▼香の標 1(ウォルシュウ)

天気の良い穏やかな風の吹く昼下がり
ウェアウルフのウォルフィーはアルバイトをしていた

土方で土を掘ったり運んだりしている
土に触れている仕事でもあり土属性の彼としては
意外にも自分に合っているような気がする今日この頃

今は少し遅めの昼休みを貰い
メリッサ特製のお弁当を食べていた
水筒の中の温かいコーヒーをコップに注ぎ
一服まったりしていた時

「あれ?体育委員??」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえた

勿論この声を聞き間違えるハズは無い

ウォルフィーは振り向きながら
「お!今日はちゃんと俺の役職覚えてたな?部長!」
と答える

目の前にはやっぱりと言うべきか
シュウがいた

「そんな、いっつも間違えてるみたいな言い方しなくてもいいじゃん!」
口をぷぅっと膨らませて言うシュウ

「いっつも、間違えてるって(笑)間違えてない時のが少ないし」
笑いながらウォルフィーは突っ込んだ
「ところで今日は1人なのか?珍しいなぁ〜」
「またお仕置きか?」

そう、今目の前にはシュウしかいない
2つの小さいねずみも大きな風の竜の姿も何処にも無かった

「お仕置きじゃないよ、体育委員と一緒でお仕事だってさ」

「仕事?」

「うん、まぁでかっちょはそんな大袈裟なものじゃないんだけどね〜」
「母さんの買い物に付き合って荷物もちとか(笑)」
シュウはくすくすと笑っている
「ワル夫はDWCで会議があるとかで出てるし」

「まぁ、たまには1人ってのも良いよな〜」
「実は今日面白いもの見つけて買ったんだよ」
シュウはポケットの中をごそごそして何かを取り出す

「面白いもの?」
ウォルフィーはシュウの手に視線を送る

取り出されたのは
2つの小さなキーホルダー
ガラス製の小さい羽根の形した飾りが付いている
羽根の色は青色と黒色の2種類
ガラス製ってこともあり色は薄めで向こうが透けて見え
光に当たりキラキラと輝いている

この2つのキーホルダーがどんな意味を持つのかなんて言わなくても解る

「コレ、でかっちょとワル夫みたいだろ?」

・・・・やっぱりな

「あいつらにプレゼントしたくてさ〜」
「こんなことあいつらが居る前じゃ出来ないだろ?」
「父さんの肩もみとかでお小遣いもらってお金貯めるの大変だったよ〜」
えへへっと無邪気に笑うシュウ

「部長・・・・なんか今日・・・くさい・・・」
ぼそっと言ってみるウォルフィー

「なんだよーー!!」
顔を真っ赤にしてちょっと照れながら怒るシュウ

「イヤ!そうじゃなくて、何か本当に匂うというか・・・・」
「香るというか・・・・女物の香水みたいな」
慌てて言い直すウォルフィー

今日は確かにシュウからいつもと違う香りを感じる
いつもの甘い香りじゃなく
明らかに作られたような人工的な香り

でも、正直に言うと話題を変えたかった気持ちもあった

この子供と風竜の絆の深さは十分理解している
いや、この子供だけじゃない
グリードーとディーノを見ていても良くわかる
サーガとレジェンズの絆

自分には入る余地もない絆

属性すら違うのに割り込める訳もない

だから、これ以上はこの子供の口から出る2竜の話は聞きたくなかった

「あ・・・それかぁ、やっぱ匂うんだ〜」
シュウは自分の手をくんくん嗅ぎながら答える

「実はキーホルダー買った所にお試し品の香水が置いてあったんだけど」
「ちょっと手に零しちゃって・・・」
「手を石鹸で洗ったんだけどなぁ」
頭をぽりぽり掻き笑うシュウ

「そこまで匂うって訳じゃないと思うけど・・・」
「俺って鼻がいいからな」
ウォルフィーはウェアウルフ
人狼のレジェンズ、鼻は人間の何十倍も良い(と思う)

「オオカミ中年だもんな」

「誰が中年だ!!」

そんな会話をしていると後ろからウォルフィーを呼ぶ声
「お〜い!休憩は終わりだぞ、早く現場に行かないと怒られるぞ」

「あっと、そうだった!!」
慌ててお弁当と水筒を片付けるウォルフィー

「お仕事再開?んじゃ俺もそろそろ帰るわ!じゃあな!体育委員!!」
そう言うとシュウはウォルフィーに背を向け走り出す

「あ!!部長!!この辺、結構工事してて危ない場所多いから」
「気をつけて・・・・ってもういないし!!(笑)」

お弁当から視線を外した時にはシュウの姿はもう無かった

「・・・・まぁ、危ない場所には立て札あるし、大丈夫だよな」

慌てん坊のシュウだから少し心配もあったが
仕事もあるので送る事は出来ない

少しため息をつきウォルフィーは仕事を再開した