▼第十一章
「魔法少女リリカルなのはStrikerS 外伝 Immortality Emperor」第十一章「思惑」
─────第34無人世界マウクラン──
エイムズの調査から帰還し、翌日彼は、ルーテシアとメガーヌが暮らしている世界マウクランに訪れていた。
陸士部隊の制服を綺麗に着こなし、四角いカバンを片手に持ち、彼女達が住んでいる家に向ってゆっくりと歩いている。一直線の道の周りには、綺麗な草花が並べられている。
弟の代わりに訪れたのは、二度目の彼。まだ、自らは彼女達に会いにいけない弟の代わりに、彼は会いにきた。
だが、そんな弟の頼みを彼はすんなりと受け入れ、今ここにいる。「J,S事件」以降の弟の心の傷は、まだ癒えぬままだった。傷の根源の「戦闘機人事件」が解決した今、余裕という時間を得た弟は、長い時間を掛けてゆっくりと心の傷を癒している。
そんな弟から、ミッドの赤ワインを一つ受け取り、彼女達が住む家の前に到着した。立ち止まり、玄関ドアをノックする。
すると、紫色の髪をした少女が扉を開けて現れる。
「ぁ、ワタルさん。」
「ぉ、ルーテシア、久しぶりだね。えっと、お母さん居るかな?」
ルーテシアは、ワタルの顔を見つめながら会釈して挨拶をする。
扉の向こうを覗き込み、その場にメガーヌが居るか確認し、彼女の居場所を訪う。
「居ますよ。ちょっと待ってて下さいね。」
ルーテシアは、彼にそう言い残すと家の中に戻っていくメカーヌの元に向った。少しばかりの静寂が彼の周りを包み込む。待つことが苦手な彼には、少し辛いものがあった。
少しすると、ルーテシアが戻って来ると
「どうぞ、上ってください。リビングの方に居ますので。」
頭を下げて礼をし、中に入る。靴を脱ぎ、ゆっくりとしたテンポでリビングに向う。二度目の訪問の為、もう家の中については分かっている。
玄関からリビングに入ると、車椅子に座りながら可能な限り家事をしているメガーヌが居た。こちらに気付くと、振り向いて微笑みを浮かべる。
「お久しぶりです。メガーヌさん。」
「いらっしゃい、ワタル君。」
深く頭を下げると、メガーヌがテーブルと椅子が置かれた場所へ手招きする。それに従い、椅子へ腰掛けてカバンを床に置く。
メガーヌは、キッチンへと向い茶葉が入った透明のポットを持ち、ティーカップへと注ぎ込む。そして、ミルクが入った小さな容器を用意し、二つを小さなトレイに載せる。
「ルーテシア、お願い。」
娘の名を呼び、家の奥から少し駆け足で母の元へ来て微笑みながら頷くと、トレイを持ちテーブルへ運ぶ。
「どうぞ。」
「ぁ、ありがとう。」
ティーカップに入った紅茶から、ジャスミンのような花の香りが広がる。礼を言うとルーテシアは、笑みを浮かべると再び家の奥へと戻っていった。
容器を手に取り、ティーカップの中にミルクを注ぎこみ、ミルクティー色へと変わり、一口口に入れる。濃厚な味が口の中に広がり、驚いた表情でティーカップを見つめる。
すると、メガーヌがテーブルの向こう側に移動し、片手には水が入ったコップを持っている。
「美味しいミルクティーですね。」
「そう?ありがとう嬉しいわ♪」
ミルクティーの味を評価しすると、メガーフは嬉しいそうに笑みを浮かべる。
だが、会話はここで止まってしまう。弟と同じ部隊に所属していた先輩。彼女も彼に対する何かあるだろう。「戦闘機人事件」は解決されたが、部隊で生き残ったのはレキと彼女だけなのだから。
ワタルはふと、レキに渡されたミッドの赤ワインの存在を思い出す。慌てて、床に置いていたカバンを手に取り、中から赤ワインを取り出しテーブルの上へと置く。
「弟から預かったものです。あなたに渡して欲しいと。」
