▼第五章 
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」


第五章「汚れた王」


アルが部屋から走り去ってから少し経ち、部屋に残った三人は部屋の中で佇んでいた。

「…………」

無言で部屋を後にしようとするワタル。

普通なら、彼を追いかけると思われるが、ワタルは走らずゆっくりと歩いている。

「兄貴、何処に行くんだ?」

部屋のソファーで寛いでいるレキが尋ねる。

すると、頭を掻いてめんどくさそうな表情でゆっくりと振り返る。

「………飯。」

そう一言呟くと、部屋を後にした。

残されたのは、フェイトとレキ。

ワタルが居なくなった事で二人とも困ったのか、お互い見つめあう。

「どうします?」

レキが尋ねるとフェイトは、困った表情で考え込んでしまう。

それを見たレキもまた、考え込み始めてしまう。

この後、どうするのか。アルをどうするのか。様々な事を考えていた。

そして、行方が分からないアルは…

近くの休憩室で一人で座り込んでいた。

「…………」

椅子に座り、黙って俯いている。

すると、靴の足跡が聞こえ始める。

「何や、アル君やないか。どないしたん?」

その声に驚いたのか、アルは慌てて顔を上げる。

そこには、八神はやての姿があった。

驚くのも無理は無い。一人になり無くて此処に居たのに、突然はやてが現れたのだから。

「はやて……」

アルは、はやての名を呟くとそのまま黙り込んでしまう。

そのアルを見たはやては、異変を感じた。

いつも、威信のような物を放ち続け、自信に満ちた表情をしていたアル。

だが、今の彼はそんなものは一切見られず、ただ落ち込んでいるとしか見えない。

「何かあった?話してくれれば相談にのるで。」

と、声を掛けながら隣に座るか、アルの口は開かない。

アルの対応にさすがに困ったのか、少し首を傾げるはやて。

「私でも宜しかったら、お話しますよ。」

待機フォルムだったエクスキューショナーがはやてに話しかける。

突然、話しかけられたもので二人とも驚いた表情で、彼を見つめる。

「エクスキューショナー。お前…」

「ぉ、ええんか?」

すると、エクスキューショナーは淡々と事の全てを話した。

どうして、アルがこうなったのか。フェイトと何があった事。

そして、今回の任務の事までも…

「そうか、そういう事か。ありがとうな、エクスキューショナー。」

「いえ。」

全て話されたことで、はやては一旦顎を押さえて考え込む。

それをアルは、固唾を呑んで見つめていた。

そして、はやてがアルの方を向くと…

「アル君。もっとフェイトちゃんの事も、考えてあげないとあかん。感情的になったりするのは別に構わへん。せやけど、今聞いた通りじゃ、フェイトちゃん。可哀想や。」

先ほど、エクスキューショナーが全て話してくれた事で、自分が何をしたのかが確認できた。

はやての言うとおりだった。フェイトの気持ちも考えられずに、いや。考えもしていないかった。

それに、あんな騒ぎを起こした自分が情けなく思える。

「もっと、相手の事を考えたりしないとあかん。それに…」

すると、突然はやての表情が暗くなる。

「今回の作戦。老王に関しての事や。フェィトちゃんな、アル君が居ないところで色々と調べてるんやで。フェイトちゃんが少しでもアル君の事を理解、支えてあげようと努力してるんや。せやから、アル君も老王に関してもそうやけど、隠していてはあかん!ちゃんと、お互いを理解してあげんとな♪」

突然、暗くなったりしたが、最後は笑顔でアルの肩を軽く叩いた。

「はやて…」

助言を貰い、なんて言えばいいのか分からず、ただ名前を呟く事しか出来ない。

そんなアルに、はやては笑顔で応えた。

「ほら、行っておいで。フェイトちゃん、待ってるで!」

「……ああ。」

そう言い、アルは席を外し休憩室を走り去っていった。

それをはやて、姿が見えなくなるまで見つめていた。

「アル君は、内面的にはまだ子供やな♪」


─────時空管理局 本局 フェイトの私室──


「フェイト執務官。俺も失礼します。」

お互い、軽く会釈するとレキは部屋を後にした。

彼が部屋を後にした事を確認したフェイトは、暗い表情でモニターを展開し通信を始めた。

しばらくすると、モニターの中に女性が映し出される。

「はい、なのはだよ。ッ、フェイトちゃんどうかしたの?」

笑顔で通信で出たのは、なのただった。

なのはは、フェイトの顔を見て、彼女に何かあったのかと心配した。

「うん。ちょっと、ね…」

すると、フェイトも途切れ途切れだが、事の説明をした。

だが、エクスキューショナーとは違い、今回の作戦については話さなかった。

あくまでアルと自分の問題で、なのはに相談がしたかったのだ。

「……そっか。」

フェイトの話しを聞き、なのはは少し考え込んでしまう。

「まぁ、アル君は悪意とかそういうのが無くて、こんな風になっちゃったんだと思う。今まで、私達がアル君と一緒に過ごしてきて、ちょっとした問題とか起こしちゃった時。アル君、どうしてたっけ?」

