するぞ。羽鳥はここで絵筆をこう持って描いてる演技。描くっつっても今みたいに鋭くな。そして一瞬腕が止まる。こんな感じでゆっくりと少女が絵の中から出てくる。それに合わせて視線をこの速度で、ここまで移動。一歩足をこっちへと動かす。少女を抱きしめる。少女が消える。そして、もう一度前を向く……ここまでもう一回通してやってみるか?」
「ああ、そうですね。一回確認してから本番……っと、ちょっと待ってもらっていいですか?」
「ん?なんだ?」
羽鳥先輩がナツ君に向かって手を大きく振ってきた。
「ナーツー、こっちおいでー」
あー、一気にプライベートモードの顔になってるよ先輩。いいけど、ね。ナツ君もほっとした顔になってるしー。
「おお、着替え済んだか。それじゃナツ君こっち来て。ここにな、座っててくれ」
上条さん……、一言二言話すくらいの間は猶予してあげればいいのに……。先輩だってナツ君に「可愛いね、そのドレス似合ってる」とかさー言いたそうにしてるのに、そんな一言すら言わせる隙、作ってあげないし。あー、ま、いっか。
「それじゃあ俺はステージのほう行くからね」
軽く、ナツ君の肩を叩いて俺はステージに向かう。
「あの、その……、宗谷さん。ええと、あの……」
「歌うから俺は。聞いてね」
じゃあねーまたあとでなー、と明るく言う。なんかね、話したいことまだある気がするけどそれは俺の歌を聞いてもらってから。俺はステージのほうへと小走りに向かった。
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