▼護る風・護る翼 その1
※このお話は暗いというか痛いお話です
ご注意ください
でも死にネタではありません




それは一瞬の出来事だった
激しい衝撃に小さな少年の体は宙を舞う
その腕の中には小さな2匹のねずみ





10分前


「なんだか美味しそうな香りがするな〜」
学校帰りお腹をぐぅと言わせながらシュウが言った
「ガガ〜」「ググ〜」
小さなねずっちょシロンとわるっちょランシーンも同じように頷く

道路を挟んだ向かい側にはパン屋があって
出来たての美味しそうな香りを漂わせていた

シュウはポケットをごそごそ探して
小銭を出してみた
それを見て・・・・
「う〜ん・・・3個は無理だけど」
「大きいの1個買って3つに分けるか」
「あんまりいっぱい食べても晩御飯食べれなくなるからな〜」
「それでいい?」と2匹に訊ねる

「ガ!」「グ!」指を1本立てて(多分親指?)OKサイン

「よし!じゃあ、決まりだな!」にっと笑い
「お前らそこのベンチで待ってろよ〜」と元気に言って
ベンチに学校鞄を置いて道路を渡りパン屋へ走って行く

それを優しい目で見送り
パタパタと小さい翼を動かしベンチに降り立つ2匹


5分経過・・・・


「おっせ〜な・・・」とシロン

「多分何にするか迷ってるんですよ」とランシーン


9分経過・・・・


「あいつマジで悩みすぎだろ!!ぱぱっと決められねぇのかよ!!」
ちょっとキレ気味シロン

「う〜ん・・・では、迎えに行きますかね・・・」
苦笑しながらランシーンはそう言う


そして2匹はベンチから飛び立ち
道路を挟んだ向かいにあるパン屋へ向かう

パタパタとシロンとランシーンが道路の真ん中へ来た時

カランカランと音を立ててパン屋のドアが開いた
シュウだ
手には大事そうに紙袋を持っている
そして飛んでくる2匹と目を合わす
「あ!お前ら、待ってろって言ったのに」
「今さ、美味しい出来立てパンが出来るって言うから待ってたんだ」
にこにこと笑い2匹に近づくシュウ




そして・・・・




その時、それは本当に一瞬の出来事だった
制限速度を余裕で無視した暴走車
真っ黒な車
その車が真っ直ぐ2匹が飛んでいる所へ迫ってくる
あんな物に衝突すれば小さなねずみなど一溜りもない

「!!!」
それに気がついたシュウは走る
考えることはしなかった、迷いもしなかった
ただ、守りたい、絶対無くしたくない大切な物だから
手に持った紙袋を投げ出し
2匹に必死に手を伸ばす

一瞬2匹の視界は遮られる
目の前にはシュウの「い」のTシャツ
シュウの胸に抱きとめられ腕に包まれていた

その瞬間大きな衝撃が2匹を襲う
そして宙を舞う小さな少年の体
そのままの勢いでアスファルトに激突
腕にはしっかりと2匹が抱きとめられて
シュウは目を閉じたまま意識を無くしていた


「ガーガ・・ガガ」
白いねずみはシュウの体に触れ声をかけている
体を震わせて・・・

「・・・・・・・」
黒いねずみは走り去っていく黒い車をずっと見つめていた


沢山の人たちがシュウの周りを囲み心配そうに見つめている
頭を打ってるかもしれないからと動かすことが出来ないと話していた
しばらくして救急車が到着する
シュウは病院へと運ばれていく
本来動物は病院へは入れない
でも2匹はシュウの服を掴んで離さなかった




それから1時間後
警察から連絡を受けたヨウコ
ヨウコから連絡を受けて
会社を早退してきたサスケ
2人は蒼い顔をして病室に飛び込む


「あ!父さん、母さん」
頬に絆創膏をつけたシュウがベッドから2人を見て声をかける
先ほど目を覚ましたらしい

シュウは無事だった

擦り傷と切り傷と軽い打撲はあったものの全然元気だった

「シュウ・・・・」
シュウの元気そうな姿を見て、声を聞いて
一気に安堵のため息をついてへなへなと腰を落とすサスケ
ヨウコはポロポロと泣いていた

「あ!!か・・母さん!!泣かないで」
ヨウコに泣かれてかなり慌てるシュウ
母親に泣かれるのが一番ダメージが大きいのだ

「ガガ・・・」「ググ・・・」
ベッドの上にちょこんと座りシュウの顔を心配そうに覗き込む2匹
「お前らにも心配かけちゃったな、ゴメンな」と2匹の頭を優しく撫でる

2匹は気付いていた

シュウが無事だった理由

それは風だった

シュウが車に撥ねられた瞬間
アスファルトに激突する瞬間
風は少年を包み守った
その風が少年の物なのか2匹の物なのかは解らない
でも、風は確かに少年を守護していた
衝撃が凄すぎて完全に守ることは出来なかったが
でも少年は無事だった

でなければ完全に終わっていた・・・


今日1日は検査入院ということで
シュウは1日だけ病院で過ごすこととなった
ヨウコも一緒だ
特別に2匹も許してもらった
・・・というか離れようとしないのだ

ということで明日会社のあるサスケだけが自宅へ帰ることとなった


(2へ続きます)