空へのこたえ 質疑
 僕は恭太に会うのがだんだん怖くなってきた。だが、そんなことを思うのは、きっと自分が恭太を信じていないからだ。それを認めるのがまた怖くなって、考えれば考えるほど、僕は恭太を信じることが出来なくなってきた。
 だが、偶然はイタズラに起きるもの。
 目の前に恭太が現れたのは、そのすぐ後だった。ちょうど、補習を終えて学校から帰る途中。
「恭太……!」
 とりあえず声をかけると、肩に手提げカバンを掛けた恭太がこちらを振り向いた。
「あっ、えっと……」
 その瞬間に思い出した。先生は、恭太が家族で実家に帰る用事が出来たから休むと言っていた。なのに今、恭太は一人でここにいる。話によれば恭太の実家は岡山なのだから、今東京にいるのはおかしいはずだ。
「どうしてここに?実家に帰る用事があるって先生言ってたけど……」
 僕が問うと、恭太はうつむいて頭を下げた。
「ごめん。実は、塾の補習と重なってさ。今回のテストは成績が悪かったから、親がどうしても塾の補習のほうに行けって……」
 恭太は、カバンの中から塾のプリントを取り出して、僕に見せた。
「でも、お前もいるし親には学校の補習へ行きたいっていったんだ。でも、塾の補習のほうが時間も長いし、充実してるだろうって言い返されたんだよ」
 あわてて弁解する恭太。
 僕は、黙ってプリントを押し返した。
 恭太は、哀れむような目でこちらを見つめていた。それが無性に気になって、僕はしばらく何もいうことが出来なかった。
 恭太への疑う心は、大きくなっていくばかりだった。
「だったら、なんで先生には嘘をついたんだよ」
「それは、親が……」
 僕はしどろもどろの恭太をにらんだ。恭太は、自分が責められる理由が分からないようだった。最低な顔だ。
「全部親のせいにするのかよ。嘘つくのかよ。なんだよ、言い返せばいいだろ。お前、いちいち親の言うこと全部きいてるのかよ。親に、僕と絶交しろって言われたら、はいはいって恭太はそれに従うのかよ!」
 恭太もだんだん、険悪な顔になってきた。
「違うよ!今回は、本当に自分でもそう思ったし……」
 言ってから、恭太はハッとした顔になった。言ってはいけない本音がポロリとこぼれて、それは誰に受け止められることもなく、互いの心を引き裂いていった。
「言い訳なんてききたくない!親のいうこと勝手にきいとけよ!」
 僕は知らぬ間にその場から走り去っていた。
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