▼生まれる心(カネシュウ) その2

どれくらい時間が経っただろう
その沈黙はブチブチッって何かが引き千切られる音で断ち切られた
「あだ!!」
ちょっと間抜けな叫び声
その変な叫び声の主はカネルド自身の声だった
翼に結構な痛みが走ったのだ

シュウの手にはカネルドの羽根が3本握られていた

「何をする!!」
かなりお怒りのご様子なカネルド

それを見てシュウが笑い
「ホラ!心あるじゃん」と言う

「・・・・何?」
怒りの顔が疑問の色に変わる

シュウはそのまま続ける
「痛くて怒ってる」
「笑ったり泣いたりするだけが心じゃないだろ?」
「今怒ってる気持ちだって心じゃん」
「お前は心持ってるよ」
「あいつらと一緒じゃね?」

そしてカネルドの手にシュウは少し触れる
「心が無いなんて悲しいこと言うなよ・・・・」

驚いた顔でシュウを見つめるカネルド

「・・・・・・」
「・・・・お前は変わった子供だな・・・・」
初めは何故あんな愚かな子供がサーガなのか解らなかった
何故あんな子供に彼らは心酔しきってるのか解らなかった
シロンとランシーン、彼らの影響もあるのかも知れない
でも・・・確かにこの子供によって
少しづつではあるが心が芽生えてきているのが解る


しばらくシュウを見つめて考えていたカネルドだが
不意にシュウの腰に手を回す
「・・・・そうだな」
「心の話は置いといて、やはりその羽根の礼はさせてもらわないとな」

手に握ってる羽根3本に目をやり
シュウの顔が一瞬にして強張る
「げっ!!えっと・・・俺やりすぎた?」
「ごめんなさい・・・・って言ってもダメ?」

「ダメだな、結構痛かったんでね」
そう言いながらクスクス笑うカネルド

「あ・・・笑っ・・・んぅ?」
カネルドが笑った
そう言おうとしたシュウの唇がカネルドの口によって塞がれる

「ん・・・ふぅ・・・」
シュウの口の中にカネルドの舌が入ってくる
ゆっくりとシュウの舌にカネルドの舌が絡み
シュウの口内はカルネドの舌によって満たされる

シュウはなんとかカネルドから離れようとしたが
腰にしっかり手を回しカネルドはそれを許さない

どれくらい時間が経ったのだろう
ようやくカネルドの口から開放されるシュウ
その余韻を残すようにシュウとカネルドの間に銀色の糸が伝う

慌てて後ろに後ずさるシュウ
「な!ななな!!何するんだよ!!!」
顔を真っ赤にしてパジャマの袖で口を拭く

「羽根のお礼をしたまでだ」
「それに・・・彼らが望んでいる事でもあるからな・・・」
悪戯っぽく笑うカネルド
多分カネルドはこの時(先ほどの事も含め)初めて笑った
長い螺旋の運命の中で一度も笑うことのなかったドラゴンは
小さな少年によって少しづつ変わり始めていた

「さぁ、もう寝なさい」
「随分と遅くなっている、明日は学校とやらがあるのであろう?」
「明日目覚めれば、お前の望む彼らが返ってきている」
「心配する必要はない」
そう言ってカネルドはシュウをベッドへ行くよう促す

しばらく考えていたが確かに時間も遅いので
「うん・・・えっと、お休みなさい」
そう言ってごそごそとベッドに潜り込むシュウ

しばらくするとシュウの寝息が聞こえてきた

その寝姿を見つめ
そして窓の外の満月に視線を移す

その金の瞳は満月ではなくその向こうに見える遠くない未来に向けられていた

シロン、ランシーン、お前達はあの少年を守れるか?
守り切ることが出来るか?
これから起こる未来からあの少年を守るのは容易ではない

もしお前達が私を必要とするならば呼べばいい
望めばいい、その時は私も力を貸そう
私もまた風のサーガの守護竜なのだから・・・・

そう心に伝えながら光に包まれるカネルド
その光はゆっくりと2つに別れ
シュウのベッドの枕元へ降りていく・・・・


翌朝シュウが目覚めると
「ガガ〜」「ググ〜」
いつもの2匹が元気に声をかけてきた
「おはよ!」
そう言いながら2匹を抱き締めるシュウ
いつもはこんなことしないシュウだから
驚きの2匹

そしてシュウはパジャマを着替えて下へ降りていく


そんなシュウを見つめ
少し不思議な感覚に戸惑う2匹
口の辺りに温かな柔らかい余韻が残っていた




おしまい