▼03
「この心に手を延ばして連れ去って」




自分の感情が”恋”というものらしいと気がついたのは、貴方が眠っている時だった。
大した怪我もないのに意識だけが戻らなくて、このままもう、二度と眼を覚ましてくれないのかと不安だった。
その何日か前までは、殺し合いを演じていたのにね。
あの時は本気で貴方を殺そうと思った。
貴方を道連れに出来るなんて、俺くらいのものだろう?
でも実際にその場面になったら、貴方を失うことが急に恐ろしくなったんだよ。
夜空に輝く月の様な金髪も、青い氷河を写したようなアイスブルーの瞳も、長い手脚もすらりとした身体も。
貴方を構築する全てのものが、跡形も無く消えてしまうと思ったら。
頭で考えるよりも先に行動していた。
アクシズに押し付けたポッドをガンダムの両手で包み込み、その上から覆いかぶさって。
大切なものを護るように、二重三重に貴方を包み込んで。
それはきっと、母親が胎内に宿る小さな我が子を護るような姿だったろう。
自分の全てをかけて、命をかけても護りたい。
あの時俺は、確かにそう考えていた。
貴方は立派な大人の男なのにね。
でも俺には、泣いている貴方の心が見えた。
たった独りで闘ってきた、貴方の心の叫びが見えた気がした。
…ごめんよ。
俺は子供だったから、貴方の本当の気持ちに気付いてやれず、何度もその手を払い除けた。
その代償が、俺に撃ち落とされることだったなんて。
ホント、貴方は物凄く頭脳明晰なのに、時々とんでもなく馬鹿だよね。
…俺も人のこと言えない馬鹿だけどさ。
二人で一緒に馬鹿ならそれもいいか。
なぁ、シャア。
俺は後悔してないよ。
例え周りから非難されようとも、貴方の傍にいるよ。
貴方と一緒なら、どこででも生きていけるよ。
セイラさんに反対されたらきっと落ち込むだろうけど、その時は貴方がなぐさめてくれよ。
口で言わなくとも、その広い背中でかばってくれるだろうけどさ。
吃驚するだろうね。
あ、でも貴方と違って鋭いから、とっくに気付いてるかもしれないな。
どっちにしろ、明日の朝は気まずい兄妹対決だ。
負けるなよ…?
…ああ、貴方の幸せそうな、無防備な寝顔見てたら俺も眠くなってきた…
おやすみ、シャア。いい夢を。
でも、頼むから朝ご飯はここに運んでくれよな…







白→赤(気分的に)
やっと結ばれた二人というシチュで、甘甘。赤の寝顔を見つめながら白が思うこと。02と繋がっていそうですが、紆余曲折を経て二人で暮し始めてからのお話です。
スポンサード リンク