*融解境界線(綱吉編)
*融解境界線*


「失礼します。雲雀さ・・・あれ?」

生徒の楽しそうな声が飛び交う昼休み。
習慣のように応接室に来ている綱吉は
いつもそこにいるはずの恋人の姿が見当たらず
きょろきょろと中を見渡した。

「いないや・・・ってことは・・・」

空の部屋をあとにし
屋上へ続く階段に向かう。

確信があるわけではなかったが、屋上は雲雀のお気に入りの場所の一つで
そこで昼寝をしてることが多いからだった。

ドアノブを回してドアを開け
視界に広がる暖かな太陽と青空に綱吉は目を細める。
視線を落として灰色のコンクリートに這わせれば
予想通り寝息を立てている恋人。

その影は規則正しく動いていて
昼寝をしているのが見てとれる。
隣までたどり着いた綱吉は
綺麗な寝顔をしている雲雀に暫く吸い込まれるように見入っていた。

そのうち綱吉はあることを思い出す。

雲雀は寝るときも常に
無意識だが周りを警戒している。
故に、木の葉の落ちる音でも目が覚め
そうなるととても機嫌が悪くなると以前身をもって痛感した。

(俺、普通に歩いてここまで来たよな・・・?)

それだけ熟睡しているのかと綱吉が納得しかけた刹那、
不意に少し強めの風が葉をつれて屋上を横切った。
葉は空を舞い、互いに擦れ合いながら綱吉に当たって通りすぎていく。
思わず綱吉は目をギュッと瞑って気まぐれな風と葉が行ってしまうのを待った。

暫くして
ゆっくりと目を開ける。

するとさっきまで閉じられていた雲雀の瞳は開いていて
二人はぴたりと目が合った。
雲雀は驚いたような表情を向けている。

「・・・綱吉?」

微かに唇を動かし
声にならないくらいの小さな音で呟いた。

「・・は、い・・・っあの、お、お起こしちゃってごめんなさい!」
「ずっとそこにいたの?僕は今の風と葉っぱの音で目が覚めたんだけど。」
「本当、ごめんなさ・・・へ?」

意外な返答に綱吉は思わず素っ頓狂な声を上げる。

「聞こえなかったのかい?君は、僕が起きる前から隣に居たの?」
「・・はい、居ました。」
「・・・・・へぇ。」

綱吉から視線を逸らして何か考え事をしていた雲雀は
自分の中で何かが解決したのか、柔らかくふっと笑みを零した。

「あの、俺、何かしました・・・?」

状況が理解できない綱吉の問いかけに視線を戻した雲雀は立ち上がり
「いいや。」と言うと唐突に一回キスをした。
一体何を意味するキスなのか全く分からず
綱吉はただぽかんと立ち尽くしているだけ。

「応接室に行くよ。」

返事をする前に、雲雀は呆然としている綱吉の右手をとって歩き始めた。



雲雀さんが昼寝してて

俺が普通に近づいても起きなくて

それなのに風と葉の微かな音で目が覚めて

それでその前から俺が居たことを知ったら驚いていて。

理由を知りたかったけれど

優しいあのキスで

全てに蓋をされたような気がした。


ただ分かるのは

普段はあまり見せない柔らかい笑顔をしていたということ。



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綱吉の痛感させられた経験とは、れいの病院同室事件です(笑)
このお話の始まりものっそ前のティータイムと被ってますが、
ご愛嬌ってことでお許しを(´v`;)
次は雲雀編です。
雲雀さん視点で展開していきます。
なんで起きなかったかなんて
分かる方は直ぐに分かることですが、
よろしければ最後までお付き合い願います。
では、ここまでお読みいただきありがとうございました。

                                   2008.2.23 純白華





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