田舎Dream あおい の章
今日は学校がない。台風などではなく、ごく普通の土日、休日だからだ。わたしは毎週土曜日のお昼に放送されるミステリードラマの熱狂的ファン。だから録画は毎週かかさないし、その日は寝坊することもない。
これだけ頑張っているのは、ドラマの主人公が「弁護士」だから。弁護士はわたしが思い描く理想の大人像。もし自分が将来弁護士になれるという確実な保障が得られるなら、これから先五年分のおこづかいも喜んで差し出す覚悟がある。
わたしは、丸く輝く綺麗な弁護士バッヂをつけた、カッコいい弁護士になりたい。
我が家、桜井家は代々の土地を受け継いで、地図をどうやってみても町より山に近いといえる辺鄙な土地、つまり世間一般の人間からいう「田舎」に住んでいる。だからといって方言をバリバリ使ったりはしない。
コンビニも遠いし、ゲームセンターなんて縁はないけど、生まれた時から住んでいるのだから不便することはないし、町に住んで毎日プリクラばっかりとってる人達にあれこれ言われる筋合いはないと思っている。
だってわたしは大きくなったら、弁護士になって、都会に行くんだから。
確かに田舎は嫌いじゃないけど、やっぱり都会には憧れる。だっていろいろなものが手に入るし、ここよりもっと楽しい毎日が送れそうだと思うから。だからちゃんとした弁護士になって、胸をはって都会で仕事をしたい。
こんなこと大きな声で言ったことはない。弁護士になるために勉強が難しいことも分かっている。ドラマの中ほどたやすくはいかない世界だとも。
でも、まわりが将来の夢についての話になると、弁護士として働く自分を思い描いてしまう。それを侵害する権利は、誰にもない。
わたしは弁護士になれるんだ。
「あおいは、弁護士になりたいの?」
ドラマを観ていると、突然お母さんが現れた。不意をつかれたわたしは固まって、ちょっと笑うとごまかした。
「そうじゃないよ。この女優が好きなだけ!」
なんでだろう。いつも思う。
人にきかれると、どうして自分の夢を隠そうとするのか。心に決めていることなのだから、知られたって恥ずかしくもないはず。誰もが持っていて当然のはず。弁護士だって、そんなに変に思われる職業じゃない。むしろ立派なはず。
「どうしてごまかすのよ、誰だって丸分かりでしょ。お父さんも守も言ってたわよ」
そういうとお母さんは洗濯物を干しに行ってしまった。
テレビがコマーシャルに入ると、なんとなく気落ちしてしまった。
夢を誰かにいうことに何故躊躇
「お母さん……」
わたしはドラマを放り出して、洗濯物を干すお母さんの背中に聞いた。
「自分の夢が素直に言えないのって、やっぱり自信がないからだと思う?」
わたしがしょげているのを察したのか、お母さんは振り返ると笑って否定した。
「夢なんて実現するか分からないでしょ。言うも言わないも自由よ。でもね、あえて言うことで自信は持てるし、みんなも応援してくれると思うわ――」