▼香の標 4(ウォルシュウ)

ウォルフィーは下を目指す

下へ下へ落ちていく体
時折横壁を蹴りながら
落下速度を落とす

広い空間へ出て
そして下へ降りたつだろうと思われた時


ゴウッ!!っと
いきなり強い風が襲って来た
その風に横へ吹き飛ばされ壁にぶつかるウォルフィー
そしてそのまま下へ転げ落ちる
「痛って・・・・」
頭をぶつけたのか手で頭を摩りながら立ち上がる


そしてウォルフィーはその光景を目の当たりにする

風が渦を巻いていた

その場所に動くことなく円をえがくように、球体のような形をして
何かを包み込むように、護るように風は渦を巻いている

そしてその風の中心には・・・・

「・・・・居た・・・」

シュウだった
眠るように目を閉じ少し宙を浮いた様な状態で
まるで母の胎内に居る赤子のような形をとり
眠っている

多分この風がシュウを護っていたのだろう
シュウは怪我もない状態だ

だがこの風はシュウの纏う風ではないのは解る
なんとなくだが・・・いつもの雰囲気ではない

この風がシュウの風を遮断しているから
2竜にはシュウの場所が特定出来なかったのだろう

「部長・・・よかった」
ウォルフィーはシュウに話しかけるように
風に近づく

ゴウッ!!再び風はウォルフィーを襲うように吹き荒れた
「な!!」
そしてやはり吹き飛ばされる
今度はちゃんと受身を取り下に着地する

「おいおい・・・;なんだっていうんだよ、敵じゃないって」

その風はシュウに近づくものを敵と判断しているようにも取れる

「時間がないんだよ!早くそいつ返してくれよ!!」
早くシュウの無事な姿を見せないと2竜がヤバイ

その時風が光りながら形を成す
その姿はぼんやりと幻のようにしか見えなかったが
6枚の翼を持つドラゴンの姿に見てとれる

つまり『カネルド』がシュウを護っているのだ

2竜とシュウの持つ風が合わさる時に『カネルド』は誕生する
シュウの持つ風にも、というか護る風の中にもカネルドは存在する

そういう事か・・・

「ちっ」
ウォルフィーは舌打ちをする

相手が『カネルド』(完全体じゃないが)だとすると分が悪いにも程がある

「どうすりゃいいんだよ・・・・・」
考えるウォルフィー
多分一番手っ取り早い方法はシュウを目覚めさせる事
そうすればカネルドは多分また普通の風に戻るんじゃないのか?

「多分・・・だけどな」
ウォルフィーは苦笑する
「考えるよりまずは行動だ!」
そしてひとつ深呼吸して


「部長ーーーー!!!」と叫ぶ

「コラ!!起きろよ!!皆心配してるんだぞ!!」

「早く起きないとマジヤバイんだって!!!」

声を荒げて呼びかける


でも反応は無かった・・・・



「・・・・・・・・」
しばらく考えて

「はぁ・・・やっぱコレかな・・・」

思い起こされるのはいつもの白いドラゴンとシュウの会話のやり取り

そしてもう一度大きく息を吸い込む



「シュウーーーーーー!!!目ぇ覚ませーーーーーー!!!」


精一杯のウォルフィーの叫び

ピクン!
シュウの肩が震えた
うっすらと瞳を開けて行くシュウ

その瞬間

先ほどまで強固な護りを誇っていた風は
四散するように掻き消えていった

「え?わわわ!!」
慌てて声をあげるシュウ
シュウは重力に負けるように
下へ落下する

「部長!!」
慌ててウォルフィーが手を伸ばす

ガシッ!!!
ウォルフィーはシュウを抱きとめていた

「あ・・・・え〜と図書委員?」

「体育委員だっての!!」

突っ込みつつもシュウの頭を撫でながら
「本当無事でよかった・・・」
笑顔で言うウォルフィー

多分カネルドの風が消えたことでシュウの風は感じるはず

2竜も多分直ぐにここに来るだろう

「さあ!帰るか!皆心配してるからな」
ウォルフィーは言う

「えっと・・・うん、ありがとう・・・」

「ん?何が?」
ありがとうの意味が解らなくて聞いてみるウォルフィー

「なんだか良く解らないけど・・・助けられたような気がするから・・・」
「だから・・・・ありがとう」
シュウは少しだけ恥ずかしそうに顔を紅くして言う

「・・・・・・・・・」
しばらく黙ってシュウを見つめていたが
フッと笑い
シュウの頭をクシャクシャっとしてウォルフィーは
「別にどうってことないよ!」そう言った

護ったのはカネルドであって俺じゃない
でもその事は言わなかった
そのシュウのお礼を言う顔が可愛くて嬉しくて
その顔をもうしばらく見ておきたかったから


マンホールから外に出ると

遠くの別々な方向から白い影と黒い影が見えた
真っ直ぐこっちへ向かってくる

「やっぱ早いな・・・・」
ウォルフィーは苦笑する

「あ!おーい!!でかっちょ〜!!ワル夫〜!!」
シュウは元気に2竜に手を振る

さっきまでの張り詰めた風は
徐々にだが落ち着きを取り戻しつつあった