何処でもありそうな赤ワインのボトルを彼女の近くへ手で押して移動させる。メガーヌは、両手でそれを手に取って見つめると、嬉しいそうな顔でそれを見つめ続けた。
見つめ続けるメガーヌに、部隊に所属していた彼の姿が脳裏に鮮明に描かれる。
「相変わらずお酒、好きなんだ…」
その瞳には、涙が込み上げられていた。嬉しそうな表情で泣いている彼女を見つめるワタルには、見ていられないものだった。
メガーヌは、ボトルをテーブルの上に置くと、開いた窓を眺める。窓からは、心地よい風が家の中を駆け巡り二人の髪を靡かせる。
「早く、彼と話がしたいです。色んな事を。だから、待ってます。そう伝えといてください。」
彼女につられ、ワタルも窓の向こうを眺め、そしてゆっくりと頷いた。
「此処は、本当に綺麗な場所ですね。こうやって、眺めているだけで、心が安らぎます。」
「そう、此処は綺麗だわ。だから、彼にも此処を見て欲しいの。」
ワタルは、熱いミルクティーを手に持ちながら、メガーヌとゆったりとした時間を過ごした。
そんな彼女は、レキとの再会を首を長くしながら待ち続ける。どんなに時間が掛かろうが、彼女は彼を待ち続ける。
─────ミッドチルダ 地上本部──
廊下を歩く一人の男。ワタルとは違い、陸士部隊の制服を適当に着こなす。適当とは言え、着こなしているとはあまり言えるものではない。
彼が向う場所。それは、データの整理や過去の情報を得るためのデータベースだった。そこでする事はもちろん、エイムズでの調査のデータ整理。そして、ワタルと共に戦った謎の悪魔レイルとの戦闘データの解析。
真剣な表情をし、廊下を歩き曲がり角を曲がろうとした時、向こうからこちらに曲がろうとする女性とぶつかりそうになる。
「!?」 「わっ!す、すみません。」
二人は慌てて、ぶつかりそうな身体を後ろへ下がらせる。女性は、驚いた表情をしながら頭を下げて謝る。
だが、彼には彼女を知っていた。
「ん、ギンガさん?」
「ぇ、レキさん?」
二人とも、唖然としてその場から動こうとしない。突然の再会に、驚いている。そして、ふと我に還る二人。
「お久しぶりですレキさん。今から何処に?」
再び軽く頭を下げて挨拶をし、これから向う場所を訪うギンガ。
「えっと、前日調査から帰って、その調査結果を纏める為にデータベースに行こうかなと。」
頭を掻きながら話すレキ。正直、急いでいた彼には、ギンガとの会話も良いが話すならデータベースで話したいなと考えていた。
そして、レキは彼女が今暇なら、データベースに誘おうと考え付いた。
「今暇なら、一緒に行きません?此処で話しているのもあれですから。」
「そうですね。今、休み時間ですから、付き合いますよ。」
レキの誘いを受け入れたギンガ。笑顔でそれに応え、ゆっくりと二人はデータベースへ向って歩き始めた。
急いでいるせいか、レキの方が一歩前に出て歩いている。
「にしても、ワタルさんとは一緒に居ないんですか?」
ワタルの話になると、一瞬だけ身体を振るわせた。メガーヌのところを訪れている彼、脳裏にはワタルとメガーヌが頭の中に過る。
それを思うと、自然と顔が強張る。
「兄貴は…メガーヌさんのところに行っている。俺の代わりに。」
それを聞いたギンガは、一瞬驚いた表情をし少し俯いてしまう。それは、無理もないのかもしれない。死んだ母と同じ部隊の所属する者なのだから、それはレキも同じではあるが、彼と彼女とは違う思いを抱いていた。
それとは違い、もとひとつレキ本人が行かないという事には驚きは隠せなかった。彼がどれだけ辛い思いをして「J,S事件」を戦い抜いたのを知っている彼女だが、本人が会いに行かないとは考え付かなかった。
「まだ、会う勇気がないんですか?」
そう訪うと、データベースに到着する二人。黙って扉を開けてレキに続いてギンガも中に入る。