そう、アルが「A,B事件」から5年間、管理局の拘置所で過ごしていたが、それ以外の時は常になのはやフェイト達と共に居た。

幾たび、問題は起きたりはしたが、彼はいつも何を心掛けていたか。それは、なのはもフェイトも知っていた。

フェイトは、それを思い出したその時。

部屋の扉が開く。

「フェイトォ!」

慌てて部屋に来たのはアルだった。

突然、現れたアルに少し動揺が隠せないフェイト。

「ほら、やっぱり来た♪」

なのはがそう呟くと、自ら通信を切り、モニターを閉じた。

二人への配慮だった。

「フェイト…ごめん。俺、お前の事全く考えなくて…はやてから聞いた。お前が老王について色々調べてるって。俺はそれも知らずに…」

話していると、悔いばかりが沸いてくる。

だけど、此処で話すのを止めたきっと後悔し、彼女に申し訳ない。

だから、嫌でも口を開いて話した。

アルの話を聞いていたフェイトは突然、アルを抱きしめた。

「!フ、フェイト!?」

彼女の方が身長が高い為、アルを包むように抱きしめる。

だが、アルは突然の事に驚きが隠せない。

フェイトは、そのまま口を開かず、強く、強く、抱きしめた。

身体に多少の痛みを感じたが、その時の彼にはその痛みは感じなかった。

ただ、申し訳ないという思いで一杯だった。

「ごめん。」

そう耳元で囁くと、優しく彼女の身体を離した。

「ちゃんと話すよ。今回の事。そして、俺が知る老王の全てを…」


───── 休憩室 ──


アルが走り去ってから少しして、はやてはその場に残って休憩を取っていた。

紙コップを両手で持っていると、向こうからシグナムとリバルの姿が現れる。

「主はやて、ご休憩中ですか?」

休憩室の椅子に座っているはやてに尋ねるシグナム。

「うん。ちょっとアル君がしょんぼりしてたから、ちょっと勇気付けてあげただけや♪」

「アルさんが?」

はやての言葉に、リバルは耳を伺った。

まさか、あのアルが”しょんぼり”するとは思わなかったからだ。

「で、アルさんは今、どちらに?」

「ん、アル君なら、フェイトちゃんのところにでも行ったと思うよ。」

リバルは、フェイトと何かあったのか少し不安を抱いた。

だが、はやては勇気付けたという言葉を信じた。

「どうした、そんなにアル=ヴァンの事が気になるか?」

「いいや、少し変わられたのかなと思ったが、とんだ誤解だったようだ。」

そう言い、近く置いてあった紙コップの山から一つ取り、冷水機から冷水を紙コップに注ぎ込み、軽く一口口に含んだ。

ひんやりとした冷えた冷水が、口の中を冷やす。

「ま、アル君の事なら、大丈夫や。ほな、私達も行こうか。」

「「はい。」」

そして、はやては守護騎士を連れ、仕事へ戻っていった。


─────フェイトの私室──


「そう。そうだったんだ…」

「これで、理解できたかな?ちょっと難しく思えるけど…」

一通り話したアル。だが、フェイトは理解できたのか少々不安だった。

自分でも、老王については分からない事が多い。

だが、自分が知っている事は全て、伝える事は出来た。

「老王とは何なのか、何故アルやヘリン、リバル達にそれが受け継がれているか…」

「ごめんな、俺が知っていて話せるのはこれくらいなんだ。許せ…」

と、軽く頭を下げるアル。

「ううん。私もただ、アルの事について色々と知りたかっただけだから。…ありがとう。」

微笑みながら礼を言う。

彼女の笑みを再び見れて、アルも少し安心したのかほっと胸を撫で下ろす。

そんな彼にも、自然と笑みがこぼれる。

すると、突然お腹から大きな音が部屋に鳴り響く。

突然の事に、アルの頬が急激に紅く染まる。

「ご飯…食べる?」

かなり恥ずかしそうな表情で、食事に誘うアル。

「うん♪」

恥ずかしそうな表情をしていたアルを見て、少しニヤけながら力強く、笑みを浮かべながら答えてくれた。

だが、その時アルの頭の中に重要な事を思い出す。

「ぁ!」

「どうしたの?」

しまった。ような表情を浮かべ、悔いる表情をするアル。

それに対して、何事かと尋ねるフェイト。

「ヘレンと一緒に食べる予定だったが、ヒカリとの対談で一人で食べさせたんだ…」

「なら、急いで行こう!」

ヘレンを思い出したアルは、フェイトと共にヘレンが居る食堂へと急いでいった。




次回予告

「役割」






あとがき

ご愛読、有難う御座います。
前回は、騒がしかったですがなんかと、今回で収めましたw
オリジナル要素は、少なかったかなと思いますね。
はやてやさり気無く、シグナムも出てきましたし。
今回はあまり、レキとワタルは出てきませんでしたが次回は、彼らを主にしようかなと思います。
で、今回老王について話が出ましたが、老王については、設定集にて色々と見て調べてみてください。
時間がありましたら、また更新したりしますねw
とにかく、原稿やら更新やらでヘトヘトですw

とにかく、次回をお楽しみですぅ〜w
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