*眠り王子2
お願いだから・・・


『眠り王子』2


「どうだぁベルの様子は。」
「さっぱりだよ。
1週間前と変わらず、ずっと眠ったままだ。」

自室のベッドで横たわるベルを前に
スクアーロとマーモンが心配そうな面持ちで話していた。
「ったくこのバカ王子が。
コイツ本当に生きてんのかぁ?」
「心臓は正常に動いてるし、体全体を見ても特に異常は見られない。
にも関わらず、こうして眠り続けているのは・・・」
「・・・沢田綱吉かぁ・・・。」
「あの日からだからね。
あいつが死んだあの日から、ベルは目を覚まさなくなった・・・。」
「ベルがキレて、あいつを殺したあの日か・・・。」

ベルは己の血を見ると
我を忘れて視界に入ったものを片っ端から切り刻んでいく。


綱吉も例外ではなかった。


気付いたときにはもう手遅れで
ベルは言葉を失いながらも口の端だけは吊り上がり
まるで使命を無くしたからくり人形のようであった。

ベルはベッドへ運ばれても全く動かなかった。
そうしてそのまま1週間が過ぎ今に至ってる。
ただ1つ、違うことといえば
今は愛情にまみれた幸せそうな笑みを浮かべていること。

「ねぇスクアーロ。
ベルは今、どんな夢を見てると思う?」
「さぁな・・・。」
「僕思うんだ。
ベルはずっと、このまま眠り続けるって。
今のベルは、確かに身体はここにあるけど・・・心がない。」
「もうベルにとっての現実はここじゃねぇのかもな。」
「自分の創り出した架空の世界で生きることが
今のベルにとって最大の幸せなのかもね。
もし今その幸せを取り上げてしまったら・・・今度こそベルは壊れると思う。」
「つまり今のコイツは、
その自分の創った理想の世界にいることで
何とか自分を保ってるってことか・・・。」





現実を受け入れられず

自ら創った入れ物の世界で生きるベル

・・・ねぇ綱吉

綱吉がそこに存在している事実のある場所が

俺にとっての現実なんだよ

例え俺がその現実を壊してしまったとしても

王子が姫の傍にいるのは当たり前だろ?

でもそんなとこより

俺は綱吉を愛してる

綱吉のいない世界なんて世界じゃない

いつまでも一緒にいさせて

俺を、許して・・・


現実を拒んだ王子は今日も
冷たい幸せの中に生き続ける

現実に安らかな笑みを残して


end
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