2)

帰去来-ききょらい-




目線を絡ませて笑みを交し合いながら、馬岱は懐から小壺を出した。
小壺には香油が詰められている。男同士の情交を助ける為のものだった。
壺を受け取った馬超はふ、と軽く鼻で笑うと、手から壺を滑らせてしまった。金属製の小壺は割れることなく、ころころと床を転がる。
「兄上?」
「俺が何日抜いていないと思っている?悪いが、解すのはあとだ」
馬岱は口をつぐんだ。
では解さずにいきなり突き入れるというのだろうか。
それはあまりに惨い仕打ちといえた。慣れていないとは言わないが、女のように自然に濡れるわけではないのだ。
「兄上…」
下肢を覆う衣を手荒に取り除けられて、馬岱は顔を蒼褪めさせる。立ったままぐいと強引に腰を持ち上げられ――無意識に歯を食いしばった馬岱は、だが次の瞬間ゆるんだ嬌声を上げた。
「ひぃっ…ぁ…!」
快感がぞくぞくと背筋を痺れさせる。馬超は馬岱の後孔に突き込むのではなく、自分のものと馬岱のものをこすり合わせていた。
おそらく激痛がくるだろうという予感に怯んでやわらかくなりかけていた馬岱のものが、安堵と快感にぐんと大きくなる。馬超のものはいわずもがな、熱をもって張りつめていた。
乱暴に突き入れられるかと血の気を引かせていた馬岱だが、思わぬ形での交歓をすぐに夢中で貪りはじめる。
「解しもせず突き入れられると案じたのか?信頼が無いものだな、岱。俺は大事な従弟にそんなむごい真似をする男か?」
「あん……ぁ…ぁ…兄上っ」
たくましく勃起した従兄のものでじかに擦られると、たまらなく気持ちいい。馬岱の先端からはたらたらと先走りが垂れ、それが馬超のものに絡んでじゅくじゅくと水音が響くのが卑猥な刺激となって溜まらなかった。
「岱、凄い、いいぞ…!」
互いの先走りが絡んで時折ずるりと大きく滑るのがまた気持ちよい。離れそうになるたび、馬超の手で性急に再び合わされる。
そのたびにぐりぐりと押し付けられ一層強く擦り合わされて、ますます興奮がひどくなる。
「はぁっ、あっ、兄上、兄上」
「悦いのか?岱…っ」
「い、…いです、………んっ!」
すこし身を引いた馬超が、ふたりの間に手を入れた。擦りあわされていたものが一時だけ離れ、馬岱が無意識に腰を浮かせると、先端をぎゅっと握りこまれて馬岱の浮いた腰は思い切り反った。馬超は手の中に濡れそぼった馬岱のものと自分のものとを一手に握りこんで、じわじわと擦りはじめる。
「ひ…ぃっ、あ、ぁっ」
それだけでも大変な刺激であるのに、馬超は馬岱の腰が浮いたのを良いことに、片方の手をするりと馬岱の腰奥に滑らせた。
馬岱の前は馬超のものと手でぐちゅぐちゅと刺激されながら、後ろにはつぷりと指の一本が潜り込む。
「…ぃ、あ……っあ…にうえ」
「ん…?なんだ、岱…」
馬超は応えるように腰を揺らめかせる。馬超の片方の手のひらの中で馬超と馬岱のものが擦りあわされたままぐりゅりと滑り、強烈な快を生んだ。
馬超はそのまま腰を前後に揺すりながら、馬岱の中に潜り込ませた指を動かす。
「ひぃっ!あ、ぁ…兄上…!も、もう…!」
「…達きそうか」
「は、い。あ、あ」
とぷりと馬岱は少量の精液を漏らした。射精の満足感はもちろんなく、かえって早く完全に出したいという焦燥感が腰を灼くばかりだ。
「…たまらないな」
馬岱の表情、揺れる腰、精にぬめる雄などを見下ろして馬超がつぶやく。
「兄上、兄上」
「ああ。分かってる」
馬超は馬岱の後ろから指を抜き、両手で二人分の雄を握りこみ、繋がったときのように腰を動かす。手の中で互いのものがじゅぶじゅぶと擦り合わされ、荒い息が重なった。
「い…っ、あっあっ、兄上…っ…!」
「…っ岱」
「ぁぁあっっ!」
「、っく…!」
吐精は、二人まったく同時だった。


馬岱はずるずると壁をつたって床に崩れおち、馬超は馬岱の上に倒れ込んだ。
ごろりと床に転げているものに突き当たり、それを拾い上げて馬超は荒い息の下でにやりと笑った。
「次はこれを使わねば、な」
後ろを解すために使う、香油の壺である。
馬岱は太腿に当たる固い感触から、「次」がいますぐであることを知った。
馬岱もいますぐ欲しい。先ほどは解さずに挿れるのかと蒼褪めたが、解す手間も惜しいくらいいますぐ馬超が欲しい。早く挿れて滅茶苦茶に突き込んで欲しい。
馬岱は息を整えながら腕を伸ばす。
「…会いたかったです、兄上」
「俺もだ。岱」
床にもつれて転がりながら、二人は口づけを交わした。


<了>




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