▼その大きな温もりに包まれて (ウォルシュウ) 

そろそろ雪が降るのではないかという肌寒い季節

その日はクラブ活動と称し
スパークス邸に集まり
土・日通して皆でお泊りになっていた

「なんで僕の家な訳?」と言うディーノの不満の声に

「キザ夫ん家が一番でかいから」とあっさり答えるシュウ

そんな理由でスパークス邸な訳だった

昼間は皆で遊び
夕方にはメリッサ特製の晩御飯とデザートを食べ
楽しい時間はあっという間に過ぎていく

夜も深けてきて
子供達はひとつの部屋に集まり
それぞれベッドの中で会話をしつつも次第に寝静まっていく

レジェンズの面々は
久々に皆で『ワニの穴』にでも行こうかという話になり
皆で出掛けていた

たった一人を残して

「いざとなったら子供達は俺が護るからお前ら楽しんで来いよ」と
皆に声をかけ
一人留守番を決め込んだウォルフィー
ウェアウルフは本来群れる事を好まない
それはウォルフィーにもいえる事だった

スパークス邸の庭にある大きな木の下に座り
温かなコーヒーの入ったポットとマグカップを手に
「ま、たまにはこういう静かな雰囲気もいいな・・・」と呟き
夜空を一人で眺めて楽しむ

「図書委員??こんなトコで何してんの?」
背後から声がした

あからさまに役職を間違える聞き慣れたこの声・・・
「部長〜、俺は体育委員だって」
呆れながら声の聞こえた方に振り向く

そこに居たのは黒髪の少年
風のサーガことシュウだった

「も〜いいじゃんどっちでも」

「よくないだろ〜、この役職は部長が決めたんだし」

「あー、そうだっけ?ごめんごめん」
明らかに寝ボケているシュウ

シュウはウォルフィーの隣にちょこんと座り
「で、こんなトコで何してるの?」と再び聞いてくる

「まあ、たまには一人で夜風に当たりつつ星を見るのもいいかなぁって・・・
それより部長こそなんでこんなトコに来たんだ?」

「トイレに起きて廊下歩いてたら窓の外に図書委員が見えたから・・・」

「・・・・・」
ウォルフィーは『体育委員』という突っ込みをする気も失せてそのまま流す

「もしかして邪魔だった?」

「ん?イヤ別に平気だけど・・・
部長こそそんな格好でこんなトコに居たら風邪ひくぞ」
この肌寒い季節にパジャマ1枚の姿は
傍から見てても寒そうだった

「えー?俺は平気だけど?」
シュウはきょとんとした顔で返事をする

「本当に?」

「うん・・・」
そう言った瞬間
クシュ!!
シュウはくしゃみをする

「・・・・・・
あー・・・もう部長は、仕方が無いなぁ」

ふわり・・・っと
ウォルフィーはふさふさの尻尾でシュウを覆う

「図書委員?」

「俺にはあいつらみたいな翼はないからな、
まあ、これでも風よけにはなるだろ?」

「・・・・暑い・・・」

「ぶちょ〜・・・」

「嘘、冗談」
くすっとシュウは笑う
「あいつらの羽毛も温かいけど、こういう毛皮もいいよね〜」

「毛皮言うな!」

「あはは、ごめんごめん」

「・・・・」
シュウは少しだけ間をあけて呟く

「ありがとう、ウォルフィー・・・」

「!!」
ウォルフィーはいきなり自分の名前を呼ばれ
驚いてシュウを見つめる
「ぶちょ・・・?」

シュウは尻尾に包まれてすでに寝息を立てていた

「ね・・・寝ボケてたのかな・・・」

尻尾から伝わる少年の体温の温もり
優しい寝息と心臓の音

肌寒いはずのこの庭の
この木の根元
ウォルフィーの居るこの場所だけは
暖かかった


おしまい