*咲くことのない花(ムクヒバ)
死ネタ注意!
































なんて明るい月夜なんだろう


*咲くことのない花*


「君に1番似合う花だと思いますよ。・・・桜。」

月明かりだけが唯一の光となっている夜の廃墟。
満開の桜の中に佇み
向かい合っている2人。
もっとも、桜は幻にすぎないのだが。

周りは皆寝静まっていて
呼吸音さえ聞こえてしまいそうなこの場所。

「・・・僕は今すぐにでもここを離れたい。」
「おや。桜は嫌いですか?」
「誰のせいだと・・・」
ボソリと呟かれた言葉に
骸は静かに微笑んだ。
瞳に哀しみの色を浮かべて。

「なら、ここから立ち去ればいい。」

わかってるくせに。
そんなことを言っても動けるはずのないこと。
桜から逃れたいと思う心より
一緒にいたいと願う心の方が遙かに大きいこと。

それに何故か
何故か今回だけ
その透き通るようなオッドアイがとても哀しそうに見えて・・・

吸い込まれるようにその目を見続ける雲雀。
するとそのオッドアイが少しずつ近づいてきて
無意識に
瞳はその眼をすっと逸らした。

「僕は・・・あと残りわずかで亡びる身なんです。」
雲雀の頬にそっと片手が添えられる。
「もう君を見ることも
君と会うことも
こうして君に触れることも不可能になる。」
相変わらず目は逸らされたまま。
「僕はね、君が桜に囲まれている姿が1番好きなんです。」


「だからせめて最期は・・・僕の1番好きな姿を脳に焼き付けたかった。」


ようやく瞳がわずかに動き
夜の光に照らされた赤と青の眼が雲雀の瞳を染めた。

「愛しています、恭弥・・・」

重ねられた唇は、いつもよりも温度が低くて。
ひんやりとした感覚の中に
哀しみと愛情が入り乱れ渦を巻いているようだった。
舌を入れられることはなく
ただ重ねるだけのキスは
長い間2人の時間を止めた。

腰に回された腕に力がこもっていく。
唇が離れると
雲雀はその胸に顔を埋めた。

ドクン
ドクン
ドクン

確かに聞こえる生命いのち の鼓動。
今ここに在ると証明してくれる安らぎの音。

1枚、また1枚と
静かに桜の花が散ってゆく。
雲雀はそれには気付かず
薄れていく鼓動の中で思考回路が途切れた。







「っ・・・・」
朝の日差しに意識が戻される。
でももうそこに桜はなく、先程あった存在も消えていた。
まるで一緒に散ってしまったように。
夢か?
いや違う。
雲雀は片手の指先をそっと唇に当てた。


(だから桜は嫌いなんだ・・・)

散った後が悲しすぎるから・・・


end
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