(R)終夜 -よもすがら-
終夜 -よもすがら- 「は…ぁっ…」 私の腕の中で、彼は声を殺さない。 「ふぅ…んっ…ぁあ――!」 濡れた性器を無遠慮に押し付け、これ見よがしに腰を振る――娼妓よりも淫蕩なのではないか。 いや。娼妓なんかよりずっと、だ。 娼妓というものは、本質的に男というものを嫌っているから。だから彼女らの嬌態は、けして本物ではない。 「はぁ…あ、んぁ…っ」 じゃあ、彼は。 馬超はなぜ、私に抱かれる? 私に抱かれて、なぜこんなふうに恥じもなにもなく乱れるのだろうか―――? 「趙…雲っ…はっ、気持ち…イイ…」 行為に、好意は別にない。だからといって、嫌悪もないが。 好意でもなく、恋でもなく、愛でもないとしたら。 残るのはいったい、なんなのだろう。 ・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿馬鹿しい。 考えるだけ、ムダだ。 たまたま。偶然。成り行き。世の中に便利な言葉は多くある。 言葉になどしなくともよいことも、多くある。 「は…ぁっ…」 真夜中。草木も眠る頃。 隣に横たわった肢体が蠢く。眉間に皺を寄せ。 「ぁ…う、く、あ…」 浮かぶのは、憎悪、怒り、絶望。……哀しみ――…… 「…馬超!」 「ぁ、……」 「馬超!!!」 「…ぅぁぁあああああああ―――――」 「目を覚ませ!それは夢だ。目を覚ますんだ、馬超!!」 「…ぁ…あ…趙…雲」 「ああ。目が覚めたか。…それは夢だ。ここは私の屋敷で私の寝台だ。おまえの夢は、ここまでは追ってこない」 「趙雲……趙…雲…っ」 卑怯だ。 私のことなどなんとも思っていないくせに。 どうしてそのように、溺れる者のように、しがみつく。 行為に好意などないくせに。 私は便利屋か? 眠れない夜はくたくたになるまで抱いて寝かしつけてやり。悪夢からは目を覚まさせ都合よく慰めて。 「…落ち着いたか」 「……ああ」 「もう少し寝たら、どうか」 「…ああ。そうだな…」 「眠れないならば、寝かしつけてやるが?」 「……はは。なに言ってる。これ以上やられたら俺だとて腰がもたんぞ」 「ならば、さっさと寝るのだな」 「…ああ。そう、しようかな」 ずるり、としなだれかかってくる身体。…重い。 「お前が居て、良かった。趙…雲……」 寝息。…寝言だ。そんな、安心したような顔で。仄かな笑みを、含んだ声で。 卑怯だ。 おまえは、とても卑怯だ、馬超。 行為に好意など無いくせに。どうして、私の心を獲る? ...了 |