レキは、ひたすら黙った。無視している訳ではない。だが、なんと彼女に言い返せば良いのか困っていた。だが、勇気がないというのは正しかった。今、彼女に会って良いのか、会う資格があるというのか、偽の姿だとは言え彼女の相方と言っても言いクイントさんを殺した自分が会う資格があるのか?レキはそれに戸惑っていた。
そして、レキはギンガにこう言い返した。
「怖いんだよ。」
─────時空管理局本局 無限書庫──
アルは、昨日の就寝前に本に興味深いものが記されているのを発見した。
それは、バンプ・クライアントのもう一つの名。今で言うニックネーム、あだ名というものだ。過去にフェイトがユーノに頼んだものは、魔界やバンプ・クライアントなど決して、その名では検索しなかったとユーノは今朝そう応えた。
だが、今彼は此処には居ない。用事がある為、無限書庫が居ない今、自ら此処に行き検索するしかないと考えた。とは言え、アルは検索魔法は得意ではない為、誰かに頼むしかない。
アルは、IDカード確認と音声入力を済ませ、中に入った。中は無重力に近く、身体を宙に浮んで辺りを見渡す。
すると、私服姿で可愛らしい洋服を着ている女の子を見つけ、その子に向う。
「ヴィヴィオ!」
「ぁ、アル=ヴァンさん!」
アルは女の子の名を呼び、振り向く彼女の肩を借りて静止する。
「悪いね、せっかくの休日なのに。」
「ううん、アル=ヴァンさんの頼みですから、全力全開で調べちゃう!」
少女にしては、張り切った表情と声で応えるヴィヴィオ。それを聞いたアルは、頼りがいがあると笑みを浮かべながら感じた。
そして、アルは昨夜本に記されていた場所を開き、ヴィヴィオに指を指してそれを見せる。そこに記されていたのは、「魔王ブレイ・ガノン」
「ブレイ…ガノン?」
「そうだ。その名で絞込み検索をして欲しい。」
すると、軽く深呼吸すると、魔法陣を展開するヴィヴィオ。アルは本を閉じ、腕を組んで検索が終わるのを待った。
「絞込み検索、魔王ブレイ・ガノン。」
彼女がそう呟くと、検索魔法が始まり膨大な情報が辺りに現れる。それは、アルが想像していたものとは桁違いの量だった。
「生誕や亡くなった年は不明。魔王バンプ・クライアントの真の名。破壊と再製を繰り返し、アルデバランを魔界へと創り上げた悪魔の王。大地を利用して生み出す兵器を生み出し、部外者からの侵攻を退けた。ゲヘナ語で大地の騎士を意味する「グランベリアル」と呼ばれたインスタント兵器とその製法は、3000年前ではオーバーテクノロジーとして考えられる。そして、その製法は今では物質変換魔法として応用されている…」
ヴィヴィオが読み上げたものは、今まで入手してきた情報の中では一番重要とされる情報だった。
だが、ヴィヴィオが読み上げた情報は、検索結果のほんの一部でしか無かった。それを見たアルは、今までに無いほどの笑みを浮かべた。
「これは、何かが動き出しそうだな。ありがとう、ヴィヴィオ。」
そう呟くと、笑みを浮かべながらヴィヴィオの頭を優しく撫でた。アルの顔を見たヴィヴィオには、彼の表情は希望と何かを企んでいるような恐ろしい顔をしていた。
「(待っていろよ、バンプ・クライアント!)」
次回予告
「越えるべき壁」
あとがき
どうも、ご愛読有難う御座います。
今回は、前章の翌日の話。相変わらず、ヘタレレキは健在です。
いつになったら、ちゃんとしたレキになるのやら。今作で立て直してあげないとw
今回は、前章より量は少し上回ったと思います。あれ以上減らしたら、結構まずいような感じがしますね。
次回は、データベースでレイルとの戦闘を描きたいですね。突然事後になりましたから、あの空白を次回で描きますのでお楽しみに。
ほのぼのとした感じの話は、いつになったら書けるのでしょうかww
では、次回もお楽しみに。